カメラマンが撮影の続行が無理な状況になったので、今回のインタビューは中止になった。
「今回は初めての仕事だから仕方がない。しかし、今後はこういうことがないようにするだよ。カメラマンに噛みついたりしないように」
矢羽は立神に言い聞かせた。
「わかったよ。でも、あれはワイルドさを見せてくれって言われたからやっただけだからな」
立神は不服そうだ。
「ホホホ。まぁ、スターはこれぐらい型破りじゃないとな」
矢羽は立神の態度を気に入っていた。
(型破りと言えばそうだけど、スターとは関係ないように思うけどなぁ)
秘書の木暮は大丈夫なのかと心配していた。
「じゃあ、今日はこれで終わりだ。また明日は別の仕事があるからね」
矢羽が言う。
「え、また明日もなんかあるのか?」
「そうだよ。君はこれからどんどんスターにならないとダメなんだから、忙しくなるぞ」
「えー、面倒だな」
「そう言うな。スターになればなんでも思い通りになるんだから、いまは辛抱だ」
「そうなのか? でも、俺はそんなのに興味ないんだけど」
「ホホホ。いまは興味なくても、実際にそうなったら、やって良かったと思うようになる」
「そんなもんかなぁ」
「じゃあ、腹も減っただろう。焼肉でも食べに行こう」
「おっ、おっさんわかってるな」
「コラ、社長のことをおっさんって言うんじゃない」
木暮が立神に注意した。
「ホホホ。いいじゃないか。これぐらいの方が元気があっていい」
(いや、元気とかそういうことじゃないと思うんだけど……)
木暮は思いながらも、矢羽に向かって言うわけにはいかなかった。
三人は焼き肉屋に着いた。
「さあ、ここだ。私の行きつけの店だ。芸能人が出入りしていることでも有名な店だよ」
矢羽が言った。
「へー、なんか高級そうだな?」
立神は店構えを見て言った。
「ああ、高級だよ。そんじょそこらの連中では絶対に来ることができない店だ。ホホホ」
「それだったら、うまいんだろうな」
「ああ、うまいよ。さあ、入ろう」
三人は焼き肉屋に入った。
「あ、矢羽社長。いつもありがとうございます」
矢羽が入ると、揉み手をしながら店長が出てきた。
「うむ、今日はいま話題のライオン少年を連れてきたぞ」
矢羽が立神を紹介した。
「ああ、これが噂の。焼肉を食べている姿をテレビで観ましたよ」
店長が言った。
「そうか。ここでも彼に腹いっぱい食べさせてやってくれ」
と矢羽。
「もちろんです」
店長はホクホク顔だ。
立神が来たと宣伝することで、多くの客が来ると思ってのことだ。
三人は席に着いた。
「私と木暮はビールを飲むが、君はウーロン茶ぐらいにしておきなさい。昔ならビールぐらいは飲ませてやってたんだが、いまは世間がうるさいからな。ホホホ」
矢羽はそう言うと、生ビール二つとウーロン茶を頼んだ。
飲み物が出てくると同時に、肉が盛られた皿が出てきた。
「さあ、遠慮はいらない。どんどん食べなさい」
「おう、食うぜ」
立神はそう言うと皿を持って、鉄板に肉を全部流し入れた。
「え、全部一気に行くのか?」
木暮は驚いた。
「ガハハハ。チビチビ食ってられないぜ」
「そ、そう」
(この皿一枚で一万円はするのに、もっと味わって食えよ)
木暮はそう思ったが、立神にそんなことを言っても仕方がないのはわかる。
「うまそうだなぁ。どれどれ」
立神はまだ鉄板に乗せて、ほとんど色も変わっていないような生の肉を箸で取り、口に入れた。
「ガハハハ。こりゃうまい!」
「ホホホ。君がいままで食べた焼肉で一番だろ」
「これは確かに一番かもなぁ。鬼塚と行ったところもかなりうまかったけど、ここの方が上かもな」
立神は満足そうにガツガツと食べた。
「もっと焼かないと」
木暮は言ったが、そんなことは立神には関係なかった。
(まぁ、ライオンだから生の方が普通なのかな)
立神はあっと言う間にすべて食べ尽くした。
「おい、もっとじゃんじゃん持ってきてくれ」
矢羽が店長に言う。
店長は嬉しそうに、肉を運んだ。
「ホホホ。この豪快さがたまらないねぇ。昔のスターはみんなこんな感じで豪快だったもんだよ」
「は、はぁ」
木暮は矢羽の言っていることにたまに同意できないことがあったが、反論することは一切なかった。
「おっさん、そのビールってのはうまいのか?」
立神が矢羽に訊いた。
「あ、これか? うまいよ。君も大人になったらわかるようになる」
「へー、そうか。ちょっと俺にも飲ませてよ」
「いや、それはマズい。まだ君は未成年だろ」
「いいじゃん、別に」
立神は矢羽から無理やりジョッキを取ろうとした。
「うむ、そうだな。昔は君ぐらいの年の頃には誰でも飲んでいたし、ちょっとだけ飲んでみるか?」
と矢羽。
「しゃ、社長。それはさすがに……」
木暮もさすがの止めに入った。
ミスターイエスマンの木暮としては反対する気はないが、軌道修正ぐらいはしないといけないと思っていた。
「やっぱりマズいか?」
と矢羽も躊躇した。
「はい、昨今の風潮ですと、未成年の飲酒がバレたら仕事がすべて飛んでしまいかねません」
「そうだな。やっぱりダメだな」
「ええっ、せっかくなんだからいいじゃん。ちょっと貸してくれよ」
立神は無理やり矢羽の手からジョッキを奪った。
「あっ、こらダメだ」
矢羽が止めようとした、立神はジョッキを手にちょっとどころか、ゴクゴクと喉を鳴らしてビールの流し込んだ。
「カハー、こりゃうまい! へー、ビールって焼肉と合うな」
立神は舌なめずりをした。
(焼肉って、ほとんど焼いてないじゃないか)
木暮はうまそうにしている立神を見て思うのだった。
「社長、マズいですよ」
木暮が言う。
「しかし、もう飲んでしまったしな。それにこの店だったら外に漏れることもないだろう」
「そ、そうですね」
木暮は矢羽がそう言うなら引くしかなかった。
そして、そこから立神はさらに肉を食べた。
さらにビールも飲む。
二杯、三杯と飲んだが、酔っぱらう様子はなかった。顔色一つ変えることがない。
「酒に強いのかな?」
矢羽が不思議そうに言った。
「そうですね。まったく問題なさそうです」
木暮も不思議だった。
アルコールを初めて飲んだのなら、もう少し変化があっても良さそうだが、立神は何杯ビールを飲んでも、まるで水を飲んでいるかのようだった。
「特異体質なのかもしれませんね。なにせ顔もあの顔ですから」
と木暮は立神の顔を指さした。
「うむ、ライオンだからな。ところでライオンってアルコールに強いのか?」
「それは、私もまったく知識がありませんが、百獣の王ですから強いんじゃないでしょうか」
二人がそんな会話をしていると、突然立神がガクッとテーブルに伏せた。
「あれ、どうしたんだ?」
矢羽が声をかけた。
「立神君」
木暮が伏せている立神の肩を揺すった。
「ガー、ガガガ、グワー」
立神は大きないびきを立てだした。
「うん? 寝たようですね」
「そのようだな。ホホホ。なんだかんだ言っても子供だな。ビールに酔っぱらって寝たか。ホホホ」
「そうですね。急にアルコールが周って来たんでしょうね」
木暮も少し安心した。
するとその時だった。
「グワァァァァァ!」
と叫んで立神が立ち上がった。
「な、なんだ?」
矢羽も木暮も驚いた。
「オヤジ、俺も負けないぜ。ムニャムニャ」
「どうやら、寝ぼけているようですね」
と木暮。
「ああ、そうか。びっくりしたよ」
と矢羽は目を丸くしていた。
「オリャー!」
立神はどんな夢を見ているのか、思いきりテーブルをひっくり返した。
「わあぁぁぁ!」
矢羽も木暮もそれに巻き込まれ、床に倒れた。
「こ、こら、やめなさい。目を覚ますんだ」
矢羽が言った。
しかし、立神は目を覚まさず、倒れたテーブルを持ち上げて放り投げた。
ガシャーン!
投げられたテーブルが他のテーブルをなぎ倒す。
「わあ、わあ、やめろ」
木暮も止める。
すると、立神はムニャムニャと言いながら、そのまま床に寝転んでまた寝だした。
「ああ、落ち着いたか」
「そのようですね」
というのも束の間、立神は再び身体を起こした。
そして、ズボンを降ろして床に座り込み、ブリブリと大量の脱糞をした。
「うわー、やめろ。やめてくれ!」
店長が慌てて出てきたが、立神はすでにスッキリした後だった。
スッキリした立神は、のそのそと歩いて、奥の座敷に行きそのまま眠った。
「ス、スターはこれぐらい豪快じゃないとな……」
矢羽は強がりを言うのが精いっぱいだった。