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第38話 デート

 四人はとりあえずハンバーガーを食べることになった。

 それぞれカウンターで注文をする。

「立神ってハンバーガーとか食べるのか?」

 岸田はなんとなく疑問に思って訊いた。

 立神の大食いはもちろん知っていたが、ハンバーガーを食べるイメージがなかったのだ。

「あんまり食べないけどな。それでも、嫌いじゃないぜ」

 と立神。

「ふーん」

「ハンバーガー三十個」

 立神が注文した。

「ゲッ! そんなに食うのか?」

「まぁ、こんなもん、それぐらい食わないと腹が膨れんしな。ガハハハ」

「そ、そうか」

(こんなにハンバーガーを食う奴初めて見たよ。まぁ、大食いなだけなら、理央ちゃんとのデートの邪魔にはならないと思うけど)

 岸田も注文した。普通にチーズバーガーセットだ。

 理央と真希も注文していた。

 そして、それぞれトレーを持って、テーブル席に着いた。

 岸田と立神が並んで座り、その向かいに女子が二人座った。

 立神の前には大量のハンバーガーとコーラのLが三つ並んでいた。

「すごい食べるのね」

 理央が目を丸くしていた。

「ガハハハ、まぁ、普通だよ」

「立神君って、食欲がすごいの。私も時々だけど、彼にお弁当を作ってきてるんだ」

 と真希が言った。

「そうなんだ。ってことは、二人は付き合ってるの?」

 理央が言った。

「ううん、そういうわけじゃ……」

 真希が顔を赤らめた。

「ニョハハハ、ニョハハハ」

 立神も顔を緩めて、だらしなく笑っていた。

「立神って結構モテるんだよ」

「そう、なんだ」

 理央はあまり納得できないようであった。

「あの、周りがさっきからこっちを見てるんだけど……」

 理央が声を潜めていった。

「うん? そう」

 岸田が周りを見た。

 確かに周りの人がチラチラとこっちを見ていた。

(あっ、しまった。立神に慣れ過ぎて、こいつがライオンの顔をしているのを忘れてた)

「立神君がこういうのだから、ちょっと目立つのね」

 と真希はまったく動じることはなく、おっとりと話した。

「そ、そうね。確かに目立つ、ね」

 理央は居心地が悪そうであった。

 そんなやり取りも、立神にはまったく関係ないようで、ハンバーガーを次々と平らげていた。

 ライオンの大口にバカバカとハンバーガーが放り込まれる。

 まるでブラックホールだ。

「す、すごく、食べるのも早いんですね」

 理央が言うと、

「まあね。ニッ」

 立神は褒められたと思ったのか、牙をむき出して笑った。

「ヒッ」

 理央は小さい悲鳴を上げた。

 理央にはライオンが笑ったのか、牙をむき出して怒ったのかわからなかった。

「おいおい、理央ちゃんを怖がらせるなよ」

 岸田が立神に注意した。

「ええ、俺は別に怖がらせるつもりはなかったけど」

 立神は不服そうだ。

「理央ちゃん、大丈夫よ。立神君はいま笑っただけだから」

 真希が説明した。

「初めは表情を読み取るのは難しいけど、慣れてくるとわかるから」

 岸田も言った。

「そ、そうなんだ」

 理央は困惑しているようだった。

(やっぱり立神と来たのは失敗だったな。ダブルデートで和んだ雰囲気になることを期待していたのに、これじゃあ、逆効果だよ)

 岸田は、どこかで立神と別れる方法を考えた。

「ハー、食った食った」

 立神が腹を撫でている。

「この後、どうしようか?」

 岸田が理央に訊いた。

「私、観たい映画があるんだけど……」

「お、映画か。あれだろ。『虐殺のドラゴンカンフー 地獄の子守唄』ってやつ」

 立神が訊いてもいないのに答えてきた。

「なんだよ。そのB級感がアリアリの映画は。理央ちゃんがそんな映画を観たいわけないだろ」

「面白そうな映画ね」

 真希が立神の言った映画に喰いついた。

「そうだろ。ドラゴンって名前のカンフー使いが、マフィアの幹部を次々にオナラバズーカで倒していくんだ」

 立神が嬉々として説明した。

「なんだよ。そのクソ映画! しかもオナラバズーカって、カンフーはどこに行ったんだ」

(そんな映画を面白いと思うなんて、桐生さんもいったいどういう感性してるんだ)

 岸田は頭を抱えた。

「理央ちゃんの観たい映画ってなに?」

 真希が訊いた。

「私が観たいと思ってるのは、『この愛の最果て』っていう題名の映画なの」

 理央の言った映画は、最近話題の純愛ラブストーリーだ。

「ああ、その映画はいま人気よね」

 真希も知っているようだ。

「そうそう。すっごく面白いって友達が言ってたの。最後は泣けるらしいよ」

 理央は愉しそうに言った。

「ええ、そんな映画つまらないよ。虐殺のドラゴンカンフーを観に行こうぜ」

 立神が駄々っ子のように言った。

「あら、立神君の言った映画も面白そうだけど、たまには純愛モノを観てもいいかもしれないわよ」

 と真希が言った。

「そうだね。俺もそう思ってた」

 真希に言われると、立神はすぐにそれに応じるのだった。

 結局四人はハンバーガーを食べ終わると、映画館に行って、甘い純愛映画を観ることになった。


「映画館なんてかなり久しぶりだな」

 と立神。

「俺もだ。子供の頃に親にアニメ映画に連れてきてもらって以来かも」

 と岸田。

「おっ、ポップコーンがあるじゃねえか」

 立神はすぐにそれを買った。

「お前、さっきあれだけ食べてまだ食べるのか?」

「まあな」

 立神はホカホカのポップコーンに満足げだ。

「そろそろ始まるから入りましょう」

 真希が言って、四人は並んで椅子に座った。

 理央、岸田、立神、真希の順だ。

(理央ちゃんと並んで座ってる。なんかこういうのが恋人って感じだなぁ)

 岸田はドキドキしていた。

 立神はさっき買ったポップコーンを口に放り込んでいた。

「それ、おいしい?」

 真希が立神に訊く。

「ああ、おいしいよ。食べる?」

「うん、ちょっとだけ」

 真希はポップコーンを摘まんで口に入れた。

 開始のブザーで映画が始まった。

 当然、室内は真っ暗になった。

 岸田は、チャンスとばかりに少し手を動かして理央の手に触れてみた。

 理央はそれに対して、逃げる感じはなかった。

(これって握ってもいい感じかな?)

 岸田はそっと動かして、理央の手の甲に自分の手を重ねた。

 すると、理央は手を動かして岸田の手を握り返してきた。

(ああ、やったー! 理央ちゃんが俺の手を握ってくれてる)

 岸田は心が躍った。

 映画の内容なんてまったく頭に入ってこない。

 そして、映画が始まって三十分ぐらい過ぎた頃だった。

「ああっ、ダメだ!」

 突然立神が大きな声を上げた。

 女が彼氏の浮気現場に出くわすシーンだったのだ。

「ちょ、ちょっと、立神。声を出すな」

 岸田は慌てて立神を押さえた。

「ああ、すまん。思わず声が出た。ガハハ」

 その後、しばらくすると、

「諦めるな!」

 と立神が主人公に向かって声をかけた。

「だ、だから、シーッ、静かに観ろよ」

「ああ、すまん。また思わず、ガハハ」

 それからしばらく立神は静かになった。

(はぁ、やっと落ち着いたな)

 岸田はまた理央の手を握った。

 理央も握り返す。

(ああ、幸せだ。これぞ青春。彼女と手をつないで映画を観るなんて)

 岸田の気分は最高潮だった。

「ガァァァ、ガァァァ」

 岸田が幸せ気分に浸っていると、今度は立神がいびきを立てだした。

 地の底から響いてくるような音で、野生の猛獣そのものだ。

 館内がざわざわとしだした。

「おい、静かにしろ」

「うるさい」

 他の客が怒りだした。

「立神君、起きて」

 真希が立神を揺すった。

「ハガッ、ああ、しまった寝過ごした!」

 立神は寝ぼけたのか、そんなことを大声で叫んで急に立ちあがった。

「ああっ、立神。待て待て。座れ」

 岸田は慌てて立神を押さえる。

 しかし、立神は完全に夢と現実がごっちゃになっているのか、

「遅刻だ!」

 と言って映画館から飛び出していった。

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