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第36話 場外乱闘

「クソー! だったらこういうのはどうだ!」

 馬場タートルは立神につかみかかった。

 そして、立神の巨体を持ち上げた。このあたりはさすがプロレスラーのパワーだ。

 その持ち上げた立神を、リング下に投げ落とした。

 バーン!

 激しい爆破音が鳴って、一瞬炎が立った。そして辺りに黒い煙が立ち込める。

 リング下に仕込まれた火薬が爆発したのだ。


「おおっ、スゲー!」

 宮下が思わず声を上げた。

「うわー! 立神君大丈夫か?」

 佐藤も声を出す。

「ハハハ、殴られるのは平気でも、さすがに火薬には敵わないだろうさ」

 鬼塚は勝ち誇ったように笑った。


「どうだ、豪天。今度こそ本当にタオルを投げた方がいいじゃないのか?」

 金蔵が言う。

「フン、こんな子供だまし」

 豪天は別に焦ってはいなかった。

「強がるのも結構だが、息子の心配もしてあげた方がいいぞ」

 金蔵はニタニタした。


 爆破の際の煙が消えていくと、そこには立神が倒れていた。


「ああっ、立神! 大丈夫か!」

「立神君、しっかり!」

 宮下や佐藤が声をかけた。

「あれれ、火薬にはあっさりやられて終わりか。残念だったな。ハッハハハ」

 鬼塚は気分が良さそうに高らかに笑った。


「ああ、びっくりした」

 周りの心配とは裏腹に、立神はそう言って立ち上がった。そして服のほこりをパタパタと叩いた。


「あれ、立神、大丈夫そうだな?」

 と宮下。

「そうだね。なんか別にダメージはなさそうだね」

 と佐藤。

「うん? どうなってるんだ?」

 鬼塚も不思議そうだ。


「おい、なんで火薬の爆発にあってあんなに平気そうなんだ? ちゃんと火薬はセットしたんだろうな?」

 金蔵も不思議に思って、お付きの者に確認した。

「はい、ちゃんとセットしたんですが、少し火薬の量が少なかったのかもしれません。あっ、でも、普通の人なら十分大怪我する量のはずなんですが……」

 お付きの者は汗を拭きながら説明した。


「大きい音にびっくりしたよ。こういう仕組みになってたのか」

 立神はマットの上で関心していた。

「お、お前、平気なのか?」

 馬場タートルがリングの上から訊いた。

「ちょっと驚いただけだよ。別にどうってことない。おっさんも試してみたら」

 立神の様子があまりに平気そうなので、馬場タートルは不思議に思った。

 これまで爆破デスマッチは何度もやっているが、平気なことはなかった。だいたいは火傷などでひどい状態になるのだ。

 そこで、さすがに高校生相手だから、火薬の量を遠慮したのかもしれないと考えた。

(これだと爆破攻撃もダメじゃないか。ちゃんとセットしろよ、バカスタッフめ。こうなりゃ、場外乱闘で一気に片を付けてやるか。場外なら凶器になるものもいっぱいあるしな)

 馬場タートルはそんなことを思い、

「よっしゃ、場外乱闘じゃ!」

 とリングから飛び降りてマットに着地した。

 バーン!

 と火薬が爆発した。

「グワアァァァァァァァァ!」

 同時に激しい悲鳴が聞こえた。

 火柱が立ち、黒い煙が立ちこめた。


「なんかスゴい悲鳴だったけど……」

 と佐藤。

「そうだな。自分から飛び降りたけど、あれなに? 自爆?」

 宮下は理解しがたい状況に戸惑っていた。

「あいつなにやってんだ!」

 鬼塚は怒鳴った。


 徐々に黒く立ち込めた煙が消えていくと、マットの上に倒れている馬場タートルの姿が見えた。

「う、うう」

 馬場タートルはかなりのダメージを負っていた。

「おっさん、どうってことないだろう? ちょっと音がでかいぐらいでさ」

 そんな馬場タートルの状態に、立神は気づいていなかった。

 馬場タートルはなんとか起き上がった。

 しかし、フラフラである。足元がおぼつかない。

「ダ、ダメだ。これを、喰らって平気なんて、そ、そんな、バカな……」

 馬場タートルはまったく平気そうな立神に恐怖を感じた。

「さあ、場外乱闘しようぜ」

 立神はそう言うと、馬場タートルをつかまえて、そのまま火薬が仕込まれたマットの上でブレンバスターズを決めた。

 バババーン!!!!

 と連続して火薬が爆発する。

 激しい火花と火柱が立ち、黒い煙でまったく状況が見えなくなった。

「ガハハハ、これ面白いな!」

 そんな中、立神の浮かれた声が聞こえる。

「ウヒャー! これスゴいぞ!」

 バーン、バーン!

 連続して火薬が爆破した。

 どうやら立神がマットの上で走り回り、なんども馬場タートルを投げ飛ばしているようだ。

「ギャァァァァァ。やめてくれー!」

 馬場タートルの断末魔の悲鳴がこだまする。

 そして、仕込まれた火薬がすべて爆発してしまったのか、やっと状況が落ち着いた。

 煙が風に流されて消えていくと、ボロ雑巾のようになった馬場タートルと、それを片手でつかんでいる立神が見えた。

「なんだよ。もう終わりかぁ」

 立神は残念そうだ。

「しゃ、社長。俺、もう無理です。三人ともクビでいいんで、帰らせてください」

 馬場タートルはそう言うと、ガクッと首を落とした。


「おおっ、立神の勝ちだ」

「三連勝だ!」

 宮下と佐藤が声を上げた。

「クソー! なんてことだ」

 鬼塚はテーブルを強く叩いた。


「クソー、忌々しい奴め」

 金蔵はギリギリと歯を食いしばった。

「ま、そういうことだ。じゃあ、悪いがこれで帰らせてもらうぞ」

 そう言うと豪天は立ち上がった。

「おい、豪太。帰るぞ。あ、そうだ。息子が勝ったから、今日迎えに来た車と運転手をもらっていくぞ」

 豪天は金蔵にそう言って出口へを向かった。

 美子もそれについて行く。

「おーい、宮下、佐藤。お前たちも一緒に帰ろうぜ。車で送ってやるよ」

 立神の制服はボロボロだが、いたって元気そうだった。

「ありがとう、助かるよ」

 宮下と佐藤は立神について鬼塚邸を後にした。


 翌日。

 立神は鬼塚にもらった運転手付きの超高級車で学校に行った。

「おおっ、誰だ?」

「なんだ? いったい誰が来たんだ?」

「スゴーい。なに? スターでも来たの?」

 ギンギラの高級車が優越学園の校門に着いたので、登校中の生徒がざわついた。

 そこに立神が降り立った。

「ガハハハ、スゴいだろ。鬼塚にもらったんだ」

 立神は自慢げに言った。

「スゴいな。立神」

「へー、鬼塚がこんなのくれたのか」

「運転手付きってさすがに鬼塚は気前がいいな」

 生徒は口々に言った。

 そこにマドンナ桐生真希が現れた。

「立神君、こんな車で学校に来るなんてダメよ。みんな自分の足で歩いてきてるんだから。明日からはやめて」

 倫理観の塊のような真希からしたら、車で登校なんて見逃せなかったのだ。

「え、あ、そ、そうか。それもそうだね。じゃあ、こんな車捨てるよ」

 立神は真希に言われてあっさりとそう言った。

「そうよ。立神君。高校生が車で登校なんておかしいわよ」

「そうだよね。ガハハハ。いやぁ、参ったなぁ」

 立神はそう言って車のドアを蹴っ飛ばした。

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