「クソー! だったらこういうのはどうだ!」
馬場タートルは立神につかみかかった。
そして、立神の巨体を持ち上げた。このあたりはさすがプロレスラーのパワーだ。
その持ち上げた立神を、リング下に投げ落とした。
バーン!
激しい爆破音が鳴って、一瞬炎が立った。そして辺りに黒い煙が立ち込める。
リング下に仕込まれた火薬が爆発したのだ。
「おおっ、スゲー!」
宮下が思わず声を上げた。
「うわー! 立神君大丈夫か?」
佐藤も声を出す。
「ハハハ、殴られるのは平気でも、さすがに火薬には敵わないだろうさ」
鬼塚は勝ち誇ったように笑った。
「どうだ、豪天。今度こそ本当にタオルを投げた方がいいじゃないのか?」
金蔵が言う。
「フン、こんな子供だまし」
豪天は別に焦ってはいなかった。
「強がるのも結構だが、息子の心配もしてあげた方がいいぞ」
金蔵はニタニタした。
爆破の際の煙が消えていくと、そこには立神が倒れていた。
「ああっ、立神! 大丈夫か!」
「立神君、しっかり!」
宮下や佐藤が声をかけた。
「あれれ、火薬にはあっさりやられて終わりか。残念だったな。ハッハハハ」
鬼塚は気分が良さそうに高らかに笑った。
「ああ、びっくりした」
周りの心配とは裏腹に、立神はそう言って立ち上がった。そして服のほこりをパタパタと叩いた。
「あれ、立神、大丈夫そうだな?」
と宮下。
「そうだね。なんか別にダメージはなさそうだね」
と佐藤。
「うん? どうなってるんだ?」
鬼塚も不思議そうだ。
「おい、なんで火薬の爆発にあってあんなに平気そうなんだ? ちゃんと火薬はセットしたんだろうな?」
金蔵も不思議に思って、お付きの者に確認した。
「はい、ちゃんとセットしたんですが、少し火薬の量が少なかったのかもしれません。あっ、でも、普通の人なら十分大怪我する量のはずなんですが……」
お付きの者は汗を拭きながら説明した。
「大きい音にびっくりしたよ。こういう仕組みになってたのか」
立神はマットの上で関心していた。
「お、お前、平気なのか?」
馬場タートルがリングの上から訊いた。
「ちょっと驚いただけだよ。別にどうってことない。おっさんも試してみたら」
立神の様子があまりに平気そうなので、馬場タートルは不思議に思った。
これまで爆破デスマッチは何度もやっているが、平気なことはなかった。だいたいは火傷などでひどい状態になるのだ。
そこで、さすがに高校生相手だから、火薬の量を遠慮したのかもしれないと考えた。
(これだと爆破攻撃もダメじゃないか。ちゃんとセットしろよ、バカスタッフめ。こうなりゃ、場外乱闘で一気に片を付けてやるか。場外なら凶器になるものもいっぱいあるしな)
馬場タートルはそんなことを思い、
「よっしゃ、場外乱闘じゃ!」
とリングから飛び降りてマットに着地した。
バーン!
と火薬が爆発した。
「グワアァァァァァァァァ!」
同時に激しい悲鳴が聞こえた。
火柱が立ち、黒い煙が立ちこめた。
「なんかスゴい悲鳴だったけど……」
と佐藤。
「そうだな。自分から飛び降りたけど、あれなに? 自爆?」
宮下は理解しがたい状況に戸惑っていた。
「あいつなにやってんだ!」
鬼塚は怒鳴った。
徐々に黒く立ち込めた煙が消えていくと、マットの上に倒れている馬場タートルの姿が見えた。
「う、うう」
馬場タートルはかなりのダメージを負っていた。
「おっさん、どうってことないだろう? ちょっと音がでかいぐらいでさ」
そんな馬場タートルの状態に、立神は気づいていなかった。
馬場タートルはなんとか起き上がった。
しかし、フラフラである。足元がおぼつかない。
「ダ、ダメだ。これを、喰らって平気なんて、そ、そんな、バカな……」
馬場タートルはまったく平気そうな立神に恐怖を感じた。
「さあ、場外乱闘しようぜ」
立神はそう言うと、馬場タートルをつかまえて、そのまま火薬が仕込まれたマットの上でブレンバスターズを決めた。
バババーン!!!!
と連続して火薬が爆発する。
激しい火花と火柱が立ち、黒い煙でまったく状況が見えなくなった。
「ガハハハ、これ面白いな!」
そんな中、立神の浮かれた声が聞こえる。
「ウヒャー! これスゴいぞ!」
バーン、バーン!
連続して火薬が爆破した。
どうやら立神がマットの上で走り回り、なんども馬場タートルを投げ飛ばしているようだ。
「ギャァァァァァ。やめてくれー!」
馬場タートルの断末魔の悲鳴がこだまする。
そして、仕込まれた火薬がすべて爆発してしまったのか、やっと状況が落ち着いた。
煙が風に流されて消えていくと、ボロ雑巾のようになった馬場タートルと、それを片手でつかんでいる立神が見えた。
「なんだよ。もう終わりかぁ」
立神は残念そうだ。
「しゃ、社長。俺、もう無理です。三人ともクビでいいんで、帰らせてください」
馬場タートルはそう言うと、ガクッと首を落とした。
「おおっ、立神の勝ちだ」
「三連勝だ!」
宮下と佐藤が声を上げた。
「クソー! なんてことだ」
鬼塚はテーブルを強く叩いた。
「クソー、忌々しい奴め」
金蔵はギリギリと歯を食いしばった。
「ま、そういうことだ。じゃあ、悪いがこれで帰らせてもらうぞ」
そう言うと豪天は立ち上がった。
「おい、豪太。帰るぞ。あ、そうだ。息子が勝ったから、今日迎えに来た車と運転手をもらっていくぞ」
豪天は金蔵にそう言って出口へを向かった。
美子もそれについて行く。
「おーい、宮下、佐藤。お前たちも一緒に帰ろうぜ。車で送ってやるよ」
立神の制服はボロボロだが、いたって元気そうだった。
「ありがとう、助かるよ」
宮下と佐藤は立神について鬼塚邸を後にした。
翌日。
立神は鬼塚にもらった運転手付きの超高級車で学校に行った。
「おおっ、誰だ?」
「なんだ? いったい誰が来たんだ?」
「スゴーい。なに? スターでも来たの?」
ギンギラの高級車が優越学園の校門に着いたので、登校中の生徒がざわついた。
そこに立神が降り立った。
「ガハハハ、スゴいだろ。鬼塚にもらったんだ」
立神は自慢げに言った。
「スゴいな。立神」
「へー、鬼塚がこんなのくれたのか」
「運転手付きってさすがに鬼塚は気前がいいな」
生徒は口々に言った。
そこにマドンナ桐生真希が現れた。
「立神君、こんな車で学校に来るなんてダメよ。みんな自分の足で歩いてきてるんだから。明日からはやめて」
倫理観の塊のような真希からしたら、車で登校なんて見逃せなかったのだ。
「え、あ、そ、そうか。それもそうだね。じゃあ、こんな車捨てるよ」
立神は真希に言われてあっさりとそう言った。
「そうよ。立神君。高校生が車で登校なんておかしいわよ」
「そうだよね。ガハハハ。いやぁ、参ったなぁ」
立神はそう言って車のドアを蹴っ飛ばした。