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第34話 反則攻撃

「立神、なんで技を解くんだ? そのままギブアップでお前の勝ちだろ」

 宮下が訊いた。

「あっ、そうか。忘れてた。ガハハハ」

 立神は頭を掻いた。


「おい、なんであいつは技を解いたんだ?」

 リング下に降りてきた稲妻シャーク斉藤に馬場タートルが訊いた。

「はずしてくれって言ったら、はずしてくれたよ」

「え? そうなのか?」

「すごいパワーをしているが、バカのようだ」

「そ、そうか」

「だが、このままではヤバい。なりふり構ってられんから、例の物を使う」

 稲妻シャーク斉藤はそう言うと、リング下に隠してたパイプ椅子を取り出した。

「もうこうなったら、あいつをこれでボコボコにしてやる」

 稲妻シャーク斉藤はこれまで何人ものレスラーをこの椅子攻撃で血だるまにしてきた。

「おおっ、お前にそこまでさせるとは……」

 馬場タートルも驚いた。

 稲妻シャーク斉藤はパイプ椅子を手に、再びリングに上がった。

「お遊びはこれまでだ。覚悟しろ!」

 稲妻シャーク斉藤はパイプ椅子で立神に殴りかかった。

 パイプ椅子の座面が立神の頭部に襲いかかる。

 バーンと大きな音がした。


「うわぁ、汚ねえ! 反則だ!」

「なんてことするんだ。ひどい!」

 宮下と佐藤が言った。

「ハハハ、あの男の得意技がやっと出たな。レスラーとしても優秀だが、あの男の一番の得意技は反則攻撃だ」

 鬼塚が言う。

「得意技が反則攻撃ってありなの?」

 宮下が訊いた。

「稲妻シャーク斉藤は勝てばなんでもいいという考えのもとにやってるからな。某団体で活躍していたときも、反則負けをコールしようとした審判を、パイプ椅子で殴り倒して病院送りにしたこともあるらしい」

「そんな無茶な……」

 鬼塚の話に佐藤は言葉を失った。

「しかも今回は邪魔をする審判もいないからな。こいつは楽しみだ。立神の無残な姿が拝めそうだな。ハハハ」

 鬼塚は愉快そうに笑った。


「どうだ!」

 稲妻シャーク斉藤は立神に言った。

 立神もさすがに効いたのか、足元がおぼつかなくなっている。

「まだまだこんなもんじゃないぜ。プロの恐ろしさを思い知らせてやる」

 稲妻シャーク斉藤はそう言うと、パイプ椅子の座面でバシバシと立神のことを殴るのだった。

 立神は防戦一方で殴られるだけだった。


「豪天よ。お前の息子もさすがにこれまでのようだな。ハハハ」

 金蔵が満足げに笑った。

「フン、あんな子供だましを使わないとダメとわな。お前の手下らしいよ」

 豪天はまったく動揺を見せていなかった。

「子供だましだろうが、なんだろうが、勝てばいいんだよ。俺はこれまでそうやってここまでのし上がったのだ。どんな汚い手を使おうが、勝った奴が正しいってもんだ。ワッハハハハ」

「アホらし」

 豪天はあきれ顔だ。

「美子さん。どうですかな? あんたの息子がひどい目に遭っているのを見る気分は?」

 金蔵は美子に話を振った。

「ひどいことをさせるんですね。見てられないですわ」

 美子は目を背けるようにしていた。

「ハハハ、ひどいもなにも、プロレスですよ。これは。まぁ、ショーみたいなものです」

(だいぶ豪天も美子も気持ちが参っているようだな。ハハハ、ざまあみろ。お前ら夫婦に辛酸をなめさせられた俺からの仕返しだ)

 金蔵は非常にいい気分だった。


「ほらほら、どうだ。俺のパイプ椅子攻撃は?」

 稲妻シャーク斉藤は何度もパイプ椅子で立神を殴った。

 そして、そろそろ殴るのも疲れてきたので、いったんパイプ椅子を置いた。

「どうだ? 参ったか? 降参するか?」

 稲妻シャーク斉藤は殴られてリングにうずくまっている立神に訊いた。

 立神は散々椅子で攻撃されて、さすがにぐったりしているかと思ったが、

「パイプ椅子で殴られるのってこんな感じなんだ」

 と平気そうな声を出した。

「なに!」

 さすがに稲妻シャーク斉藤は驚いた。

「お前、なんともないのか?」

「いやぁ、なんか殴られる時の音がうるさいなって感じ」

「なっ、なんだって? そんなバカな……」

 稲妻シャーク斉藤は絶句した。しかし、このまま終わるわけにはいかない。

 急いでリング下に降りて、みんなが食事をしているテーブルの方へと行き、大きなフォークを手に取った。


「ああっ、ヤバい! フォークを凶器に使うつもりだぞ」

 宮下が言った。

「そんな! ひどいよ」

 佐藤は顔を青くしていた。

「あいつは会場にあるものならなんでも凶器に使うからな。フォークなんてまさにうってつけだぜ。ハハハ」

 鬼塚は立神が血まみれになる姿を楽しみにしていた。


「クソー、ここまでコケにされてこのまま終われるか」

 稲妻シャーク斉藤は完全に頭に血が上っていた。

「それ、どうするの?」

 立神が訊いた。

「こうするんだよ!」

 稲妻シャーク斉藤はそう言ったかと思うと、立神に襲い掛かり、手にしたフォークを立神のライオンの額に突き立てた。

「どうだ!」

「あっ、それ気持ちいい」

「え?」

「もっとやってよ。チクチクしてるのが気持ちいい」

 そう言って立神は自ら額を前に突き出した。

「そ、そんなバカな……。クソー! オリャ、オリャ!」

 稲妻シャーク斉藤は何度も立神の額にフォークを突き立てた。

「ああ、いい感じ。ちょっと痒かったから、そのチクチクしているのが気持ちいいよ」

 立神はまったく痛そうではない。むしろ愉悦を味わっている表情だ。

「そんなことあるか! ちょっと見せろ」

 稲妻シャーク斉藤はフォークを突き立てた立神の額を見た。たてがみを分けるようにして見てみたが、まったく血などは出ていなかった。

「な、なんて強い皮膚をしてんだ」

「ねえ、もっとチクチクしてよ」

 立神は頭をさらに突き出す。

「クソー、オリャ、オリャ、オリャー!」

 稲妻シャーク斉藤はヤケクソに立神の額にフォークを突き立てた。


「なんか、思ってたのと違う展開だな?」

 と宮下。

「そうだね。さすがは立神君、と言えばいいんかな?」

 と佐藤。

「クソ、なにやってんだ。もっとしっかり痛めつけろ!」

 鬼塚はリングに向かって怒鳴った。


「どうなってんだ!」

 稲妻シャーク斉藤がいくらフォークを突き立てても、立神の額は割れることはなく、結局立神が気持ち良さそうにしているだけだった。


「おい、豪太。これはプロレスの試合だぞ。マッサージを受けてるんじゃないんだから、早く終わらせなさい」

 リング下から豪天が声をかけた。


「あ、そうだった。ガハハハ」

 立神はそう言うと、さっき稲妻シャーク斉藤が使ったパイプ椅子を手に持った。

「ど、どうするつもりだ?」

 稲妻シャーク斉藤はもう完全にビビっていた。

「前から、パイプ椅子攻撃ってやってみたかったんだ。プロレスを見てたら結構やってんじゃん。なんか楽しそうだなって思って。殴られる方はさっき受けてわかったからさ、今度は俺にやらせてよ」

 立神はパイプ椅子を持って稲妻シャーク斉藤に向かってきた。

「ま、待て。やめろ!」

 稲妻シャーク斉藤はさすがに立神の恐ろしさをもうわかっていた。こんな奴がパイプ椅子を持つなんて、子供にマシンガンを持たせるようなものだ。

「ええ、なんで? ちょっとやらせてよ」

 立神がさらに近づく。

「いや、違うんだ。そういうのはプロが使うからいいのであって、素人のお前に扱えるようなものじゃないんだ。プロにはプロの使い方があって、ちゃんと安全を考慮した使い方というか……座面で……」

 稲妻シャーク斉藤はなりふり構っていられない状態だ。

「どういうこと? だってこれで殴るだけでしょ」

 立神はパイプ椅子を振りかぶった。パイプ椅子は縦にされている。どう見ても座面で叩く気はない。

「違う! そういう使い方は……。キケンだか、ギャアアアア!」

 立神の振り下ろしたパイプ椅子は、縦にされているので座面ではなく椅子の側面の鉄パイプが思いきり稲妻シャーク斉藤の顔面を捉えた。

 稲妻シャーク斉藤の額からは、血が噴水のように吹き出した。

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