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第33話 稲妻シャーク斉藤

 金蔵は忌々し気にリングを見ていた。

「次の試合を始めろ!」

 金蔵は怒鳴った。

 リングに稲妻シャーク斉藤が上がった。

「フフフ、おい、豪天。俺の今回用意したメンバーの中でこの男が最強だ。悪いがお前の息子はただでは済まんぞ。なにせこの男は強さだけではなく、凶暴さも三人の中で一番だからな。さっきのドラゴンタイガー権藤は軽く腕試しみたいなものだ」

 金蔵は自信たっぷりに言った。

「ほう、そうか。それは楽しみだな」

 豪天はそんな話を聞いても、まったく動揺がなかった。


「おい、よくもやってくれたな。権藤の仇は取らせてもらうぜ」

 稲妻シャーク斉藤が立神を睨んだ。

 稲妻シャーク斉藤は三人の中でも一番鍛えられた身体をしている。そして顔も一番凶暴そうだ。スキンヘッドで目つきも鋭い。

「へえ、おっさんもプロレスラーか?」

 立神はそんな稲妻シャーク斉藤と面と向かってもまったく怯む様子はなかった。

「ああ、そうさ。俺は権藤や馬場とは違うぜ。元ジュニアライトスーパーヘビー級のチャンピオンだ」

 稲妻シャーク斉藤は自信たっぷりに言った。


「ジュニアライトスーパーヘビー級って軽いの? それとも重い?」

 佐藤が宮下に訊いた。

「どっちなんだろう?」

 宮下も当然わからなかった。

「フフフ、あの男はレスリングの実力はもちろんだが、凶器攻撃や反則もまったく躊躇することなくやれる根っからの悪党だ。ま、いくら立神でも、無事にリングから降りられる未来はないだろう」

 鬼塚は佐藤と宮下に言った。

(今日はこいつが本命だ。どんなことをやってもいいから勝てと父さんが指示している。さて、立神が年貢を納めるところを見てやるか)

「そんな……」

 宮下も佐藤も声をなくした。


 そして不意にゴングが鳴った。

「オリャー!」

 稲妻シャーク斉藤がゴングと同時に、まだなんの準備もできていない立神にタックルした。

 立神は突然の攻撃に、コーナーポストまで飛ばされた。


「ハハハ、あいつはプロレスをやる前はアメフトの選手だ。あいつのタックルをまともに喰らってはただじゃ済まんぞ」

 金蔵はご満悦だ。

「ああ、汚ねえ。不意打ちだよ」

 と宮下。

「ハハハ、不意打ちも技術のうちさ」

 と鬼塚は言う。


「へへへ、なんだたいしたことねえな」

 稲妻シャーク斉藤はコーナーで倒れている立神を見て言った。

 すると、

「ああ、びっくりした」

 と立神はなんの問題もなさそうに立ち上がった。

「なに! 俺のタックルをまともに喰らって平気なのか?」

 稲妻シャーク斉藤はあまりに平気そうな立神を見て驚愕した。

「おっさん、じゃあ今度は俺が行くぜ!」

 立神はそう言って、稲妻シャーク斉藤がやったようにタックルをした。

「こんな素人のタックル、余裕でかわ……グワッ!」

 稲妻シャーク斉藤は立神のタックルをかわそうとしたが、思っていた以上に速く、まともに喰らってしまった。そして、そのまま転がってリング下に落ちた。

「おおっ! 大丈夫か? 斉藤!」

 馬場タートルが駆け寄った。

「ああ、大丈夫だ。しかし、なんてバカ力なんだ」

 稲妻シャーク斉藤はまたも驚愕した。

「まともにやっても勝てないかもしれんぞ。早いうちから反則攻撃をしろよ」

 馬場タートルが言う。

「うるせぇ! 高校生相手に早々とそんなことができるか」

「しかし、相手は普通の高校生じゃないぞ。見てみろ、あの顔」

「顔なんて関係ねえ! クソー、プロの意地を見せてやる」

 稲妻シャーク斉藤は凶暴な性格ではあったが、プロとしてのプライドも同時にあった。

 稲妻シャーク斉藤は立ち上がると、再びリングに上がった。

「いまのは油断したが、プロの怖さを見せてやるぜ」

 稲妻シャーク斉藤はそう言うと、立神のライオンの顔面をビンタした。そして、その流れで立神の胸もとへ水平チョップを喰らわす。

「どうだ!」

 しかし、立神はまったく平気な顔をしていた。

「ガハハハ、おっさん、俺にもやらせてよ」

 立神はそう言うと、稲妻シャーク斉藤の胸元に水平チョップをした。

 バビーンととんでもない音が響き渡った。

 立神の手刀が稲妻シャーク斉藤の分厚い胸板を打った場所は、いっきに真っ赤になった。

「ぐわぁぁぁ」

 立神のチョップはとんでもない威力だった。

 稲妻シャーク斉藤はあまりの衝撃にその一発でクラクラした。心臓がそのまま止まりそうな衝撃だった。

 しかし、プロレスラーがまさか高校生の一発の攻撃で倒れるわけにはいかない。

 稲妻シャーク斉藤はなんとか踏ん張って耐えた。そして、負けじともう一発立神の胸元へチョップを繰り出した。

 だが、立神はそれを胸に受けても、やはり平気そうだった。ほとんどダメージがなさそうな顔をしている。

「おおっ、いかにもプロレスって感じだな。ガハハハ」

 立神はそう言うと、また稲妻シャーク斉藤の胸に水平チョップを入れた。

 バビーン。

「ぬおおおおっ!」

 稲妻シャーク斉藤は痛さと衝撃のあまりに膝をついてしまった。

「なあ、おっさん。コブラツイストかけさせてよ」

 立神が膝をついて悶絶している稲妻シャーク斉藤に言った。

「えっ?」

 立神は、痛みに耐えている稲妻シャーク斉藤を起こし、コブラツイストを見よう見真似でかけようとした。

「あれ、案外難しいな」

 立神はあまりよくわかっていないようだ。

「クソー、プロレスをなめんじぇねえ」

 立神のその態度に稲妻シャーク斉藤はキレた。

「コブラツイストはこうやってかけるんじゃ!」

 稲妻シャーク斉藤は立神の絡みついている手足を振りほどいて、逆に立神に対してコブラツイストをかけた。

「どうだ!」

 完全にコブラツイストが極まった。


「ハハハ、お前の息子もこれで終わりだな。プロの技があれだけしっかりと決まってしまってはどうしようもない」

 金蔵は豪天に言った。

「フン、あんなもの、わしの息子に効くわけがない」

 豪天はまったく焦る様子はなかった。

「なにを負け惜しみを。ハハハ」

 金蔵は余裕の笑いをした。


「どうだ? ボウズ。これが本物のコブラツイストだ」

 稲妻シャーク斉藤はがっちりと極まったので、もうこれで終わったと確信した。

「へえ、そこをそうやってかけるんだ。なるほど」

 立神はコブラツイストをかけられているのに、まったく痛そうにすることもなくそう言うのだった。

「なに! 痛くないのか?」

 稲妻シャーク斉藤はまたまた驚愕した。

「身体が伸びて気持ちいいよ」

「なーにー! そんなバカな!」

 稲妻シャーク斉藤はさらに締めあげた。

 しかし、立神はまったく痛がらない。それどころか脇腹が伸びて気持ち良さそうにしている。

「じゃあ、今度は俺にかけさせて」

 立神はそう言ったかと思うと、稲妻シャーク斉藤のコブラツイストをバカ力であっさりとはずした。

「バカな! 完全に極まったコブラツイストをそんなにあっさりはずすなんて!」

 稲妻シャーク斉藤が驚いている間に、立神は稲妻シャーク斉藤の手足を取ってコブラツイストをかけた。

「ギャアァァァ!」

 稲妻シャーク斉藤は悲鳴を上げた。

「身体が千切れる!」

 立神のパワーに身体全体がきしみ音を上げていた。

「効いてる?」

 立神が訊く。

「効いてる。は、はずしてくれ」

 稲妻シャーク斉藤はとても耐えられなかった。

「いいよ」

 立神はそう言われてすぐに技を解いた。

「な、なんて野郎だ。ただ者じゃねえ」

(このままではやられてしまう。それはさすがにまずい。こうなったらしかたがねえ)

 稲妻シャーク斉藤は立神から逃げるようにリング下へと降りた。

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