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第31話 狂犬三銃士

 お付きの者はすぐに屈強な男三人を連れてきた。

 ドラゴンタイガー権藤と稲妻シャーク斉藤、馬場タートルだ。

「どうだね。この三人とお前の息子を勝負させるっていうのは? お前の息子は見るからに強そうだが、ここにいる男たちにはさすがに勝てんだろう。ハハハ」

(豪天は脳みそまで筋肉だから、こういう挑発には必ず乗るはずだ)

 金蔵は不敵に笑った。

「うちの息子と?」

「そうだ。お前の自慢の息子と、俺が用意したこの男たちと勝負だ。面白いと思わんか?」

「別に」

 豪天はまったく興味がなさそうだった。

「えっ? いや、そんなことないだろう。お前の息子はかなり強そうじゃないか。その息子が俺の用意した男たちに勝てないって言ってるんだぞ」

 金蔵は予想外の反応に戸惑った。

「まぁ、勝てないかもな」

 豪天はやはり興味がないようだし、自分の息子をバカにされていても気にしていないようだ。

「いや、そんなことないだろう。勝てるかもしれないぞ。どうだ、やってみないか?」

(なんで俺が下手に出ないといけないんだ!)

 金蔵はむかついた。

「いやぁ、無理だよ。うちに息子には勝てないよ。やめておこう」

 豪天はあくまでやる気がないようだ。

「いや、勝てるよ。お前の息子はすごいじゃないか」

「そんなことない。うちの息子なんてまだまだだよ」

「いやいや、そんなことないよ。自信を持った方がいい。お前の息子は立派だよ」

「いや、うちの息子なんてまだまだひよっこなんだからダメだよ」

「なに言ってるんだ。お前の息子は最強だよ」

「そうか。まぁ、そうかもしれないな。じゃあ、勝負するまでもないな」

「ええっ!」

 金蔵は椅子から転げ落ちそうになった。

「じゃ、じゃあ、金を賭けるっていうのはどうだ?」

 金蔵としてはここで勝負を受けてもらわないと困る。

「金? 別に博打も好きじゃないし」

「そうなの? じゃあ、お前の息子が勝ったら今日迎えにやった車をやるから、どうだ?」

「車か。でも運転手がいないとなぁ」

「わかった。運転手もつける」

「ガハハ、なるほど。面白い。そこまで言うならやらせてみようじゃないか」

 豪天は興味を示した。

「おお、そうか。お前ならそう言うと思ったよ。よし、じゃあ、そこの扉を開け放つのだ」

 金蔵が言うと、お付きの者が動いて、リングが設置されている庭に面した扉が開け放たれた。

(バカめ。お前の息子がみんなの前でボロ雑巾のようにされるのも知らずに。ハハハ)

「おい、豪太。相手をしてやれ」

 豪天は息子に言った。

 立神は豪天と金蔵の会話の間も、ガツガツと料理を口に運んでいた。

「ええ、やだよ。面倒くさい」

 立神は口から食べかすを飛ばしながら言った。

「やかましい。やるんだ。やれば車をくれるらしい。その車をお前が学校の行き帰りに使えばいいだろう。運転手付きだし楽だぞ」

「おおっ、それっていいかも。じゃあ、やる」

 立神は急にやる気になった。


「おい、俺たちプロが高校生を相手にするのか?」

 稲妻シャーク斉藤が、ドラゴンタイガー権藤に訊いた。

「そのようだな」

「なんで高校生を相手しないといけないんだよ」

「仕方ないだろう。俺たちはいま失業中なんだから。鬼塚さんの世話になっている以上はやるしかないよ」

「そうだけどさぁ。俺たちって一応狂犬三銃士ってプロレス界では恐れられていたんだぜ」

「そんな過去の栄光にすがっていても飯は食えんぞ」

「クー、確かにそうだ。クソー」

 稲妻シャーク斉藤は口惜しそうに言った。

「でも、高校生相手なんだから楽なもんだろう」

 三人の中で一番小柄な馬場タートルが言った。

「お前はいいよな。気楽で。プロレスやってた頃だって、さっさとベビーフェイスの連中にやられてタッチ交代の役だもんな」

 稲妻シャーク斉藤が言った。

「あっ、お前、いま俺のことをバカにしたな」

 馬場タートルが怒った。

「本当のことじゃねえかよ。お前なんて最初に出て行ってやられて、最後に疲れ切ってる相手を凶器を持ち出して血だるまにするのが仕事だったじゃねえか」

「お前はなにもわかっていない。俺の役どころが。俺がいたからあんなに試合会場が盛り上がったんだぞ」

「ふん、プロレスがろくにできないから与えられた役割じゃねえか」

 これはタイガードラゴン権藤だ。

「お前ら、俺のことをそんな風に思ってたのか」

 馬場タートルは歯ぎしりした。

「お前、そんなことも知らずにやってたのかよ。のんきなもんだな。そんなの団体内では周知の事実だったぜ」

「そ、そうだったのか」

 馬場タートルはこのタイミングでそんなことを知らされてかなりショックだったようだ。


「三人全員と対戦してもらう。そして三連勝したらお前の息子の勝ちだ。さあ、それじゃあ、まずは誰と対戦する?」

 金蔵が言った。

「三連勝って、えらい立神が不利だな」

 宮下が佐藤に言った。

「そうだよね。なんかずるくない」

 と佐藤。

「しかも、あの三人ってプロレスラーだよ。俺知ってる。以前にテレビで観たことがあるよ」

「ええっ、そうなんだ。どおりで身体つきとかすごいと思った」

「プロレスラー相手ではさすがの立神もヤバいんじゃないか?」

「そうだね。大丈夫かな?」

 二人が心配するのも無理はない。

 プロレスラーの三人のうち、ドラゴンタイガー権藤と稲妻シャーク斉藤は立神よりも少し大きいぐらいの巨体だ。ただ、馬場タートルだけはガタイこそたくましいが、背は日本人の平均ぐらいでずんぐりむっくりの体型をしていた。

「立神、大丈夫か?」

 宮下が心配して立神に訊いた。

「えっ、大丈夫だろう。別にどうってことねえよ」

 立神には不安という感情がないようだ。

「これで明日から学校には送り迎え付きで行けるってもんだ。ガハハハ」

 立神はもう勝った気でいた。


「誰からでもいいから、早くリングに上がれ。おい、豪太。お前早くリングに上がるんだ。さっさと終わらせて帰るぞ。もう、わしは腹も膨れてちょっと眠くなってきたし」

 豪天は膨れた腹を撫でながら言った。

「わかったよ。オヤジ」

 立神がリングに上がった。


「よし、じゃあ、俺から行くよ。さっさと済ませよう」

 ドラゴンタイガー権藤がそう言った。

「ああ、頼むわ。こんなことに付き合ってられないよ」

 稲妻シャーク斉藤はそう言ってドラゴンタイガー権藤を送り出した。

 馬場タートルはさっきのショックがまだ尾を引いていて、落ち込んでいた。


 立神とドラゴンタイガー権藤がリングインした。

「ほう、高校生にしてはなかなかいい体格をしているじゃないか」

 ドラゴンタイガー権藤が立神を見て言った。

「ガハハハ、おっさんらもなかなかすごいじゃん」

 ドラゴンタイガー権藤、稲妻シャーク斉藤、馬場タートルの三人はリングコスチュームだから鍛え上げた肉体をさらしている。

「おっさん? フフフ、なるほど。礼儀は知らないようだな」

(高校生だから軽く痛めつけるだけにしておいてやろうと思ったが、そんな情けは必要ないようだな。ちょっと礼儀を叩きこんでやるか)

 ドラゴンタイガー権藤は手加減せずに本気で行くことにした。


「ルールはプロレスルールで、三十分一本勝負だ」

 金蔵が言った。

「三十分一本勝負って言っても、相手は三人いるんだから立神は三本勝負だからなぁ」

 宮下が佐藤に言う。

「ホントだよ。なんか不公平な試合だよね」

 と佐藤。

「フフフ、父さんが常々俺に言ってるのは、負ける勝負はするなってことだ。つまりどんな卑怯な手を使ってでも勝てる状況を作るんだ」

 鬼塚は宮下と佐藤の横で、独り言のように言った。


「よし、ゴングを鳴らせ」

 カーンと軽快にゴングが鳴った。

 そして、立神とドラゴンタイガー権藤が向かい合った。

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