目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
あめふりバス停の優しい傘
朱宮あめ
現実世界青春学園
2024年11月04日
公開日
25,854文字
完結

雨のバス停。

蛙の鳴き声と、
雨音の中、
私たちは出会った。

――ねぇ、『同盟』組まない?

〝傘〟を持たない私たちは、
いつも〝ずぶ濡れ〟。
私はあなたの〝傘〟になりたい――。


 ***


自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。

しずくにまったく興味を示さない女生徒は、
いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。
彼女は、
『雪女センパイ』と噂される三年生だった。

ひとりぼっち同士のふたりは『同盟』を組み、
友達でも、家族でも恋人でもない、
奇妙で特別な、
唯一無二の存在となってゆく。

第1話


 それは、梅雨空つゆぞらの下、学校近くのバス停でのことだった。

 なにかに目を奪われるってこういうことなんだと、私はその日初めての感覚を味わった。

 高い位置でひとつに結ばれた髪は毛先だけくるんとしていて、つややか。傾いた顔に落ちる影は肌のなめらかさを際立たせている。

 長いまつ毛は優しく伏せられ、じっと動かないその姿は、まるで美術館に飾られている、そういう絵画のようだ。

 ――きれい。

 雨で白くかすむ世界の中で、彼女の姿だけがなぜかくっきりと色彩鮮やかに映った。

 蛙の鳴き声と雨音が支配する中、不意に車が道路に落ちた雨水を豪快に弾きながら通り過ぎていく。それが数回続いたとき、彼女がふっと目を開けた。

 長いまつ毛を何度か揺らして、ふとバス停の前に立っていた私を見上げる。

「座る?」

 バス停のうしろ側、小さな池に落ちる雨音に遠慮するようにひそやかな声。しかしながら、その声はななぜかはっきりと私の耳に届いた。

「……ありがとう、ございます」

 一方私は、今にも雨音にかき消されてしまいそうな声で、そう答えた。

 これが、私と椿つばき先輩の出会いだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?