「また溜息ついちゃって……。やめてくださいよ、まるで定年を迎えてやることがなくなった
「知らなかったのか? 俺はあと二年で定年でな。その後は
ソガードについて集めた資料をじっと見ながら、サムは呟いた。
「……いったい、なんだったんだろうなあ、こいつは」
資料にはソガードの吃音についてや、成績優秀だった学生時代は苛められてばかりいたという話を聞いたメモ、数少ない友人が乗っていた航空機が墜落炎上したときの新聞記事などがファイリングされていた。他に、職場の同僚や教会のシスターなど、何処へ行って誰に聞いても、ソガードのことを悪く云う人間など誰ひとりとしていなかったという聞き込み結果をまとめた報告書や、カセットテープも入っている。
いろいろなものが雑多に放りこまれていたが、ジョナサン・ソガードが三十六人もの女性を惨殺した凶悪な殺人犯であるという事実を納得させてくれるようなものは、なにひとつとしてなかった。
黙って項垂れているサムの肩に手を置き、ネッドも云った。
「そういや……なんでコートを掛けたのかも、訊けませんでしたね」
「ああ」
そういえばそんな疑問もあったなと、サムはふっと笑みを溢した。
「当たり前に、そうしたんだろうな。奴は調べたとおり、やっぱり善い奴だったんだよ」
そう云うと、ネッドは顔を顰め、首を横に振った。
「連続殺人犯ですよ?
「……善い奴が人を殺すこともあるし、犯罪者が人助けすることもあるさ。人ってのは、一面だけじゃないんだ」
そう云ってサムはソガードの資料を箱に詰め、両手でゆっくりと蓋を閉じると――
「さ、帰るぞ
そう呼んで、飼い主を失った薄茶色の仔犬を抱きあげた。