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scene 14. 終幕

 サムは車から本部に応援を頼み、ソガードの背恰好と特徴を事細かに知らせた。シンシナティ警察も協力して包囲網を張り、その日のシンシナティは街中が物々しい雰囲気に包まれた。

 やがて日が暮れ始めた頃。ソガードらしき金髪の男を発見、現在包囲中と無線で連絡が入った。急いでその場所に赴き、サムは適当な警官を捕まえ、尋ねた。

「ソガードは」

「あそこです」

 警官の指さした先――ソガードは何処からどうやって来たのか、オハイオ州とケンタッキー州を結ぶ吊り橋の上にいた。

 まるで映画スターにライトをあてているかのように、何台もの警察車両が弧を描いてソガードを取り囲んでいる。ソガードは吊り橋の歩行者側の柵ぎりぎりのところにいて、警官が近づこうとすると飛び降りる素振りを見せていた。下にはオハイオ川が流れている。川に飛びこみ、泳いで逃げるつもりなのだろうか。しかし水上に顔を出せば、確実に撃たれるとわかっているだろうに―― 

 サムは警察車両の後ろまで駆けていき、バッジを見せ「俺の事件だ」と一言云った。そして両手を広げ、丸腰であるというジェスチャーをしながら、ソガードのほうへゆっくりと歩を進める。

「まったく、おまえの逃げ足の速さには驚いたぞ。……もう逃げられないぞ、ソガード。わかってるだろう……どうする気だ、そこから飛び降りる気か? 蜂の巣になりたいのか? もしもそうしたいのなら、その前にいろいろ話しちゃくれないか。……おまえは俺のことなんざ知らないだろうが、俺はもう一年半もおまえのことを追ってきたんだ。おまえがいったいなんで三十五人も……いや、女房も合わせて三十六人か。あんなに女を殺し続けたのは何故なのか、理由わけを知りたい」

 ソガードは無表情に、じっとサムを見返していた。背後の警官とFBIの助っ人たちは一瞬の隙も与えまいとソガードに狙いをつけ、銃を構えている。その殺気と緊張感を振り解くように、サムは立ち止まってふぅ、と息を吐いた。

「……なあ、あんなに幸せそうだったじゃないか。なんでロザリーまで殺したんだ……。いったいなにがあった? おまえの人生の、いったいなにがおまえにあんなことをさせたんだ。……話す気があるなら、俺はいつまででも待つ。だから頼む。教えてくれ」

 そのとき――サムは見た。ソガードがその表情を緩め、ふわりと哀しげに微笑むのを。

「ジョニー――」

 ソガードが素早く背を向け、柵に脚を掛けた。同時に何発かの銃声が響く。「やめろ! 撃つな!!」とサムは両手を振って怒鳴ったが、そのときにはもうソガードの姿はそこにはなかった。

 銃声が止み、サムは駆け寄って橋の下を見た。そこにはオハイオ川がいつものようにただ揺蕩っているだけで、ソガードの姿はどこにもみつけられなかった。かわりに柵に真新しい血痕が発見され、ソガードを狙った銃弾のうち、何発かは命中していたらしいことだけがわかった。

 二十分後には川と付近一帯の捜索が始まった。しかし、すっかり陽が落ちるまで捜し続けても、ソガードを発見することはできなかった。

 支局に戻り、サムは報告書に『生存の可能性はほぼ無し』と書き、サインをした。ソガードが手にしていたナイフの刃の形状も、被害者の遺体の記録とぴたりと一致した。ソガードが一連の事件の犯人であることは疑う余地がなかった。あとは捜査ファイルに『CASE CLOSED解決済』のスタンプが押されるだけだ。


 こうして〝魅惑の殺人鬼The Fascinating Killer〟による事件は幕を閉じ、人々の興味はワシントン州とオレゴン州で起こった凶悪な事件の陰にちらつく、新たな連続殺人犯*へと移っていった。









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※ テッド・バンディ・・・一九七〇年代に全米各地で多くの若い女性を殺害した、アメリカで最も有名であろう連続殺人犯。長い髪を真ん中で分けた、元恋人に似たタイプの女性ばかりを繰り返し狙い、凶行に及んだ。

 ハンサムで好印象、頭脳明晰、弁が立つバンディは裁判で自らを弁護し、マスコミに無実を訴え警察を批判。法廷には毎回多くの女性たちが詰めかけ、収監中には数百ものラブレターが届いたという。ハイブリストフィリア(犯罪性愛)の顕著な例のひとつとしてもよく挙げられる。

 シリアルキラーという言葉はバンディを指して、元FBI捜査官のロバート・K・レスラーが使用し始め、広まった。

 バンディは一九八九年、フロリダで電気椅子に坐ることになったが、死刑の執行を信じない者があまりにも多かったため、執行の翌日には新聞に遺体のカラー写真が掲載された。


≫ https://ja.wikipedia.org/wiki/テッド・バンディ

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