「――動くな!! FBIだ!」
「うっわ、なんてこった――ジョナサン・ソガード、殺人の現行犯と、三十五件の連続殺人の容疑で逮捕する!!」
今までうんざりするほど殺人の現場を見てきたが、これほど驚き目を背けたくなるようなことはなかった。なにしろ張り込んでいるあいだ、この夫婦が仲睦まじく、幸せそうに過ごしているのを目の当たりにしていたのだ。
三十六人めの被害者が出ることを、サムはなによりも恐れていた。しかし、まさかよりにもよって、愛妻を手にかけるとは。
ネッドとサムが銃を突きつけると、ソガードは両手を上げながらゆっくりと立ちあがり、こっちを向いた。白いシャツは返り血に塗れ、両手は袖まで真っ赤に染まっている。映画スターのようと評されていた端整な顔は、口紅をつけたように唇が赤く、現実感のない美しさを感じてぞっとする。
サムは一歩部屋の中に入り、ロザリー・ブラニガンの死体を廻りこみながらソガードに近づいた。
「いったいなんだって女房まで殺した……。おまえが三十五人も殺した連続殺人犯だってことはもうわかってるが、女房だけは大事にしてたんじゃなかったのか」
「サム、そんな話はあとで訊きましょう……。ソガード、とりあえずそのナイフを棄てろ。投げるなよ、ゆっくりと床に落とすんだ」
ネッドに云われたとおり、ソガードはナイフをそっと床に放った。ネッドがさっと前に出て、そのナイフを足で壁際に蹴る。
「よし、じゃあ後ろを向いて、壁に手を付け。……そうだ、よし、次は右手からゆっくり下ろせ、手錠を掛けるからな」
ネッドがそう云って腰につけたケースから手錠を取りだす。すると――
「うわっ!」
ソガードがカーテンを引き千切り、ネッドの頭に被せた。網で捕獲された野良猫のようにカーテンの下でネッドがもがく。その隙にソガードは窓から外へ飛びだし、サムは慌てて「待て!!」と鋭く怒鳴り、窓の下を覗いた。
ソガードは既に地面に着地し、家の横手から表通りに出るところだった。足が速い。
「くそっ!! 表だ!」
「俺が追います、サムは応援を!」
「わかった!」
カーテンを払い除けたネッドに続き、サムも階段を駆け下りた。家から飛びだし、くるりと一回りしながら辺りを見る。1ブロック先まで走っていたネッドが足を止め、きょろきょろと周囲を見まわしたあと、こっちに向き途方に暮れたように首を振った。どうやらソガードを見失ったらしい。
確かにこっちのほうへ逃げていったのに――と思いかけて、サムは舌打ちした。表通りに出たと見せかけて、どこかから裏に抜けたに違いない。
「……
あと少しのところでの失態に、サムは地団駄を踏んだ。