日曜の朝。ウェイトレスの仕事は休みを取り、ロザリーは朝食の後片付けをしているところだった。テーブルの上の皿やタンブラーを下げ、カッティングボードといっしょに置きっぱなしだったピーナツバターの空き瓶を
ジョニーはブブを連れて朝の散歩に出ていて、帰ってきたらシャワーを浴びて着替えると云っていた。
友人の結婚披露パーティは十時からと招待状に記されている。まだ時間はたっぷりとあるが、向かう途中で注文してある祝いの花を受け取るため、花屋に寄らねばならない。どんなパーティかしら、どんなごちそうがあるかしらと浮かれ気味なロザリーは、さっと洗い物を済ませると早めに支度をしてしまおうと二階に上がり、バスルームへと向かった。
シャワーを済ませると髪を乾かし、ロングヘアをくるくると捻りながらまとめてアップにする。前髪だけ太いカーラーで巻いておき、ロザリーはスリップ姿でドレッサーの前に坐ると化粧を始めた。普段はリップを塗るだけなので、濃くなりすぎないように気をつけなきゃ、と丁寧に下地から塗っていく。
そうして、ジョニーにもまだ見せたことのない特別な日の顔ができあがると、ロザリーは時計を見てまだ早いなと思いつつ、勿忘草色のワンピースドレスをワードローブから出した。今日のために先日、ジョニーが買ってくれたものだ。
買いに出かけた日に店で試着したきりのドレスを身に着け、ロザリーは鏡の前でくるりと一周した。ポーズを決め、まだカーラーをつけたままであったことに気づいて思わず声をあげて笑う。
再びドレッサーの前に腰を下ろし、カーラーを外して前髪を整えていると、そこへ足音がしてジョニーが戻ってきた。
「おかえりなさい」
「た、ただいま。……あれ? こ、この美しいレディは、どこのお姫さまかな」
ロザリーはふふっと微笑み、立ちあがってジョニーの頬にキスをした。
「ブブの
「うん。ま、待ってて。俺もすぐにし、支度するよ」
ジョニーはそう云って、バスルームに入っていった。ロザリーはワードローブからジョニーのスーツやシャツを出しコートラックに掛けると、なにか飲もうと
ロザリーの足音を聞くと、ブブがぱたぱたと尻尾を振りながら駆け寄ってきた。「ブブ、お散歩は楽しかった?」と声をかけながら、飛びついてくるブブを抱きあげる。額のあたりにキスをし、床に下ろしてやろうと屈んで下を見ると――
「なに!? 肢は拭いてもらったんじゃなかったの? ブブ……、この茶色いの……やだこれ、ピーナツバター!?」
ドレスの裾と胸許に、点々と見慣れた薄茶色がついている。ロザリーは慌ててキッチンの布巾でその汚れを擦りながら、ゴミ箱のほうを見た。
ゴミ箱は倒れて中身が溢れ、棄てたはずの『
「ブブ……だめじゃない。あぁでも私が悪いのね……洗って棄てればよかった」
ブブの肢と床を雑巾で拭き、次に布巾を水で絞ってドレスもまた何度か擦ってみたが、ピーナツバターの汚れは伸びて広がるだけでまったく落ちなかった。初めよりも酷くなってしまった染みに、ロザリーはどうしよう、と困っていたが。
「……これじゃ着ていけないし、しょうがないわよね……」
ジョニーに謝らなくちゃ、と呟きながら、ロザリーはまた二階へと上がっていった。