「俺ヒロキなんだけど!?」
「んもう、違うわよ」
声をかけてきたのは母親だった
「母さん、何?この『たかし〜ごはんよ〜』って?」
母は自信満々に言う
「お母さんが書いた小説のタイトルよ!それが
たかし
〜ごはんよ〜」
「『〜ごはんよ〜』ってサブタイトルだったの!?」
「お母さんね、小説を書いてみようと思うの」
藪から棒な話に少し戸惑う
「でもなんで突然小説を書いたの?」
「ほら、お母さん本とか好きじゃない?
PHP研究所発行の本が特に大好きなの!」
「審査員にめちゃくちゃ媚びてない!?」
「この前、氏田雄介先生が書いた『54字の物語』なんて、中古で全部買い揃えちゃった!」
「新品で買えよ!媚び売るんだったら妥協するな!」
「あと最近、小説投稿サイト『ネオページ』に登録したの!
運営さんやユーザーさんたちがとっても聡明で優しくて素敵な人たちなの!」
「恐ろしいぐらいなりふり構ってないな!」
でも少し気になることがある
「で、どういった内容の小説なの?」
「主人公がトラックで轢かれて、異世界に生まれ変わって
ギルドに就いて、S級のパーティーに入るんだけど
追放されて、突然女神から無敵の能力を授かって、
無双して成り上がってハーレムを築く斬新な物語よ!」
「テンプレの欲張りセットじゃねえか!
聞いたことない設定がないのが奇跡!」
そもそもお母さんに小説なんて無理だよ」
母は少し眉を顰める
「あら、なんでそういうこと言うの?
そんな酷いこと言うと明日のお弁当
おでんをおかずにごはん食べさせるわよ」
「地味に嫌だ!作ってくれるのはありがたいけど
おでんはごはん進まないし弁当だから冷たいし汁物だからこぼれるし・・・
それで話を戻すけど
お母さん漢字とかすごく苦手でしょ。過去にもらったメッセージとか
誤変換だらけだったよ」
【夕ご飯狩ってきます】
【午前は
「内容が不穏すぎる!」
「ほら、スマホってよく変換する文字を優先的に表示されるじゃない?」
「普段そんな猟奇的な言葉使ってるの!?」
「そもそもお母さんが
感じを街がえるなんてはずか恣意ことしないわよ!」
「盛大にしてるよ!ここぞとばかりに!!
漢字だけじゃなくて算数も苦手でしょ」
「あら、そんなことないわよ」
「お母さんよく自分の年齢サバ読んでるじゃん。以前授業参観日の時、
サバ読みすぎて俺を義務教育中に産んだってことになったよ!?」
「年齢のサバ読みは優しい嘘なの❤️」
「いや、家庭環境を深刻に心配されたよ!」
「仮に漢字や算数なんかできなくても大事なのは表現力。
お母さんの表現力はすごいのよ!」
「表現力?」
「ネットとかでもたまに話題になる『縦読み』ってあるじゃない?
例えば
『あ〜・・・
り〜・・・
が〜・・・
と〜・・・
う〜・・・』
一見変哲のない文章だけど最初の行の文字を繋げるとメッセージになるやつ
あれお母さんもできるのよ」
「例えば?」
「昨日あなたテストだったじゃない?
お母さん応援の意味も込めて縦読みで
『が〜・・・
ん〜・・・
ば〜・・・
れ〜・・・』って送ったのよ!気づいた?」
「あ、あれか・・・」
昨日の試験前に送られたメッセージ・・・
【がんばれ!
んほっ❤️んふふふふふふっ!んふ・・・んんんんん〜〜〜・・・・んほほほほほほほ〜〜〜い!
バスコ・ダ・ガマVS
レイチェル伊藤】
「いや、あれ昨日言おうと思ってたけど・・・
何!?あの怪文書!?変哲の極みだよ!!
特に『ん』の行が狂気すぎる!!
無駄に長すぎて改行されたから『縦読み』が破綻してるよ!!
縦読みで『がんほバレ』になってるよ!
確認してないけどスマホ版は多分違う言葉になってるかもしれないけどね
そして、レイチェル伊藤って誰ええええええ!?
というか、1行目で『がんばれ』って言ってるじゃん!!」
「いや、『が』から始まる言葉がなかなか出てこなくて・・・」
「『んほっ❤️』とか『レイチェル伊藤』とかは出てくるのに!?」
「『レイチェル伊藤』はお母さんのペンネームよ!」
「俺たちの苗字『吉田』だよ!?『伊藤』はどっからきたの!?
なんでバスコ・ダ・ガマと戦ってるの!?
表現力も皆無じゃん!」
絶えないツッコミを受けて母は意気消沈する
「やっぱり・・・小説は無理なのかな・・・?」
「え?」
「いや、小説を書いて、売れれば生活も楽になるかなと思ってね?
あんたも来年受験だし、いい学校に入って欲しくて・・・」
「・・・」
自分たちの家計は決して良いものではない
それでも母は自分のために色々尽くしてくれているのだ
「お母さん、俺はいい学校に入らなくても良いし、
なんなら働くよ。お母さんは無理しないでくれ」
「ばか!そんなこと言わないの!!」
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「ふんっ!」
デュクシ!
「・・・え?何今の?」
「愛のパイルドライバーよ!」
「パイルドライバー!?愛の!?ビンタとかじゃなくて!?
体力の4分の1ぐらいもってかれたよ!なんでそんな大技決めるの!?」
「子供のあんたが家計とか私の体調とか気にしなくていいの!
存分に甘えなさい!お母さんはやりたくてやってるんだから!!」
改めて感じる母からの愛
きっと自分から何を言っても聞かないだろう。だったら
「わかったよ、お母さんありがとう。
小説も応援する。でも無理しないでくれ」
母は笑顔を取り戻す
「ありがとう。あら、気がつけば外も暗くなってきたわね」
そして母はボウガンを手に取り
「それじゃあお母さん夕ご飯狩ってくるね」
「それ誤変換じゃなかったの!?」
⭐️おしまい⭐️