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第7話 人族でしかない私

 シン国に来て半年が経ちました。シン国は話では聞いてはいましたが、独特な文化をお持ちなようです。


 今までドレスを着ていましたが、いくつもの衣服を重ねて着て、前で合わせた衣服を胸元で帯で留めるという変わったものでした。

 華服というものらしいのですが、胸から下がスカートという形が花のようだから、この様な名前がついたのでしょうかね?

 まぁ、私にとってはどうでもいいことです。


 私は従順なふりをして、この国から逃げ出す機会を虎視眈々と窺っていました。



 ただ、私がいるのは後宮という隔離された場所であり、外に簡単に出られないのです。

 ここで役に立つのが人脈です。


 シンセイ様の妃という方が、大勢いらしたようですが、全て解雇され一部の方々が私の女官という形で残っています。


 その中でも私に好意的ではない方々がいらっしゃいます。ええ、私一人の所為で今まであった立場を追われてしまった方々です。


 その方たちは私に色々なことを教えてくださいました。私をここから追い出し、今までいた立場に戻りたいという欲です。



 ある日のこと、私が私が市場というものが気になると言えば、下女の姿をさせて連れて行ってくださいました。


 高級な店なのか他に客もおらず、装飾品を取り扱っていました。


 主にカンザシというものを扱っている店で、店主の老人は私の赤い髪に合うものを次々と用意してくれます。


 しかし私にはこの国の価値観がよくわからないため、振り返って私を連れてきた女官たちに意見を聞こうとすれば、その姿は店の中に無かったのです。

 私は完全に放置されたのです。


 ですが、私には目的があるため、慣れないシン国の言葉をカタコトで話しながら、店主に色々聞いて商品を決めました。


 ここで逃げ出しても良かったのでしょうが、一番の問題がシンセイ様の存在です。


 必ず食事は共に取ることを求められ、突然私に充てがわれた部屋に現れることがあるのです。


 番という呪いが私を縛るのです。


 ですから、私は女官たちの姿を探しながらも、他の店に入り、店主から情報を引き出すのです。


 情報。それは商品の流通ルートです。連れてこられる場所は人通りが少ないのか、どの店も客がおらず、店主から情報を得るには最適でした。


 この商品はどこで作られてどういうルートで運ばれてくるか。どれほどの日数で運搬しているのか。


 そう、私の逃亡計画のための情報です。


 シン国内で作られている商品は除外です。私の望みは番からの逃げることです。


 ですから、他国で作られている商品に目を向けて、この半年間コツコツと情報を集めていたのです。


 流石に女官たちに隣国への渡り方は聞けませんからね。そんなことを聞けば不審がられるでしょう。

 聞けても他国との輸入品はどうやって入っているのかと、国ごとを考えている風を装わなければなりません。その答えは陸路だと言われたので、逃げ道として却下しました。

 陸路だと追いつかれる可能性が大ですから。


 ですから、陸路以外で他国に渡る方法を模索していたのです。


 そして夕暮れになった頃合いに女官たちは、『楽しまれましたか』と笑みを浮かべて聞いてくるのです。


 私のことを完全に放置でしたよね。と言いたいのですが、ここで反抗心を見せてはなりません。

 私では一般の龍人にすら敵わないのですから。




 ええ、シン国に来て一ヶ月経った頃でしょうか?

 私が住んでいる場所のことを、知りたいと言ったのです。住んでいる場所というのはもちろん後宮ということです。


 住んでいる場所の造りを知らなければ、逃亡計画は成り立ちません。


 女官たちが言うには、一日で回ることが出来ないというので数日にわけて、後宮内を見ることになったのです。


 後宮の造りは基本的に建物がいくつも建ち並び、その建物同士を屋根がついた石畳の廊下で繋いているという感じです。


 ですから、雨の日でも建物と建物との移動には困らないという造りでした。


 三日目の日にそれは起こったのです。


 高い壁の向こうに見える大きな建物は何かと尋ねたときでした。私は何も知らなかったので、右手をその建物に向けて指し示したのです。


 すると「いけません」という言葉と共に、右手に激痛が走ったのです。最初は何が起こったのかわかりませんでした。

 声にならない痛み。痛いと叫ぶことが出来ない痛みに襲われたのです。


 そして意識を失いました。


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