誰も私の味方をしてくれない。
父と母は、幼い頃に頭を打ってから、おかしくなった私が嫁に行く相手ができてほっとしているところなのでしょう。
ユーリウス王は、300年間も一国を治めている龍王と事を構えないように、ご機嫌伺いに必死です。
ハイバザール辺境伯様とイーリア様は本気で番と共にいることが、私の幸せだと思い込んでいる。
つがい。つがい。つがい。つがい。
この呪いから解放される方法はないの?
「カトリーヌ。皆が祝福してくれているではないか」
背後から聞こえる声に耳を塞ぎたくなる。
貴方が必要としているのは私ではなくて、『番』という呪われた存在。
「わかった。そこの娘に執着があるというなら、その娘も連れていけばいい。一人で我が国に来るのが不安だというのだろう?」
イーリア様を? 三ヶ月後にヴェルディール公爵家に嫁がれるイーリア様を?
「それで、カトリーヌの側仕えにすればいい」
その言葉に背後に向けて思いっきり拳を振るう。
「イーリア様は貴方がぶっ殺したヴェルディール公爵の跡継ぎに嫁がれる方です! 私の侍女にしていい御方ではありません!」
しかし、その右手の拳は軽く受け止められてしまいました。私の背後にいたシンセイ様にです。
「別にヴェルディール公爵を殺してはいない。八つ当たりをしてしまったというだけだ」
それもニコニコと笑顔で言われると、更に苛立ちが募り、左手の拳も繰り出します。
しかしその左の拳は下に往なされ、何故か身体が回転し、シンセイ様の腕の中に戻っていました。
私が今まで鍛えてきた武術は龍人には通じなかった。所詮、私は人族ということなのだと思い知らされました。
「カトリーヌは、武に長けているな。使えない部下よりいい拳だったぞ」
……それ全く褒めていません。
「カトリーヌが望むなら、一人ぐらい連れて行ってやってもいいぞ? どうする?」
これは、私がシン国に行かないという選択肢が考慮されていない質問です。シン国に行くのに連れて行きたい者はいるかという質問。
この質問に私は答える言葉はありません。なぜなら私は行くことに了承などしていないのですから。
「龍王陛下。まだ子供というのであれば、そこの親を連れていけば、よろしいのではないのでしょうか?」
陰険メガネ! なんて言うことをいうのですか!
「李斎、それはいい案……」
「シンセイ様! 付き人は必要ありません!」
私は思わず叫んでしまった。両親を遠く離れた東の地に行かすわけにはいかない。
「そうなのか? カトリーヌの両親なら喜んで迎えいれるぞ」
「……必要ありません」
私を見つめる黒曜の瞳に映る私の赤い瞳は、虚空を映していた。