「嫌です!」
私ははっきりと言います。
しかし私の言葉に場の空気は最悪と言っていいでしょう。
「うっ……こう何度も直接言われると、胸が痛い」
私の言葉に傷ついたと言って、自分の胸に手を当てている龍王シンセイ様。
「カトリーヌ。カトリーヌの幸せの……」
「お父様は黙ってください!」
「カトリーヌ。番は共にいるものなのよ?」
「お母様。私にはさっぱりわかりません」
「エランディール子爵令嬢。これは個人の問題ではなく国家間の……」
「先々代の国王陛下の肖像画に落書きをして、消すまでおやつ抜きになった国王陛下には関係ありません」
「……」
今まで私に注目されていましたが、中央の偉そうな椅子に座っている男性に視線が集中します。
お祖母様が王家の血筋でしたので、王家の裏話は耳に入っていましたよ。前世の話ですが。
そして、ここは王城の一室になります。ここで何が行われているかといえば、私の説得です。
シンセイ様が国に帰るときに、私もシン国に帰ろうと言いやがったのです。
だから私は嫌だと言っていると、両親が呼ばれ、国王になったばかりのユーリウス王が呼ばれ、それでも私が折れないのでハイバザール辺境伯と私が仕えているイーリア様を呼びに行っているところなのです。
「人族という者は面倒ですね。陛下が五十年前にさっさと公爵令嬢を連れて帰らなかった理由はコレですか。まさか本当に未熟だと番がわからないとは」
ちっ! 前世のときから変わらず側近メガネは口が悪いですわ。
それからエリザベートは50年前には、まだ生まれていません!
側近のリサイという方は青い髪が印象的な龍人ですが、前世の記憶でも子供だった私に辛辣な言葉を言ってきました。リサイと名を言えず、『リシャイ』と名を呼んでしまった腹いせかと思っていましたが、元々こういう方なのでしょう。
「お呼びと伺い参上仕りました」
私が陰険メガネにイラッとしていますと、ハイバザール辺境伯様とイーリア様がこの部屋に入ってこられました。
私はシンセイ様から横抱きに抱えられている膝の上から飛び降りて、イーリア様の元に行きます。
「イーリア様。途中からお側を離れてしまって申し訳ございませんでした」
私は付き人として、イーリア様についてました。レイモンドを人の気配がないところに追い込んで、思いっきり一発殴って、直ぐにイーリア様の元に戻ろうと思っていました。
なのにまさかの龍王シンセイ様の番宣言。
ただの子爵令嬢でしかない私は権力者に逆らうことは許されず、連行されることになったのです。
ですから、まずはイーリア様に謝罪します。私が仕えるご令嬢なのですから。
「ハイバザール辺境伯様。私のためにここまで足を運んでいただき、申し訳ございません」
そして私の雇い主であるハイバザール辺境伯様に謝罪します。イーリア様に似た金髪がよく似合うオジ様です。
そのハイバザール辺境伯様は困惑の表情を浮かべています。
ええ、まさかこのようなくだらないことで呼ばれるとは思っていなかったのでしょう。
「エランディール子爵令嬢。今まで娘によく仕えてくれた。ハイバザール辺境伯として礼を言う」
……一瞬何を言われているのか理解できませんでしたが、言葉だけは口からこぼれ出てきます。公爵令嬢として人との付き合いをしてきた経験が、私の困惑をよそに言葉がこぼれ落ちました。
「勿体ないお言葉でございます」
これはもしかして……
「エランディール子爵令嬢であれば、シン国に渡っても立派にやっていけるだろう」
こ……これは解雇。
「カトリーヌ。貴女にはとても感謝しているわ。貴女がいてくれたからこそ、私は公爵夫人としてやっていけると自信になったのですもの」
ええ、イーリア様には公爵令嬢時代の知識をお教えしましたから、ヴェルディール公爵夫人として立派に務めをはたすことはできることでしょう。
「カトリーヌ。なんていう顔をしているの? 一生に会えるか会えないかの番に出逢ったのでしょう? 笑顔でいなさいな」
イーリア様。私は出逢いたくありませんでした。それに……
「私はヴェルディール公爵家に嫁ぐ、イーリア様についていくつもりで……」
「カトリーヌ! 私のことより自分のことを最優先に考えて! 今思えば、私は今までカトリーヌに、何かと頼りすぎだったと反省しているの。カトリーヌはシン国に行くのが一番幸せなのよ」
私の幸せ?
私の幸せを壊した番と共にいるのが幸せ?
そんなことがあるはずはないわ!