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第4話 やっと捕まえた

 視線を上げると黒色の瞳と目が合いました。デジャヴ。

 それも人を視線で殺せるのではと思うほどの鋭い眼光。


「エリザベート嬢」


 今のこの私を前世のエリザベート・ヴェルディールと認識する人物は、二人以外居ないと言っていいはずでした。

 エリザベートの兄であるヴェルディール公爵は、若くして病に倒れ亡くなったと風の噂で聞きましたし、両親もエリザベートが五歳の時に事故で亡くなっています。


 ですから、この姿をエリザベートと認識する人は居ないはずでした。そう、この国には。


 三百年という長きに渡ってシン国を治めている龍王セイシン様。

 長身の闇に溶け込むような黒髪の龍人です。私は前世で会っているのです。ヴェルディール公爵令嬢として。


「エリザベート嬢、生きていたのか……」

「私はカトリーヌ・エランディール。エランディール子爵の第一子になります」


 私は名乗り、王族に対して行う深々とした礼をとる。


「いや、君はエリザベート嬢だ。私の魂がそう言っている」


 なんですか? それ。

 それに私が前世でお話をしたのは片手で数えるほどです。龍王に何かを言われるようなことはしていません。


「だが、何も感じない何故だ?」


 あの、私はここから離れてもいいでしょうか? ぶん殴って放置しているレイモンドとナタリーを……もう! 私がヤッてしまったとバレバレではないですか!


「魔力がない?」


 そう聞こえた瞬間。未だに頭を下げている私の頭に手が置かれ、バチッと電撃が走った感覚に襲われ……は? 何してくれやがったのですか!


 私が自分自身にかけていた魔力抑制の効果が強制解除されているのでありませんか!


「やっと捕まえた。私の番」


 文句を言おうと顔を上げた私に、昔の記憶にある穏やかな笑みを浮かべた龍王が、とんでもないことを言いやがりました。



 番。それは人を狂わせる恐ろしい存在です。















「エリザベート嬢。私は貴女が成人するまで待っていたのだ」

「私はエリザベートという名ではなく、カトリーヌです」


 私を番だと言い腐った龍王は、強引に私を連れ去った。恐らくこの国に滞在するためにあてがわれた離宮でしょう。


 そして何故か龍王の膝の上に抱えてられいる私。その今の私は無心です。


「人は成人するまで番だとわからないと聞くが、カトリーヌはいくつになる?」

「先日成人しまして十八歳になりました」


 そうなのですか。周りに番という存在が居ないので知りませんでしたが、成人しないと番だとわからないと……私には何も感じないので、これは龍王の勘違いだと思います。


「そうか。私はエリザベート嬢が成人したと聞いたので、二十五年前に迎えに行ったのだよ。しかし、私の目の前にいたエリザベート嬢は冷たく動かない存在になっていた」


 確か、私の結婚式の翌日に龍王が訪問されると……ん? これはそのままいけば、結婚した私が龍王に会っていたということですか?


「私はそのことに絶望した。公爵に八つ当たりをしてしまったが、今思い返せば、それが原因で彼は早世してしまったのだろう」


 ……お兄様! あのあと龍王にボコられていたのですか!

 いいえ、その前に私は結婚していましたよ。


「あの……」

「なんだ? カトリーヌ?」


 凄く甘い声で名前を呼ばれて、虚無の境地に陥りました。

 ああ、そういえば、昔もそんな感じで名前を呼ばれていたと思い出します。


「そのエリザベート嬢という方が番だということは、どなたかに言われていたのですか?」

「勿論、この国の先代の国王とエリザベート嬢の父上に言っていた」


 ……こ……これは、お父様が誰にも言っていない可能性が出てきました。

 私とレイモンドとの婚約は十歳のとき。お父様が亡くなったのは五歳のとき。


 お兄様! これはお父様が悪かったのですわ。


「そうなのですねー。取り敢えず、私は帰っていいですか?」


 イーリア様に何も言えずにここまで攫われてしまったので、帰りたいです。とにかくこの状況から解放されたいです。


「そうだな。カトリーヌの父上に挨拶はしておかないとな。カトリーヌを妻に迎えると」


 ……私の父に挨拶……私を妻に……そんなことを言えば、両親は喜んで私を龍王に押し付けることでしょう。


「しかし年齢が成人していても、身体が小さいと、番とは認識しないものなんだな」


 多分、背が低いのは母に似たからだと思います。だから成人云々と身体の大きさは関係ありません。


「まぁ、五十年まったのだ、共に暮らしていけば一年二年ぐらいあっという間だ」


 エリザベートが生まれてから五十年は経っていません。それから何故これから一緒に暮らすことが決定されているのですか?


「そうだろう? 私の可愛い番」


 そう言っている龍王の黒い瞳に映る私の赤い瞳は、死んだ魚の目をしていました。


 私の番に対する感知機能は、前世の私の心が死んだ時に失ったのでしょう。


 私を裏切ったレイモンドとナタリー。そしてエリザベートという番に固執した龍王。


 番とは呪いだと思いませんか?




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