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第3話 お久しぶりね

 戴冠式が無事に終了し、新たな国王となったユーリウス王。私の位置からでは遠目でしかわかりませんが、先代の陛下に似ておられます。私の記憶は五歳の第一王子殿下の姿で止まっていましたが、立派になられました。


 そのユーリウス王から祝賀パーティーの開催の挨拶がされ、ユーリウス王とシエラ王妃が会場の中央で踊られ、華やかな雰囲気でパーティーが始まりました。


 流石新たな王の祝賀パーティーとなりますと、各国の要人の方々が招かれています。


 隣国のアスレリア国王。貿易が盛んなギルベーラ共和国の国主。ヴァルト国の獣王。シュエーレン神聖国の聖王。


 あら? 極東のシン国の龍王までいらっしゃる。前世でお見かけしたときは穏やかな雰囲気の方だと思いましたが、なんだか人殺しのような目で場内を見下ろしていますわ。


 前世と違い、各国の要人の方々とは関わることはないですが、視界には映りたくありませんわね。


 一瞬、黒色の瞳と目が合ったような気がしましたが、気の所為ですわ。



 そして私は視線を巡らし、目的の人物を探し当てます。

 金髪に白髪がまじり始めた四十代中頃の男性です。


 あれから二十五年たちましたもの、歳はとりますわね。


 その隣には小じわが目立つ紫色の髪の女性。

 ええ、レイモンドとナタリーで間違いはないですわ。


 私は国王陛下と王妃殿下のダンスを魅入っている二人の背後に近づきます。


「カウザーニ侯爵様。そしてナタリー。お久しぶりね」


 そう、私は声をかけます。その声に二人はビクッと肩を揺らし、恐る恐る私の方に振り返りました。


「……エリザベート……」

「ひっ! ヴェルディール公爵令嬢様」


 二人は私に視線を固定しながら、一歩さがります。


「何故……」

「何故?」


 私の姿に疑問を呈するレイモンドに向かって一歩踏み出します。すると二人はそんな私から距離を取るようにまた一歩後退しました。


「何故、エリザベートが生きて……」


 エリザベート・ヴェルディール。それが前世の私の名前。

 そしてエリザベートとカトリーヌの共通点。それは赤い髪に赤い目。

 ですが容姿は違います。だからそれを補うために、前世と同じように見えるように化粧で誤魔化しているのです。


 まぁ、あと背の高さと身体の厚みが違いますので、そこはヒールとドレスで補いました。


 急に痩せるのは難しいですが、詰め物をするのは可能です。自分で言っていると悲しくなりますが。


 よく見れば容姿が違いますが、彼らからすれば、エリザベートが蘇ったように見えていることでしょう。


「生きていないわ。あの日、私の結婚式があるはずだった日。死にましたもの」


 そう言ってまた一歩踏みだします。


 すると今度は二人揃って二歩三歩と下がって行っています。その距離を詰めるように足を踏み出す私。


「死んだというなら君は誰だ」

「私はレイモンドのこと愛していたのよ?」


 詰め寄る私に対して、恐怖が浮かんだ表情をしながら、距離を取ろうとする二人。


「でも、番だからという理由で、私の全てをナタリーに奪われてしまった。それが悔しくて、恨めしくて、ここに来てしまったのよ」

「ひっ! しかし! 番は共にいることが常識だ」

「その常識の所為で私の人生は壊れてしまった。ねぇ、ナタリー。私のドレスを着た感想はどうだった?私の幸せを奪って今は幸せ?」


 ナタリーは私の問いには答えない。答えられない。ガチガチと歯の根が合わず、息をするのもままならないようになっている。


 そして私の頬を冷たい風が撫ぜる。二人を追い詰めて人気のないバルコニーまで誘導してきた。


「私はね。今が一番幸せ。だって私を壊した二人に復讐できるのですもの」


 私は普通の人には目に止まらない速さで、二人の背後に回り、バルコニーの柵の上に立つ。


「え? 消えた?」


 戸惑っているレイモンドは無視をして、ナタリーの首を軽く蹴る。すると糸が切れた操り人形のように倒れ込むナタリー。それをレイモンドが支えようとして、背後にいる私に気づき、固まってしまった。


 貴方の大切な番が床に倒れてしまっているけどいいのかしら?


 私がバルコニーの床に降り立つと、レイモンドはナタリーを置いて背を向けて逃げようとする。


「レイモンドの大切な番のナタリー。レイモンドに助けてもらえなくて可哀想」


 私はそう言いながら、床を蹴り逃げるレイモンドの前に立ち塞がる。


「ひっ! エリザベート許してくれ! あのときは仕方がなかったのだ!」

「そうね。番だから仕方がない」


 私の言葉にレイモンドはホッとした表情を浮かべた。その顔に思いっきり拳を振るう。

 当たる直前に拳を止めたものの、衝撃波で脳を揺らすレイモンド。倒れ込むレイモンドの胸ぐらを掴んで、揺さぶり起こす。


「あ……」

「私の心は、あの結婚式の日に死にました。番だからと言って全てが許されるとは思わないことね!」


 拳を握り込み、思いっきりレイモンドの腹に叩き込む。そして回し蹴りをして吹っ飛ばす。くの字に折れ曲がりながらバルコニーの柵に叩きつけられるレイモンド。そしてトドメと言わんばかりに、踵が高いヒールで腹に踵落しを入れる。


「あースッキリした」


 バレると面倒なので、さっさとここを離れるに限ります。そう思い振り返ると、黒い壁が立ちはだかっていました。

 なんです? この壁?

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