「一応は余計ですよ、先生」
この人が室戸の言った刑事なのだろうか。
その男は黒縁の眼鏡をかけて冷たそうな目をのぞかせている。室戸よりは十数個以上年下のように見えるが、どのようなつながりがあるのだろうか。
「急にすまない。東部警察署の浅海です」
「僕の教え子で、今は刑事やってるんで、今回ちょっと協力してもらったってわけ」
浅海は苦虫を嚙み潰したような顔で室戸を見る。
「やっぱり室戸先生は人使いが荒いね」
怖い怖いと数馬は縮み上がるような動作をする。確かに教え子とはいえ刑事まで動かしてしまうとは恐ろしい。
「本当ですよ。それに無茶のしすぎです。生徒も巻き込むし、元はと言えば先生の変な想像が原因ですし。私まで危ない所でしたから」
浅海はぐちぐちと文句を言う。相当室戸が無理強いをしたのだろう。
「とにかく、被疑者は連れていきますけど、先生にもじっくり後で話聞きますからね」
そう言うと浅海は朱音たちに礼をし、警官たちとともに大崎を連れて行ってしまった。
嵐のようにことは過ぎ、朱音たちはぽつんと取り残されたような静けさが広がる。
「さ、取り敢えずは浅海君に任せて、大学に帰るよ」
あまりにもあっさりしすぎている室戸に朱音は疑問を持った。仮想だとしても、なぜこんな学校の構想を立てたのか、なぜそれが大崎にばれたのか、どこか違和感がある。
あまりにも物語的に事が進み過ぎてはいないか。
「室戸先生、なんでもっと早く浅海さんに相談しなかったんですか」
「いろいろ難しいんだよ。証拠も、大崎の後ろ盾も。だから現行犯で捕まえなきゃならんかったのよ」
朱音は腑に落ちないというような顔で室戸を見つめる。
中井はそんな朱音を見ながらいたずらに笑った。
「大丈夫だよ。室戸先生は不器用なだけだから」
「不器用なだけ、ですか」
朱音が室戸の顔を覗くと、室戸は不服そうな顔をする。
「誰が不器用だって」
「何にも言ってません!」
室戸は大きくため息をついてから、朱音たちを見回す。
「悪かった、お前らを巻き込んで。もっと早く動けてればとも思う。すまん」
室戸はそう言うと、深く頭を下げた。強気な姿ばかり見ていた朱音は言い表せない決まりの悪さを抱く。
「室戸先生にも償ってもらわないと気がすまないな」
中井は能面のような顔になり室戸に向かって言った。
「罰として、ボランティアサークルに毎週必ず顔を出すの刑でどうでしょう」
「は?」
室戸はキョトンとした顔で中井を見つめる。朱音も口をぽかんと開けたまま石化されたように動かない。深刻な雰囲気とセリフがあっておらず、状況が呑み込めない。
「面倒がらずに学生と地域の人々と向き合う。素晴らしい償いでしょう。今回みたいに事件も解決しちゃったりして」
「また面倒なことを……」
中井は深刻そうな顔からにやにやとしたいつもの表情に戻る。室戸は呆れたというような顔をするがどこか力が抜けてほっとしたようにも見える。
「朱音、巻き込んでばっかでごめん。俺いっつも自分勝手で朱音の平和乱してるよね。」
「違います。先輩はいつも面白い方へ、楽しい方へ導いてくれてるんですよ」
朱音はにこりと笑って見せる。寿命の縮まる思いもしたが、中井が居なければこんな経験をすることも、いろいろな人との出会いもなかっただろう。
「また事件があったら、今度は一緒に解決しましょうよ」
「そんな頻繁に事件に会うのもごめんだけどね」