目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話 再訪す

 フィールドワーク当日、朱音は加藤に指示された西門の前で待っていた。


 スーツ着用が指定だったため、入学式で着用したものを着ている。ヒールを履こうか迷ったが、非常時に備え、比較的動きやすい高校時代のローファーを履くことにした。


 予定の時間になると、加藤が現れた。


 「ちょっと向こうに車止めてあるからついてきて」


 一瞬車移動に拒まれたが、朱音は室戸に言われた通りはいと答える。SF映画であれば、このまま怪しい組織の施設に連れていかれるのが筋だ。

 パーキングには7人乗りの白く大きなボックスカーが止まっており、先に4人乗っている。男女二人ずつで、朱音との面識は全くない。


 「こんにちは。私たちもフィールドワークに行くんです」


 軟らかい雰囲気の女性が挨拶をする。


 「お願いします」


 皆教育に興味があるというだけあって、親しみやすい人が多い。


 「え、夏川さんて1年生なの⁈」


 3年生の永井は驚いた顔で朱音を見る。


 「そうです。ちょっと興味があって」

 「偉すぎる。確かに現場見ることとは大切だからね」


 教育学部以外にも文学部、理学部の学生もいる、比較的ラフな見学会らしかった。


 外の風景はだんだんと田畑が増え、のどかな空気が流れている。朱音はその風景にどことなく懐かしさ、いや、強固な既視感を抱いていた。


 「見学に行く学校は何て名前なんですか」

 「森の星学園っていう小中高連携の学校なんだけど、今回は小学生のクラスを見てもらおうと思う」

 「小学校教諭の免許取るので見学できるのはうれしいです」


 朱音は愛想笑いをつけ足してそう答えた。


 しばらくすると車は森の中に入っていき、やはり見覚えのある建物が見えてきた。朱音が以前訪れた錦病院跡地だ。大きな門は自動で開き、車のまま入っていく。


 中は広大な敷地が広がっていて、この間は見ることのできなかった新しい建物もいくつか並んでいる。


 「こんなところに学校があるんですね」


 朱音はあくまで初めて来たという体で言う。


 「ちょっと奥まってるんだけど自然もあっていい所でしょ」


 たまたま中井の暗号にあった地にフィールドワークで訪れるとは考えにくい。やはり失踪と何か関係があるとみて間違いなさそうだ。そう思い辺りを警戒しながら進む。


 敷地の周りを一周した時にもその広さを痛感したが、中に入るとその広大さに改めて驚かされる。整備された芝生が広がり、小さな町のような感覚だ。


 「この学校は全寮制ですか」

 「そう。あの建物は生徒たちの家で、自立的な生活を促す効果もあるらしいよ」


 加藤は何度か訪れているらしく、ガイドのように校内を案内する。


 「どうしてこの学校でフィールドワークを行えることになったんですか」

 「この学校の先生とうちの大学の先生で交流がある人がいて、そのご厚意でたまに見学会をさせてもらってるって感じなんだよ」

 「なるほど。ここ、病院の跡地なんですか。あの建物にうっすら名前がありますけど」

 「そう。あれが今の校舎で、見た目はあんなだけど中はリノベーションされててきれいになってる。まあ入ればわかるかな」


 恐る恐る一同がその建物に入る。すると、加藤の言う様に内装はとてもきれいで都会の大企業を連想させるような革新的な設備がそろっていた。


 「これが、学校?」


 ファミレスで見るような自力で動くロボットがウロチョロとしている。


 「すごい。こんなところだったなんて」


 外観とのギャップがあまりにも大きい。こんな学校を作るなんて、いくら要したのだろうと朱音は下世話なことを考えてしまう。


 「これから2階に行きます。2階は小学生のクラスしかないので、皆さん自由に見て大丈夫です。見学の際は首から会員証だけ下げてください」


 来校者と書かれたネームプレートを首にかけ、エスカレーターで2階に上がると、子どもたちの声が聞こえてくる。他の学校と構内の雰囲気は違うものの、にぎやかさだけは朱音の持つ小学校感と変わらない。


 1年生のクラスを覗いてみると、机が10個ほどしか並んでいない。それほど過疎な地域ではないようだから、少人数指導を採用しているのかもしれないな、と朱音は観察する。

 休み時間らしく子どもたちはおしゃべりをしたり本を読んでいる。


 「お姉さんどこから来たの?」

 「東部大学ってところだよ」

 「ねえねえ、このキャラクター知ってる?」

 「あ、これかわいいよね」

 「おれめっちゃ腕相撲強いんだよ」

 「お、すごいねぇ」


 朱音はあっという間に子どもたちに囲まれ、そのパワーに圧倒される。

 チャイムが鳴り子どもたちが席へ走っていくのでほっと胸をなでおろす。


 先生と思わしき男性が中に入ってきた。しかし、男は何も話さず、ただ子どもたちを眺める。子どもたちはタブレットを取り出し、何か作業を始める。どうやらタブレット学習をしているらしい。


「さすが最新」


 教育のICT化が進んでいるとは聞いていただ、まさかここまでとは。朱音は自分の小学生時代と比べ、その進歩に感動する。


 後ろからタブレットを覗くと、どうやら算数の学習らしい。いや、これは数学か。しかも高校生レベルのものだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?