不穏な中井の告白に、ただでさえ薄暗い道がさらに闇が濃くなったような気がしてくる。
生ぬるい風が朱音の頬をなでた。
「連絡が取れないのは、忙しいからとかじゃなくてですか」
中井は「まあね」と言いながらも深刻そうな表情を浮かべる。
「確かに4年生は就活も卒論もあるし引退も近いから連絡が取れないのはわかるよ。でも音信不通なのは4年だけじゃなくて3年生の中にも、俺らの同級生の中にもいるんだよね」
よく話を聞くと、2年生に1人、3年生に2人、4年生に3人の合計6人と連絡が取れないらしい。
さらに奇妙なことに、中井の知る限りその6人は授業にも全く顔を出していないという。
「行方不明ってことですか。いつからなんですか、それ」
「去年の夏休みぐらいからかな。合宿が夏の前半にあったんだけどその頃はちゃんと来てたから。今は家にも帰ってきてないらしいよ」
連絡が取れなくなった時期に多少の差はあるものの、ほとんど同時期だという。やはりなにか事情があるようだ。
「先生方には相談したんですか。あとご家族とか」
「相談したんだけどわからないの一点張りでさ。家族からも特に何も連絡なくて。退学したわけではないんだけど、体調が悪いのか精神的なものか、全く分からないんだよね」
あまりにも不自然ではないか。体調や精神的なものだといても6人が一斉に消えることがあるだろうか。しかも同じサークル内で起こっている。
人間関係のトラブルか、留学か、外部での活動か。朱音は様々な可能性を探るも、どれもいまいちしっくりこない。
「で、なんで大学内でその話しなかったんですか」
「いやぁ、大学内に黒幕がいるんじゃないかってちょっと俺らでうわさになっててさ」
「黒幕? ってことは誰かが仕組んだってこと?」
中井は否定しつつもやはり引っかかるものがあるという。
「まあないとは思うけどさ、時々これ、失踪事件なんじゃないかって思ったりして」
「事件、ですか」
失踪事件。それはドラマや小説の中だけではないとわかってはいるが、まさか身の回りで起きるとは思わなかった。確かにこの不自然さはそれぞれに何かが関連していると見た方が、むしろ自然である。
「朱音はミステリー小説好きだから解決できるんじゃない?」
「いや、何言ってるんですか。私は私立探偵でも刑事でも能力者でもないですからね」
朱音は確かにミステリー好きである。サスペンスドラマの再放送も小さい頃から母と視聴し、ミステリー小説も有名どころは読破した。
国語コースを選択したのもミステリー小説を愛読していることが理由であった。
「だとしても現実の事件は無理ですよ。事件性があったら警察に相談するのが普通ですって」
しかし中井たちが警察に相談しようとしたところ、失踪した学生の保護者は皆断ったという。
「それもおかしいですね。保護者さんは何か事情を知っている、とか」
「だよね。大崎先生は大学生なら休学はよくあることだって重くとらえなかったし、サークルの顧問もあんまり相談に乗るタイプじゃないし」
中井はうーんとうなり、空を見上げる。朱音もつられて空を見上げるとすっかり暗くなっていた。
「しょうがないけど顧問に聞き込み行くか」
中井は意を決したように言い、大きく「よし」とうなずく。
「しょうがないなぁ。私も付き合いますよ」
朱音にはここまで聞いてしまっては引き下がることはできなかった。どこかでミステリーオタクの血が騒ぎ始めたらしい。
「じゃあ明日どっか空いてる時間ある?」
「2限目なら空いてますけど」
「じゃあ2限目に教育学部棟集合で」
「了解です」
朱音は中井と別れ歩き出すと、再びまんまと中井の思惑に乗せられていたことに気が付く。断ることができない自分の性格とオタク気質にげんなりしつつも朱音は失踪の謎について考え始めた。