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空きコマミステリー――ボランティアサークル連続失踪事件――
月野風斗
ミステリー警察・探偵
2024年11月03日
公開日
7,449文字
連載中
 ギリギリで大学に合格した新大学1年生の夏川朱音。中学高校時代の先輩中井数馬に誘われ、ボランティアサークルの説明会に行くことに。しかし中井にそのボランティアサークルではメンバーが次々と行方不明になっていると知らされる。
 お人好しな朱音は段々と不可解なサークル事情へと巻き込まれていく。
 朱音は連続失踪の真相にたどり着くことができるのか――

第1話 桜舞う―再会―

 ゆっくりと歩いていると、まだ少し冷たい風が吹き付け、桜の花びらが空いっぱいに散っていく。


 朱音あかねは大学のガイダンスを聞き終え、必要な教科書や道具をすべて買いそろえた。その安心感からか、本当に入学できたのだという実感と疲れに襲われる。


 この春、夏川朱音は国立大学の教育学部に入学した。入学試験の一次で大コケしたものの何とか二次で挽回することができ、ぎりぎりの合格だった。経済的に国公立大学への入学は絶対条件であったため、安心はより大きい。


 大学内は思ったより広いのだなと感心しながら歩いていると、サークルの勧誘だろうか、上級生と思われる集団がチラシ配りをしているのが見えた。

 朱音は勢いに圧倒され、その集団からゆっくりと遠ざかる。


 道の端に落ち着くと、リュックに入れていたスマホがピコンと鳴った。心配性な母からのメッセージかと思い、朱音は両手の紙袋に手こずりながら急いでスマホを取り出す。


 “お久しぶりでございます 答え難かったらいいけど進路どうなった?”


 メッセージの主は母ではなく、中学・高校時代の先輩、中井数馬なかいかずまであった。中学に上がるまで面識はなかったが、朱音の家と近所であることもあり卒業してからも親しくしている。


 朱音は受験で余裕がなく進捗を全く中井に連絡していなかったため、気にしてくれていたらしい。そう考えると悪いことをしてしまったと朱音は罪悪感に駆られた。


 “ちなみにどこ合格したの?”


 答え難かったら言わなくていいと言いながら、攻めた質問をするところは相変わらずだ。   

 中井の変わりない雰囲気をまとった文章がうれしく、朱音はくすっと笑ってしまう。


 “今ガイダンスに来てるんです”


 こう送ったら察してくれるだろうか。

 いや、一歩間違えればホラー展開になってしまうかもしれない。


 “先輩と同じ大学ですよ”


 いやいや、これはストレートすぎて気持ち悪いか。どこぞの恋愛マンガじゃないんだから。


 朱音はメッセージを書いては消してと繰り返す。


 “連絡できてなくて申し訳ないです ちゃんと合格して今大学のガイダンスに来てます”


 結局少々堅い文章に行きついたが、これ以上考えてもキリがないので気にせず送信する。

 するとすぐに既読がつき、返信が来た。


 “え、ガイダンス? まさか東部大か?”


 どうやら気が付いたらしい。


 その通り、朱音が入学したのは中井と同じ東部大学とうぶだいがく教育学部なのだ。


 “そのまさかです また後輩になるのでお願いします”

 “おめでと もうサークルとかは決めた?”


 朱音は合格したことに満足し、サークルについてはあまり調べていない。その旨を送信すると、あるURLが送られてきた。


 開いてみると東部ボランティアの会というサークルのホームページが表示される。そこにはゴミ拾いや募金、子どもたちと触れ合う写真などが貼られていた。


“うちのサークル人手足らないから、よかったら説明会遊びに来て”


 「分かりました」と自然な流れで返信を終えてから、まんまと中井の勧誘に乗せられた気がしてわずかに悔しさが湧いてくる。


 思えば先輩が大学に進学してから丸一年会っていないではないか。イケイケな大学生に染まっていたらどうしようか。悪い大人に騙されてないか。

 ふと朱音はおせっかいな母親のような思考に陥る自分に気づき、賑わう道端で一人くすくすと笑った。


 ガイダンスから一週間後。

 初めての大学の講義を終え、誘われていたボランティアサークルの説明会に行くことにした。


 肝心の講義は教育関連ということもあり穏やかな教授が多く、想像以上に楽しい学生生活となりそうである。

 同じ学科の人たちとも連絡先を交換することができ、ボッチ生活を送る心配もなさそうだ。


 構内のあちこちで同じ大学1年生らしい集団がガヤガヤとしている。明るいオーラが強く、耐性のない私には刺激が強いと、朱音は足を早めた。


 構内には部活棟があり、説明会は部活棟の305号室で行われるという。

 しばらく歩くと他の講義棟よりは外壁が汚れ、寂れた雰囲気の建物が見えてきた。


 朱音はその外見から若干躊躇ためらわれたが重い扉を開け、恐る恐る中に入る。

 中では見た目とは裏腹に大勢の学生が活動をしていた。空手部やチア部、ダンスサークルなど様々な衣装を着た人々でごった返している。


 「おっ、一年生? ちょっとうちのサークル見てかない?」

 「写真サークル募集してます。 よかったらチラシどうぞ」


 どうして新入生だとわかるのか、朱音はあっという間に囲まれてしまった。


 「あかね、こっち」


 どこからか聞き覚えのある声がする。


 何とかその声を頼りに人の波をくぐり抜けると、そこには一年前と全く変わらない中井数馬の姿があった。


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