「で、どういう状況なワケ?」
夜、やって来たのは警察。とついでにラゼク。
あと何故かティターニまでついて来てる。
「わ、私は街中で急いでいるラゼクさんをお見かけしまして……」
「それで気になってついて来たってワケ。ほら探し物なら人数多い方がいいでしょ?」
「ふ~ん」
ま、それはともかく。
工場の電話が生きてたお陰で通報が出来た。
アイツら律儀に電話代払ってたんだな。
頭目をはじめ、御用になる強盗団。
離れている仲間が捕まるのも時間の問題だろう。
連行されていく強盗団を見ながら、顛末を語る。
「あぁ、つまりな? 落とし物を取りに行ったらグウィニスが大暴れで大団円なんだよ」
「それでアタシに何を理解しろっての? 全然わかんないんだけど」
そんなの言われても俺だってついていけてないんだもの。
俺が説明して欲しいくらいだもの。
「ま、まあもういいでしょう。それで、そのグウィニスさん? はどこにいらっしゃるんですか?」
「事情聴取だってよ。つってもすぐ戻ってくんじゃない? 警察からしたら強盗団を潰してくれたヒーローなんだし、丁重にもてなすだろうよ。……っと噂をすればだ」
警察官に話をし終えたグウィニスがこっちに向かって歩いてきている。それも手を振りながら。のん気なもんだな。
「思ったよりも早く終わったわ。警察の人って良い人達よね。私を褒めてくれたりして、お菓子も貰っちゃった。はいコレ貴方達の分」
「わあ! ありがとうございます」
「え? ボ、私の分もですか? はぁ、ありがとうございます」
喜ぶラゼク、と困惑するティターニ。ティターニからしたら初対面だしな。
あれ? 今ティターニにウインクしなかったか? 気のせいかな……。
渡された紙袋には焼き菓子がいくつか入っていた。こういうのっていいのかね?
野郎警察官の下心が見え隠れするそれを受け取る。帰ってから食ーべよっと。
「わけわかんない騒動に巻き込まれたけど、目的のブツも戻ったし、もう解散でいいよな? 疲れちゃったのよ、いろんな意味で」
「ふふ、こんな遅い時間まで付き合わせちゃってごめんなさいね?」
「いいんですよ。何があったかよくわかりませんけど、エルならいつでもお貸しいたしますから。性根が治るぐらいこき使ってやってください」
(でも彼女と一緒に旅して来てこれなんだよね、エレトレッダって)
俺の代わりにラゼクがふざけた返しをしてくれやがった。
俺の性根が腐ってるみたいに言いやがって……!
「おい、待て待て。お前は見てないから好き勝手言ってるけどな! 今回は俺の方が被害者だぜ? お前ってヤツは偏見で物を見やがって、もっと柔らかい見方っての身に付けろってんだ。胸の硬さはどうにか出来なくてもせめて頭ぐらいどうにかしろよ?」
「ッ! いちいち人のコンプレックスを馬鹿にしてくるその性根のっ! 一体どこが腐って無いのよ?! アンタこそ偏見じゃない!」
「偏見だぁ? 事実に基づいたアドバイスだろうがよぉ!」
「アンタって男はねぇ!!」
「ちょ、ちょっとこのような場所で喧嘩はお止め下さいお二人方!?」
パンと両手を打つ音が響く。
音の出所を見るとグウィニスが手を叩いたようだ。
「はいそこまで。もうダメよ二人とも、ほら見て警官の方達がこっちを見てるわよ? ほら二人ともごめんなさいをしなさい、ね」
そう言われてラゼクは我に返り、警官たちに向かっていそいそと頭を下げた。
これ俺が悪いの? いやいや向こうだろ、喧嘩ふっかけてきたのはよぉ。
そう考えていたのだがグウィニスに無理やり頭を押さえられて、警官達に頭を下げさせられた。
「はいよくできました。あとは二人が仲直りするだけね。ね? エルちゃん?」
「いやいや無理やり頭を押さえつけといて何言って、ってぇ!!?」
「はい仲直り仲直り」
今度はその握力を以って強引に手を取られると、ラゼクと握手をさせられる。
見てみろ、ラゼクのヤツだって困惑顔じゃねえか。
「う~ん。……ま、そうね。はい! これで仲直り。っでいいでしょ? アンタって自分から折れるって事はできないから。感謝しなさいよね」
こ、コイツ! 人のことを素直に謝れない小学生みたいに扱いやがって……!
「あ、ああ! そうかい、悪かったな! だからこの話は終わりだ!! 終わりにしてやるよ勘弁してやるよ! ありがたく思うんだな!! ふんっ!!」
「はぁ………ガキ」
「ああいやでも、殿方のそのようなところが可愛らしいという女性も少なからず居るわけですし」
ぐぬぅ。
だがすかさずティターニがフォローしてくれたから、ドローにしておいてやる。
「エルちゃんったら、あんまり憎まれ口を言ってはダメよ? でも、私エルちゃんが本当はいい子だって分かってるから。………………今日は楽しかったわ。久しぶりにエルちゃんと過ごせて」
な、なんだ急に? 柄にもなくしんみりしちゃってよ。
いつものニコニコ顔から、ちょっと寂しそうじゃねえか。
「ラゼクちゃん、この子とはうまくやってる? 色々と難しい子で手を焼くと思うけど、根気よく付き合ってみれば全然悪い子じゃないって分かるわ。そこまで行くのが大変なんだけど、ね」
「ええ、ほんっっとうにっ! 面倒くさい男ですけど。逆にこんなヤツ今まで相手した事ないし、どうせ余所に行っても面倒事起こすだけでしょうから、ま、しばらくは面倒見てやります。………アンタも偶には感謝しなさいよ?」
なんだ二人してよ! 俺の事にコケにしてんのか? ああん!
「俺程のイイ男はドコ行っても人気者に決まってんだろうが。巨乳のお姉さん達が取り合いになっても大変だから、お前で妥協してんだっていい加減に……、ひぐっ!」
「つまんない憎まれ口を叩かない! まったくもう……」
痛ったいよ! このアマ、俺の耳を馬鹿力で引っ張りやがって!
デリケートなお耳が伸びちまうぜ!
「大丈夫ですかエレトレッダさん?」
「大丈夫かって言われたら大丈夫じゃねぇな。この馬鹿力で引っ張られてたらいつかすっぽ抜けちまうぜ、きっと」
「あ、あんまりそういう挑発するような事はお控えになられた方が……。お耳の安全の為にも」
「ま、お前がそこまで言うならこの辺で勘弁してやろう。……おいラゼク! お前もティターニのこのお淑やかさを見習えよ! 健気で可愛らしいじゃねぇの」
「そのティターニにたった今止めろって言われたばかりでしょうが! 耳の前に記憶がすっぽ抜けてんのよアンタは!」
(か、可愛らしい? え、エレトレッダがこのボクを可愛いって……!)
ラゼクに怒鳴り声に耳を抑えながらグウィニスの方を見ると、どこか安心したかのような笑みを浮かべていた。
「なんだよ? 人が怒られてるのを見るのがそんなに楽しいってか?」
「今のはエルちゃんの自業自得でしょ。そうじゃなくて、彼女になら貴方を預けても問題無いって思ったのよ」
「え? ぐ、グウィニスさん今のはどういう――」
「あんた俺の母親か? 大体、あんただって俺を追い出した一人だろうに」
(エレトレッダ!? まだボクが訊いてる途中だったのに……)
「実際、他の女の子達は怒ってたもの。反省の意味を込めて、って事よ。でも思ったよりいい結果になったかしら。個人的にだけどね」
………? どういうこったよ?
意味を探ろうと悩ませて頭が、急に何かに覆われた。それが何かと気づいた時は、グウィニスの腕に包まれていたという。
「!? ――」
「元気でね。貴方が思うように生きてくれたなら、私も嬉しいから。他の人達には迷惑を掛けないようにして欲しいけど。でも、会いたくなったらいつでもその顔を見せて? 離れていても私はいつでも貴方を思っているわ」
「………………硬い」
腕に力が入った。後頭部がッ!? あがががが!!!
「もう照れ屋さんね。……じゃ! また何処かで会いましょう、三人とも」
グウィニスは最後に俺のデコにキスをして去っていった。
背中にあのバカでかい大剣を背負いながら、廃工場を出て行った。
警察官に敬礼で見送られながら、廃工場を去っていった。
………………………。
「アンタ、もしかして照れてる?」
「……………………………何のこったよ?」
「ふふ……。素直じゃないわね、ほんと」
「――――――」
「ティターニ、なんでアナタ固まってるの?」
「――っは!?」