「さて、諸君。幸運にも我々と敵対関係にある謎の捕縛者の正体を掴み、なんとアジトの中へと引き込む事に成功した。当然此処は我々の庭、どこに逃げようとも時間の問題なのだ! 今もあの薄暗い留置所で我々が来る事を待ち詫びている同志に吉報を届ける為にも、必ずやかの邪知な輩を捕まえようではないかッ!!」
「……諸君っていっても自分達二人だけっすけどね。他のみんなは情報を集めに行ったか、残ってるのは既にやられてるので」
「ああっなんたる事だ! だが、安心をして欲しい。必ずや我ら二人の手で賊を捕らえ、皆の亡骸に花を添えてあげよう!!」
「別に誰も死んでないっす」
「へっ、そいつぁいい事を聞いたぜ!」
「なっ! 誰っすか!?」
逃げ道を探している途中に聞こえてきた連中の会話。それによればあの二人しかこのアジトにはいないらしい。
おかしいと思ったぜ、全然足音が聞こえてこねぇなんて。いくら盗みに長けた連中でも全く気配が無い理由は、単に出払っているからとはな。
相手の手の内がわからなかったが、ビビって損したぜ。
「これで形成逆転だなお二人さん!」
「何言ってるんすか? 君一人で何をしようと? あのお嬢さんは見当たらないすけど、君の次に捕まえればいいだけっす!」
「そうだとも、我らは二人。だが、君は今一人! この数的優位。しかしそれに立ち向かう為に己を鼓舞するのは見事な精神であると言える。褒めてあげようじゃないか! だが、だがにしかしッ! それは蛮勇と言う他にない! さあ、せめて一瞬で終わらせてあげるから掛かって来るといい!」
ケ、余裕見せてられんのも今のうちだぜ。
なんせこっちは落とし物を見つけちまったんだからな。
「というわけで出番だぜ、グウィニス!!」
高らかに叫ぶ俺。それに反応して警戒心を高めるのが分かる強盗共。
居ないと思った人間が出てくるんだから当然だろう。
だが甘い! ただでさえやっかいな女がほぼ無敵になってるんだからな!
「ええっと……。じゃ~ん私参上っ! みたいな感じでいい? いいと思わない?」
「あ? うん、いいんじゃないの。……というわけでこれが俺の切り札だぜ!」
「な!? あ、あれはッ!!?」
頭目が驚くのも無理は……無いのか? どうでもいいかそんなん。
今のグウィニスは両手にある物騒な物を持っている。それはコイツ曰く落とし物で、普段は冒険でアホみたいに活躍する……。
「う~ん、やっぱりしっくりくるわね。今度から気を付けて持ち歩かないと……」
「頼むから冒険の時だけにしろよ、そのデカブツ」
「もう失礼ね。私が駆け出しの頃から愛用している剣なのに。それに街中じゃ持ち歩かないわよ」
そう剣なのだ。それもただの剣ではない。俺よりデカいグウィニスの身の丈程もある鉄塊の如き大剣だ。
『ツヴァイヘンデル』なんて普通は落としようも無くデカいし、その重さで気付かないわけないんだけどな。
「なんと、その大剣は貴殿のものだったか!」
「はぁ、あんな道の脇の置いてあったのがまさかお嬢さんのだったとは。なんであんなところに放置をしていたか知らないすけど、世の中どこでどう繋がっているかわからないもんすね」
そうだろうな、俺も思うわ。
まさかこの剣を落としたとか思うわけも無いだろうしな。
「しかし、良い趣味をしている! その切っ先の輝きに対してくすんだ剣の腹! 何度も使いこみ研磨しなければこのコントラストを生み出す事は出来ない! 美しい……、そして見事ッ! この私の心を奪ったぞ!」
………………うん?
「刀剣の真の美しさとは見た目の芸術性ではない。あくまでも、そうあくまでも武器として刻み込まれた傷跡などの歴史が素晴らしいのだ!!」
ゲ、マニアだぜコイツ。何言ってんのか知らんが付き合い切れねぇよ。
「良い審美眼ね。貴方が強盗という立場でなかったらお友達になれたかもしれないのに」
残念な事に理解出来る人間が身内にいやがった。
意気投合するのは勝手だが、ここから逃げさせてくれよ!
「でも数が同じになっただけっすから、それで逃げられなんて考えは止めた方がいいっす」
「いや待ちたまえ! あの大剣のくたびれ具合から考えるに彼女の実力はかなりのものだ。で、あれば正攻法では我々が負けかねない」
なんか意外。冷静に分析とか出来るんだな頭目。
……これは好都合では?
勝てないってわかったならすんなり帰してくれるかもしれん。
「そうだ、つまりあんたらの負けは確実なんだ。大人しく見逃した方が身のためだと思わないか? 賢い選択ってのをしようぜ」
「ふふ、本気でそう思っているのかい? では甘い! こちらとて奥の手というものがある。……これを見たまえ!!」
そう言って頭目が懐から取り出したのは……折り畳みステッキ? そんなもんで何しようってんだよ?
「それを取り出すって事は! 本気なんすね?」
「そうだ! 彼女達をお相手するのであれば、これくらいしなければ失礼にあたるだろう!」
「まぁ。一体何をしてくれるのかしら? ちょっとドキドキするわねエルちゃん」
「それはどうよ? 俺は禄な事にならんと思うぜ」
あちらさん随分と自身がおありのようだ。グウィニスの腕を信用しないわけじゃないが、警戒はしておいて損は無いじゃん。……何とか隙見て奪い取る、のはちと難しそうだな。
身構えていると、急激な光を放ち始めるステッキ。流石に只の灯りってなわきゃねぇよな。
「さあご覧あれ! これが我らが切り札、その目! ひん剥いてかっぽじって見開いて見逃す事なかれッ! トゥァアアアッ!!!」
奇声を上げたかと思うと光るステッキを天に掲げ、現れるのは……魔法陣? まさかコイツ!?
「召喚士だったのか!?」
「う~んこれはマズイかしらね」
眉をひそめるグウィニスの横で、つい驚いてしまったのがこの俺エレトレッダ。
まさか、こんな場末の廃工場を根城にしてるようなヤツが召喚魔法を使えるとは思わなんだぜ。
結構適正シビアじゃなかったか? いるところにはいるもんだな。
……なんて感心してられんなこれ!
どう見ても発動を開始している、今から強引に止めようとしたって間に合わんぞ。あれは呼び出した本人が術の途中で気絶しようが出てくるまで終わらない。
「ハハハハハ! ハーッハッハッハッハッハ!!」
「おお! 頭目がいつもより、鬱陶しい笑い声を上げてるっす!」
部下からも鬱陶しいと思われていた頭目の頭上から、ピキピキと音を立てて何かが降臨してくる。体の一部だけでもデカいじゃないの!
そうして満を持して現れたのは……無機物の印象が色濃ゆく、機械とも生物とも受け取れる異形の怪物だ。少なくとも六メートルはある。
「フゥ~ッ! どうだい、この力強さは!! これが我が秘蔵の一品! 勇猛たる気高き御名をメカドラガッ! そうまさにこれが我々の切り札だ!!!」
「わ~、カッコイイわねぇ。ねえ、こういうの男の子よね。やっぱりエルちゃんも好きなのかしら?」
「嫌いじゃないけどもさ、そういう状況じゃねぇだろ!?」
なんか強そうなもんが出てきた。名前通りにメカメカしいな、都会っぽいイマドキなデザインだぜ。これは流石にマズイか?!
それでも、と思ってチラっとグウィニスの顔を見る。その顔は、ちょっと困ったような顔をしているだけで別段焦っているようには見えなかった。
……これはつまり。
「これはちょ~っと骨かしら。……仕方ないわね、え~い!!」
構えから一瞬、間抜けな掛け声を出しながら真上に大剣を掲げて一気に振り下ろす。
次の瞬間、――離れた先にいたそのデカブツは一歩も動く事無く真っ二つに両断されていた。
「ふえ?」
「えあ?」
何が起きたのかわからずに素っ頓狂な声を出す強盗二人。
「うん! 実戦で使ったのは初めてだけど、うまくいったわ!」
この女、ついにあの距離の鉄の塊まで寸断出来るようになったんか?
怖いぃ。