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第24話 警鐘を鳴らす直観

 何コイツぅ? 俺はこんなのに絡まれる為にこんなとこに来たんじゃない。そもそも来たくなかったのだから帰宅したい。


「ここの責任者の方ですか? 私、グウィニスと申します」


「これはご丁寧に。私は訳あって名を名乗る事は出来ないが、頭目とだけ名乗っておこう! ある意味で責任者である!」


 なんで妙に会話が成り立っているんだ? それになんでそんな自身満々に犯罪者集団のリーダーを名乗れるのかも謎だ。

 この流れに任せてグウィニスが会話でもするだろう、今のうちに離れとこ。


 そろそろ~っと……。


「どこに行くんすか?」


「ひゃあ!!?」


 元来た道を後ろ向きに戻っていたら、背後に人が立っていた。

 何すんだ! 驚いて声が出ちまった。


 一斉に注目が俺に集まる。これで退路は断たれちまったってか? チクショー。


「こらこら、あまり客人を困らせないであげてくれ。……あいや済まない。実のところ我々は同志が何者かにやられて気が立っているのだ。だが、安心して欲しい。君達がこのまま我々について黙っているというのであれば、身に着けているものを二、三置いてくれれば丁重に帰す事を約束しよう!」


 物は置いてけなんて所詮、盗人だな。


 しかし、同志だ? そういや今朝のニュースで強盗が捕まったんだっけ?


 誰が捕まえたか知らんが、最終的に連れて行ったのは警察なんだから、恨むならそっちを襲撃すればいいじゃないのよ。

 そして返り討ちにあって勝手に解散してくれ、俺達ピープルの為に。


 そんな事を考えていたらだ、グウィニスのヤツが俺の目に視線を合わせて、なにやら言いたそうな顔をしている。


(はっ!!?)


 俺の勘が告げている。この女を喋らせるな、と。


 俺の全身がけたたましい警報を鳴らしてる。

 背中に感じる冷たさは冷や汗だな、この額に感じる冷たさは冷や汗だな。


「エルちゃん、さっきの続きなんだけど……」


「うおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺はありったけを込めてシャウトした。これまでの人生でも中々に経験の無い叫びが工場内に響き渡る。


 当然、さらなる注目を集める事になるだろうが構っちゃいられない危うさがあると、天啓が囁くのだ!


「どうしたの? ちょっと静かにして、ね。ほらいい子だから」


「むぐぅ!??」


 なんてこった! 残念な事に天啓は俺に、味方に口を塞がれるなど教えてはくれなかったようだ。


 手のひらで覆われる俺の口と鼻。急に酸素の供給を断たれた今日この頃、俺は飛び出すはずの勢いを無理やり内部に押し戻されて暴発したかのような息苦しさを感じていた。



 そして、ついに訪れてはいけなかったその時が始まる。



「それで、ね。昨日の夜、宝石店を襲っていた人達を見て、それで追いかけて捕まえたんだけど、それってここの人達と関係あるのかしら?」



「なぬ?」


「は?」


 前門の強盗の人と後門の強盗の人が同時に声を出す。そこに含まれていたのは、果たして驚きか呆れか。はたまた……?


 どっちにしろ、これがマズイのはわかるはずだ。

 わかってくれよグウィニスさんよぉ……。


「なるほどぉ……これは僥倖。まさかのまさか! そちらから出向いてくれるとはっ、私は神に愛された強盗であろうなッ!」


 強盗を愛するとか禄な神様じゃねぇな。


 何を言っているのかよくわからないこの身振り手振りの激しい自己陶酔野郎は、強盗団の頭目として部下の復讐にやっきになっているらしい、というのはかろうじて理解できたぜ。


 しかしなんて余計な事を言ってくれたんだこの大女。しかも言った本人は状況を理解できてないときた。俺だって半分しかわかってないし、したくもないがな!


 どうにかして俺一人だけでも逃げ出せないだろうか?


「あのですね。ま、その、つまりですよ? ここにぃ、原因となった女がいるわけで、後はもうそちらさんがどうするも好きにしてくれれば終わりという事なんですよね? ね? じゃ僕はこれで失礼させて……」


「でも、世の中そう単純なもんじゃないすからね。そちらのお嬢さんのお友達なら、簡単に帰すのも違うんじゃないすか? 大体ここの場所を喋らないとも限らないすからね」


 マズイぞ、まさかの正論に封じられてしまった。


 どうする? このまま逆ギレして突破するか? どうせこの女は捨て置いといても勝手に強盗団を壊滅させて戻ってくるだろうし。でも俺はそれに関わりたくないんだよね。


 あーでもないこーでもないと悩んでいる時、頭目がまたあの大袈裟なポージングで話しを始める。


「ではこうしようではないかっ。お嬢さん、君が捕まえたのは私の同志なのだが」


「まあ、そうだったんですね。やっぱり関係があったわエルちゃん」


「あ、うん」


「で、だ。我々は同志を捕らえられ、非常に悲しい思いをしているのだ」


「お友達が捕まってしまったんですものね、落ち込むのも仕方がないわ」


「そう、そうなのだ! そしてお嬢さん、君にもしその事に罪悪感を感じるのであれば、我々の同志として共に日々の窃盗に勤しんで欲しい! そうすれば今回の件は同志の脱獄を手伝うという点も合わせて許そうじゃないかッ!!」


 何言ってんだ? この頭目とやらは頭がアレなんじゃないか?

 こんな事言われても、ね。


「せっかくのお誘いだけど、私はもうパーティを組んでいるんです。申し訳ありません。それに、盗みは犯罪ですよ? いくら友情の為でもダメな事はダメ」


「そうか……。やはり我々には決別の道しか無いようだ。実に、実に悲しいことじゃないかッ! だがこうなれば容赦は出来ない! 何故か? 何故ならば!! 私は同志達の義を背負っているからだッ!! この重みっ、今にも押しつぶされそうだ!!!」


「あんたらのボスっていつもあんな感じなの?」


「う、うん。まぁ。って、のん気に世間話をしているわけにはいかないす! 頭目が決めた以上は、最早どちらかが倒れるまでは!」


 話し掛けた相手がファイティングポーズをとって俺に襲い掛からんばかりだ。

 望み薄だったとはいえ、なあなあで誤魔化せないかと思ったんだが、やっぱ無理だったぜ。


 ええいこうなりゃ!


「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 俺は叫んだ、ありったけの思いをこの瞬間に……ッ!

 全員が驚くこの時が、俺の全てを掛ける時なんだァ!


「あばよッ!!!」


 呆気に囚われているだろう連中を後目に足を前後に動かす、その勢いは猛烈。

 前後もダメなら横しかない。


 走った。走ったぜ! 今なら誰も追いつけないはずだ!


「はははは! やった! よしこのまま逃げ切って――」


「酷いわエルちゃん。逃げるなら事前に打ち合わせしてくれないと、ちょっと出遅れちゃったじゃない」


 逃げ切ったと思った俺の期待を裏切ってくれたのは、やはり隣を走るグウィニスだった。

 そうだ、コイツとは一年以上の付き合い、伊達にパーティメンバーとしていくつもの修羅場をくぐってきたわけじゃなかった。俺のクセを読まれてしまったぜ。


 これはマズイ!?

 この女を囮にする事でこの廃工場からの完全脱出は成功するはずだったのに。


 チラっと背後を見れば追いかけてくる頭目と部下。

 一難去ってまた一難ってか? 冗談!




 どうしようもないので、何処かに身を隠すべく近場の倉庫へと突撃ぎみに逃げ込んだ。ついて欲しくないおまけが隣にいるが、暫くはここで息を殺して過ごそうじゃないか。


 荒っぽい熱と呼吸が口から排出され、新鮮な空気を取り込み体を整え冷やす。逃げ足は冒険者としての必須スキルとはいえ、やっぱキツイもんはキツイぜ。


「…………エルちゃん」


 またしても話し掛けてくるグウィニス。

 いやいや流石にここで返事でもしようものなら、さっきの二の前になり兼ねない気がする。だって今日で二度このパターンでえらい目にあったんだし。無視無視。


「ね、エルちゃん見て」


「うえっ!?」


 無視していた頭を強引に掴まれ、急激な方向転換をさせられた。


「何すんだ! 声が出ちまったじゃねぇか!」


「それはごめんなさい、でも……」


 小声で話す俺に合わせて小声のグウィニス。一体何がでもなんだ?

 そう思って視線の先を凝視する。するとその先には……。


「ああ……、やっぱここにあったんか」


「やったわ! これで安心して帰れるわね」


 そう、俺達の視線の先にあったもの……、それはグウィニスの大切にしているものであり到底落とすものでも無いものである。


 丁寧に立て掛けられたそれは――。

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