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第22話 悩みを聞く男

「そういえばグウィニスさん。自分のハンバーガーに手をつけてないですけど、どうしたんですか?」


 ふと、思い出したようにグウィニスに質問する。当然と言えば当然の質問だ。

 ただグウィニスという女がこうなるのも、そう……珍しく……ない、ような。

 あれ? あるような気もするぞ。ちょっと離れてる間にわかんなくなっちまった。


「……え? えぇっと、今ちょっと悩み事があって。よくないとは分かってるのだけれど、あまり食が進まないのよ。体に悪いからなんとか食べようとは思ってるんだけどね」


 少なくともダイエットではないのは確からしいな。

 ちょっと食べないからってこの女の筋肉が落ちるとも思えないしな。

 脂肪? 胸にすら無いんだから他もほとんどないだろ。


「そうなんですか。あ、だったら相談に乗ります! ここであったのも何かの縁ですし!」


 ……え?


「悪いわそんなの。個人の悩みだもの」


「いいえ、だったら余計に誰かが聞いてあげた方がスッキリ解決しやすいんじゃないかなって」


 流石にこれは待っただろ! そう思ってすかさずに止めに入る俺。


「おいちょっと待て! お前ってヤツは余計なことに首を突っ込むんじゃないよ、お節介。ここであったのは何かの縁だって? 縁だ縁だなんて言ってたらキリがないと思わねぇか? でも、どうしてもって言うんだったら仕方ねぇ。俺は先に帰ってゴロゴロと……」


「アンタも聞くのよ」


「何でだよ!? 俺は別に興味は無いんだから無関係でいさせてくれよ!」


「昔の仲間でしょうが。散々世話になってきたんだから、ここらでドンと一つ借りを返してあげなさい」


 こ、コイツっ。ハナっから決めつけて掛かりやがって……っ!

 断固抗議だ!


「いや世話になったかどうかはお前にはわからねえだろ。むしろ俺の方が世話をしてきて」


「嘘ついてんじゃないわよ。アンタの性格でそんなわけがないわ」


「なんて言い草だ!? 俺はこれでも面倒見がいいとご近所で評判で」


「どこのご近所の話をしてるって? 少なくともウチのご近所さんとはロクに挨拶もしてないじゃないの!」


 俺の抗議は無視され、言葉で殴り返される。

 これは横暴ではないか? 大体俺にものっぴきならん理由があるのだ。


「そ、そんなこと言ったって野郎ばっかりだもん。気がさぁ、起きないのよね」


 これ以上の理由があるだろうか?

 周りには綺麗な巨乳のお姉さんどころか、むさ苦しい男共しかいやがらねぇ。それにアイツら俺がラゼクと一緒に住んでるからって目に敵にしてきやがる。


「今のアンタの態度だけでも信用できないってわかるもんでしょ! あ……、ごめんなさい。グウィニスさんの前で言い争いなんて」


「いいのよ、喧嘩するほどなんとやらって事だもの。エルちゃんが相変わらずな証拠でもあるし」


「そう、アンタってやっぱり昔っから変わってないのね」


 おいおい、それは聞き捨てならねぇ。俺が相変わらずなのは色男の部分だからだ。

 ココこそハッキリとした抗議が必要だろう!


「いやいやいや、そんなもんは捏造で! 俺という男は平和主義な博愛のある……」


「もういいわよ! ちょっと黙ってなさい。……じゃあその、グウィニスさん。悩みというのを聞かせて下さい」


「ありがとうね二人とも」


 ち、畜生!

 またバッサリ切り捨てやがって。だが、ここで引き下がるわけには……!


「いや、だから俺は。……そんな睨むことないだろ!? もういいよ分かったよ黙ってるよ!」


 俺の正当な言い分に対する聞く耳なぞ持たず、キッと睨み付けられた。

 ああ、そうかよ! じゃあ俺も不貞腐れちゃうぜ! ふんだっ。


「ふふ、じゃあ続けさせてもらうわね。それでなんだけど――実はある大切なものを落としちゃってね、大切なものだから落ち着かなくって」


 この言い方、覚えあり。

 伊達に一緒にあちこち旅した仲じゃない。真っ先に思い当たるのは……。


(大切、ね。……ああ、この時点でわかってきたぞ俺。もしそうなら落とすかアンなの? いや、グウィニスの性格なら無いとは言い切れねぇ)


「大事なものだったんですね……。どこでそれを失くしてしまったかわかりますか?」


「えぇと、確か……」



 ◇◇◇



 ところ変わって、此処は街はずれにある廃工場。

 普段人の寄り付く事の無いこの場所だからこそ、ある点において非常に有用であった。


 それは何を隠そう――そう、隠れ家の事なのだ。


 このような場所に誰が隠れているか?


 その問いは、時に複数の回答が生まれるものである。例えば小学生の秘密基地であったり、中学生の秘密基地であったり、高校生の秘密基地であったり、ヤクザの密会現場であったりするが、……今回においては強盗団のアジトであった。


 この廃工場の奥で行われている、とある会議。

 議題はやはり、強盗団の仲間を襲ったのは誰か?


 頭目が前へ出て演説を始める。彼はこのような催しが好きであり、大仰な演技に身を任せては密かに呆れられる男である。


 その男、口を開く。


「では一つ! 人に聞きたい事はやはり一つ! 何故ッ? どうして? どのように? 我々の同胞が尊き犠牲と成り果ててしまったのか。はい君!」


「は、はぁ。やはり我々が何者かの恨みを買っていたからではないのでしょうか?」


「なるほど、理解! が。が、だ……果たしてそれだろうか? 我々は真っ当な強盗組織として日々あくせくとご近所に恥ずかしくない窃盗行為を行い糧として今日を謳歌している身分である。が、恨みを買う覚えあれど、それだけでここまでされるものだろうか? 我々の暴力は己の身の為、仕事の為にのみ許される。必要以上に振るう事を禁じ、今日まで守ってきたこの品行がッ! 果たして踏みにじられる程のものだろうか?! はい君!」


「は、はぁ。正直わかんないっす。もっと言えば何言ってるのかもわかんな」


「そうわからないのだッ! わからないとは何か? 恐怖であるッ! 知らず、理解が及ばず、それ故に身を凍らせる。しかし、我々は強盗組織としてそれでは面子が立たない!! で、あるならば行動を起こす。知る、理解することで恐怖を支配する必要がある。のではないか?! はい君!」


「は、はぁ。じゃあそうなんじゃないっすかね……。でも、この話のオチってどこに持ってくんすかね?」


「それは勿論ッ! 我々が何者かに狙われているッ! という事であるッ! が、我々はそれを乗り越えなければならない何故ならッ?! 我々は強盗組織だからであるッ!! はい君!」


「は、はぁ。もう終わりでよくないすか? 今後の方針は誰がやったかを突き止めるって事で」


「実に素晴らしい意見だな、金言だな! ではその金言を肝に……っ! 解散ッ!!」


「……お疲れ様っす」


 こうして方針を固めた強盗団。


 その団員達は方々へと散っていく、自分達の名誉に傷をつけた者を探す為に。

 その団員達は疲れた顔でそそくさと散っていく、自分達の付き合い切れない頭目から離れる為に。


 時に、時刻は十三時を過ぎていた。


 今日、昼何食べたっけ?


 頭目の熱演により、記憶はすっかり飛んでいた。

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