落ち着きを取り戻したミャオに、ラゼクが声を掛けた。
「アナタもコイツにおちょくられていた口なのね。アタシはラゼク・サトーエン。ユーミャオさん、でよかったかしら?」
「ああ。でもオレの事はミャオでいいぜ、お姉さん」
「アタシもラゼクでいいわ。ミャオ、アタシ達も今日の晩餐にお呼ばれされてるの。よろしく頼むわね」
ミャオと握手を交わすラゼク。その上でしっかりとミャオが俺を睨んでくる。
「何だよ? 俺なりのちょっとしたお茶目だろ? まあ、そうカッカなさんなって」
「ば、止めろ!? 頭撫でんな! 髪の毛が乱れるだろ!!」
「わざとやってんだから当たり前だろ」
「テメェ!!!」
「だからやめなさいって言ってるでしょエル!」
「ぐええ!?」
無理やり引き剥がされて壁にぶつかる俺。ラゼクめ、この馬鹿力め。
そんなこんなで親交を深め合うラゼクとミャオ。そしてのけ者にされる俺。
「何だよ、淋しいじゃないのよ」
「自業自得でしょ。それよりユーミャオって珍しい名前ね? アナタのいた国だと普通なの?」
「そりゃあ、まあそういう国だったからな。そっちこそラゼクなんて中々聞かない名前だぜ? 一体どこの出身なんだ?」
「ああ、アタシは……」
なんだよなんだよ楽しそうにしちゃってさ。
いいもん、俺は一人でも妄想とかで楽しめるタイプだから。俺はそんな別に哀れな男とかじゃないから。
そう思っていると俺の膝にちょんと乗っかる小動物。
ここで飼われているらしいイタチのテデ。
「なあテデ。俺ってそんなに可哀想な奴に見える?」
…………。
「そっか。やっぱり俺ってカッコよくって巨乳のお姉さんにモテモテなんだよな。それを分かってくれるお前は最高だぜ。今日から俺達親友だよな?」
…………。
「そうかそうか! お前もそう思ってくれるか!」
「動物相手に恥ずかしくないわけ? ほらテデも呆れてるわよ」
「ちょっと何勝手言ってんだよ? 適当な事言うと許さないぞ」
「適当な事言ってんのはアンタの方でしょうが」
今度は無理やりテデを引き剥がされる俺。あぁ結構触り心地良かったのにぃ。
「そういやお前今日は一人か? 他のチビ共とか小うるさい騎士様とかはどうした?」
「あ? 何言ってんだ、オレ以外にも……あれ? そういやアイツどこ行った?」
「アイツ? アナタ以外にやっぱり誰か来てるの?」
とはいえ、周りを見ても誰も居ない。
ここに居るのは俺達くらいで、そりゃ高そうなソファとか棚とかはあるけど。
あと大きな扉、衣装棚かな?
「ああ、アンタは知らないと思うが。俺のパーティの――」
「ああ!! エレトレッダさん達じゃありませんか! このような所で奇遇ですね?!」
バタンという音と共に奥の大きな扉が開かれ、そこから女が一人飛び出して来た。
あれ? ティターニじゃねぇか。
「おうティターニ、そっちこそなんでここに? というかそこ衣装棚じゃ……」
「あ、いえいえお気になさらず! 私こういうものを見るとつい中まで気になってしまうんです!」
うふふと笑う彼女だが、何故か息が上がっているような?
「ミャオ、アナタ彼女と知り合いだったのね。まさかティターニとこんな所で再開するとは思わなかったわ」
「は? ティターニ? いやコイツは――ていうか何だその恰好!? お前さっきまで――」
「おほほほ! いえ、ミャオさんとは山で遭難しかけた所を助けて頂いたんです。その時に服が汚れていたので着替えていましたの」
ミャオが服について何か言いかけたが、単に急いでいつもの恰好に着替えていたってだけか。
あれ? じゃあ衣装棚の中を見るついでに着替えたって事か? 変なの。
「しっかし本当に、偶然の出会いってあるんだな。ティターニの用ってこの付近だったのかねぇ」
「はあ? エルお前何言ってんだ? こいつティリ――」
「ン゛ン゛! ミャオさん、ちょっと廊下の方まで来て頂けますか?」
「ミャオさん!? お前その喋り方といい急になん――おい首根っこ掴むな!?」
「ではお二人共、直ぐに戻って来ますので」
「離せよ、おい!!?」
一体何だというのか? ミャオを持ち上げたかと思うとそのまま部屋から出て行ってしまった。
「彼女って意外に力あるのね」
「ミャオのヤツが軽いってのもあるんだろうが……。やっぱ背が高いだけあって見た目以上に筋肉があるんだろうな」
二人が戻って来たのはそれから二分後位だったかな?
何やら不満顔のミャオが印象に残った。
「何があったか知らねぇが、明日には身長が二十センチぐらい伸びてるかもと思って元気出せよ」
「いや流石にそんなわけねぇだろ」
◇◇◇
食堂に通された俺達。流石に貴族様が使うだけあって、豪華とまでは行かなくても、ピープルの暮らしとは比べ物にならないくらい綺麗だ。
「席は好きに座って頂戴」
テーブル真ん中の上座に座るお姉様。それからラゼクとミャオが向かい合い、俺はミャオの隣に腰掛ける。
ティターニは俺の前にニコニコ顔で座っていた。そんなに料理が楽しみなのか?
この屋敷には使用人がいない為か、すでにテーブルには飯が並べられている。ゼイルーグさんが一人で作り、そして並べる。いつもそうしてきたんだろうな。貴族なのに。
そういや位は何だろうか? ま、いいかそんなこと。
「わあ、美味しそう。これをゼイルーグ様御一人で作られたんですね」
「ま、他に何も無い村だから。趣味として磨くにはうってつけだったというだけよ」
ラゼクの質問に、こともなげに答えるゼイルーグさん。
料理が趣味の貴族のお姉様なんて……もうそれだけそそるったらないな!
テーブルに並べられていたのは、ここの村で採れた野菜を使ったであろうものが中心。肉類は、残念ながら見当たらない。
それにしてもラゼクの奴、随分とご機嫌な様子じゃねえか。尻尾なんかブンブン振っちゃって。猫の獣人なのに犬みてえなヤツだよな。
「ちょ、ちょっとラゼクさん!? くすぐったいのですが」
「あ、あら? ごめんなさいアタシったら。おほほ……」
ラゼクの尻尾の被害に遭ったティターニ。流石に見過ごせなかったか。
へへ、ラゼクめいい気味だぜ。
でもこのポトフは確かに美味そうだ。それにこのキノコのソテー、すげぇ美味そう。こんなん初めて見たぜ。このサラダも見た目がフレッシュにシャキシャキしてやがる。こっちのパンもいい匂い。
「このパン手作りなのか?」
「野菜の他に小麦も育てているわ。誰に教わったというわけでも無いから、味の保証は出来ないけれど」
「いやそんな事ねぇよ姉ちゃん。オレもうお腹ペコペコだぜ」
垂らしてもいないが涎が見えるようなミャオの言葉に満足げに頷く。
くぅ~。
おっと、俺も腹が鳴っちまった。
「さて、食事を前にいつもでも話すものじゃないわね。では頂きましょうか」
「「いっただっきまーす!」」
「いただきますわ」
「……いただきます」
言うが早いが、俺は真っ先にサラダにフォークを突き立てた。シャキシャキとした歯ごたえが心地良い。ドレッシングも絶品だ。
次にパンを一切れ。仄かに香ばしい香りが鼻腔を刺激し、食欲を刺激する。パンは少し固めだが、それが逆にいいアクセントになっている。
キノコのソテーも肉厚な上に味もしっかり染みてやがる。
それにこのポトフ! う~んジャガイモがホコホコしてやがるぜ。
でもブロッコリーも入ってるんだよな……。
「おいミャオ、もっと食えよ。ほら俺のブロッコリーやるからさ。こういうのも食っていけば、二年後あたりにはきっと背も胸もデカいグラマラスボディーの出来上がりだぜ」
「そう言えばオレがお前の嫌いな物食うと思ってんのか? 馬鹿にすんじゃねえぞ」
「何言ってんだ、人がせっかく親切で言ってやってるってのに。ほら遠慮せずに食え食え」
「ばっ!? 勝手に人の皿に入れるんじゃねえ!」
「ちょっと何やってんのよエル!」
「も、申し訳ございませんゼイルーグ様。私共の連れが騒がしくしてしまいまして」
「気にしないで、静かすぎるよりは余程いいわ。久しぶりに人の声が聞こえる晩餐だし、ね」
そんなこんなで食べ終わった俺達、食後のコーヒーまで入れて下さったお姉様に感謝だな。ふぃ~。
「グエッ。……おっとゲップまで出ちまった」
「失礼でしょうが! 重ね重ね申し訳ありませんゼイルーグ様。……それにしてもこの村って貴方様の他に誰が住んでいらっしゃるのですか?」
質問するラゼク。
そういや、俺も気になってたところ。いくら何でもこの村は静かすぎる。まるで他に人がいないかのようだ。……まさかな。