翌日。
リュックを背負ってバスを降りた俺達。ついたのは勿論、ウォーランヴィレッジを頂きに置く山の中腹『スージュタウン』。
緑豊かな山の木々に囲まれたこの町は、田舎町特有ののんびりとした雰囲気に包まれていた。
来たこともないのに懐かしく感じるこの感覚、嫌いじゃないぜ。
ちなみに、ティターニはしばらく用事があると言ってここ数日会ってない。今頃何してるんだろうか?
道端じゃあおばさん達が会話に華を咲かせ、子供達が公園を走り回り、個人商店からは笑い声が聞こえる。
全くどいつも芋臭い顔をしてる。これも田舎の醍醐味ってやつか。
「う~ん……。牧歌的というかなんというか、のほほんとしてるわね。こういうの好き」
「おいラゼク。お前まさかここに永住するつもりか? 田舎は来るのと住むのじゃ全然違うぞ」
「分かってるわよ、アタシだって里の生まれなんだから。そういうことじゃなくて、故郷を思い出して落ち着くって感じなの。分かる?」
「俺ってばそれ程おセンチにはなれんのよね。ま、嫌いじゃないとだけは言っておいてやる」
「あっそ」
つまんなそうな顔をしてラゼクはそれっきり話を切り上げた。
こいつ案外自分の故郷の話題とか話したがるタイプなのか? 意外に可愛いところがあんのかも。
そんな話をしているうちに、目的の場所へと辿り着いた。
『スージュタウン郵便局』
「お、ここだここだ」
数十年の重みを感じさせる古びた建物は、風情があるとも言えるし、単にボロいだけとも言えた。
「……意外に小さいわね」
「いかにもな田舎の郵便局って感じだろ? とにかく入ろうぜ」
中に入ってみれば、これまた意外と涼しい空気が流れていた。
山の気候がそうさせてんだろうか? 平地に比べて随分と過ごしやすいぜ。
壁には掲示物がズラリと飾られており、国の御触れは勿論だが地域密着型のニュースペーパーなども貼られている。
受付窓口の向こう側にいる年配のおばちゃん職員に話しかけてみる。
「すいません、俺達ギルドからの配達依頼で来たんすけど」
「はい、『アンメル商会』様からのお荷物をお預かりしておりますが、本人確認の為にギルドカードを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
言われるがままにカードを差し出すと、おばちゃんは書類を引き出しから取り出し、カードと照らし合わせて確認を開始した。
「はい、確認致しました。では『アンメル商会』様より預かっているお荷物をお持ちしますので少々お待ち下さい」
そう言って奥へと消えていくおばちゃん。待つと言っても数分もかからなかった。
割とすぐ戻ってきたおばちゃんから渡されたのはそこそこ大きな木箱だった。側面には会社のロゴが刻まれており、どうやらこれが依頼主の荷物らしい。
「えっと、因みに中身なんか聞いちゃったりして?」
「申し訳ありませんが、ご依頼主様からその点に関しては聞かされておりませんので」
「ふうん、そうっすか。で、渡す相手はどなたに?」
「ええ、ウォーランヴィレッジにお住まいの、とある貴族様にお渡しするよう仰せつかっております」
「へぇ、貴族様に。……あんなところに?」
「詳しい内容はこの書類をご覧ください。それと、こちらに受け取りのサインをお願いいたします」
「あ、はいはい」
サラサラッと署名をし、荷物と書類を受け取る。
さーてと、んじゃ! 参りますか!
「という事でパス」
「ちょっと!? いきなり何よ?」
「別にいいだろ投げ渡してるわけじゃねえんだから。はい受け取って」
「……全く」
荷物をラゼクに渡し、俺達は郵便局を出て山の奥地へと……。向かう前にやっぱ聞き込みでもしようかな!
初めて行く場所だからね、いくらでも情報は必要でしょう。
……いや別に下心があるわけではないんだ。うん。
「と、いうわけで俺は聞き込みに……」
「ホントに只聞き込みに行くだけよね? 胸の大きな綺麗なお姉さんをナンパするわけじゃないのよね?」
「……………………」
「いや、何とか言いなさいよ!? 目を逸らすな!」
「ま、待て! 俺がそんな節操の無い男に見えるって……」
「見えるから言ってるんでしょうが。ったく、アタシもついて行くからね。いい?」
「え? でも、こう言うのは二手に分けれるのがセオリーってもんじゃ」
「は?」
「あ、いえ何でもないです。はい」
結局、二人で行動することになった。
………………
…………
……
「あ、そこのお姉さん! どうです? 僕とこれから森の喧騒に包まれながら、互いの将来について語り合うというのは? いえきっと、素敵な時間になるとお約束いたしましょう!」
「だからやめなさいって言ってんでしょ!!」
ラゼクが俺の耳を引っ張って強引に引き戻す。痛ってえなぁ……。
一通り聞き終えて、情報を整理するとこうだ。
山奥にあるウォーランヴィレッジについて。
人がまともに通れるような道は乏しく、険しい山道を登って行くしかない。しかし、道は険しくとも行けないことはない。
現に町の人間で行った事のある人間も多くは無いが、装備をしっかりと整え、自身の体力と地理を把握すれば辿り着けなくはないとのこと。
山道には人間に敵対的な魔物の類も少なくないが、鍛えた人間なら造作も無い程度だという。
真面目に歩いてもたどり着くのに数時間を要する為、大概の人間は午前中に出発するんだと。
それと……。
「そういや女の子と背の高い男が山に登ってくの見たな。態々登ろうってんだから登山家か冒険者なんだろうけども。男の方はともかく、あんな背の小さい女の子が山に向かうなんて物好きなもんだなって」
なんて事を麦わら帽子をかぶって首にタオル巻いたおっさんが言っていた。
どういうこった? 冒険者が向かったなら、その話を俺が知らないってのはおかしい。それとも依頼とは関係ないって事か? もしくは本当に単なる物好きか。
小さい女の子ねぇ……。その時点で俺の好みじゃないが、もし同業者だったら声でも掛けるか。何か困ってたら恩も売れるしな。
「さて、じゃあそろそろ出発しましょ? もたもたしてたらお昼が来ちゃうわ」
「つっても朝っぱらから列車とバス乗り継いで来たんだぜ? 正直今腰が……」
「おじさんみたいな事言わないでよ、アタシと年近いんだから。もう~、ちょっと待ってなさい」
そう言うやいなや、ラゼクはリュックを下すと中身をゴソゴソと漁り始めた。
そうして取り出したるは………。丸いケース?
「はいこれ」
「え? 何これ?」
「アタシ特性の軟膏。腰痛にも効くわよ」
「へえ。調合が得意つってたけど、こりゃ助かるぜ」
「じゃあ向こうの茂みで塗って来なさい。待ってて上げるから」
「へいへい……。しかし茂みでって、まるでションベンに行くみたいだな」
「……アンタはもう少しデリカシーを身に付けなさいよ。ほら早く」
「はいよー」
………………
「ふぃー、スッキリしたー」
「だから言い方ってもんがあるでしょうが」
「あ、ごめん」