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第11話 同棲生活

 初めての依頼達成から数日後。


 何時までもビジネスホテルで暮らすわけにもいかないのでギルド所有のビギナー冒険者向けの部屋を契約。


 少し古いし、二人で暮らす分には狭く感じるが、ギルド契約で格安で借りられるので文句を言うわけにはそりゃあいかないわけで。


 そんなこんな、今日も俺は優雅に起き上がるのであった。


「ぐへへ~、そんなにもみくちゃにされちゃあ俺も困っちゃうぜウサギちゃん」


「いつまでバカみたいな夢見てんのよ! とっとと起きなさい!」


「痛ったぁ!? い、いきなり殴る事ないじゃんか……」


「アンタが寝ぼけて気持ッち悪い声出してたからでしょうが!」


 朝から騒がしいラゼクに起こされて目を覚ます。


「……なんだよ。まだ時間あるじゃないか。もう少しぐらいゆっくりさせてくれないかな」


「朝の七時はもう早朝とは言わないのよ。さっさと着替えて顔洗って、ご飯だってもうできてるのよ」


「へいへい……。わかったよ。まったく、そういう所が彼氏できない理由だぞ」


「余計なお世話よ! ほら早くしなさいエル。じゃないとご飯抜きよ!」


「はいはい。わかりましたよお嬢様」


 渋々と布団から起きると欠伸を二、三回。ロフトを降りて洗面所へと向かう。



 水にさらした顔を鏡で確かめる。

 うん、今日もどこに出しても恥ずかしくない色男。さあ朝飯だ!



 戻ってきたらテーブルに並べられてるご飯。

 白飯に味噌汁に焼き魚とたくわん。古き良きザ・朝飯といった感じ。


 椅子に座って手を合わせる。


「いっただきまーす」


「はい、いただきます」


 まずは箸を手に取り、魚の身を解すと米の上に乗せて口に運ぶ。

 朝って感じが増しましになるなあ。

 そして次に味噌汁を口に含む。


 あー、これだよなあ。なんかこう、ほっとする味というか。


「うん、今日も美味しい。さすがにアタシよね」


「これも花嫁修業の成果ってか? 胸のねぇ女の健気な努力だな」


 俺はそう言って魚に箸をつけようとして、空を切る。あれ?

 ラゼクに取り上げられた俺のお魚ちゃん。


「何すんの?!」


「つまんない文句を言う男に食べさせてあげるご飯は無いわよ。これはもうアタシのものってわけ」


「い、いや言葉のあやって言うかさ。……いや~今日もなかなかに麗しいですなラゼクさん、そう遠くないうちに、いやきっとすぐ明日あたりにもしかしたら素敵な貧乳好きの彼氏ができるんじゃな」


「は?」


「いや今のも言葉のあやで……。ごめんなさい食べさせてよぉ!」


「最初から素直に謝りなさい! はぁ……全くアンタという男は……、本当に仕方がないんだから……はいどうぞ。感謝しなさいよ?」


「ありがとうございます。この御恩は決して忘れませんとも」


「アンタが言うと安く聞こえて仕方ないのよ。あんまりバカなこと言ってるともう作ってあげないんだから」


「それは勘弁してくだせぇ」


「だったら黙って食べることね」


「はいよ……」(ふぅ、危なかったぜ)


 俺はラゼクから貰った朝食を平らげると、ラゼクの分の食器も合わせて流し台で洗い、それから身支度を済ませる。

 リビングで着替える俺と隣の部屋で着替えるラゼク。


『覗き見しないでよ?』


 なんて最初の頃は言われたが……。


『ンな貧相なもん、なんもそそられねぇよ。自意識過剰なんじゃない?』


 そんなこと言ったら顔面に拳が飛んできた。痛かった。


 部屋着から着替えた俺たちは、さあ、いざ行かんとばかりに意気揚々と部屋を飛び出すのだ。目指すは依頼斡旋の場、ギルド!


「アンタ、武器とバッグ忘れてるわよ!」


「あっ」


「もう、しっかりしなさいよ。あと、ちゃんと鍵持ったでしょうね? 財布も忘れてないか確認しなさい。それに……」



 ◇◇◇



 胸部の主張の激しい少し年上に見えるお姉さんな受付嬢と話す事も許されず、またしてもラゼクが一方的に話をつける事になった。


 あのお姉さんと話す事がこのギルドに来る最大の理由なのに、全くなんてことしやがる。


「アンタが鼻の下伸ばしてダラッダラとアホみたいな事しか喋らないからでしょ」


 なんて、アイツに言わせればそうなるんだろうが。俺からすれば、ああいう巨乳美女とお近づきになれるかもしれない機会なんだぜ!? 逃せるはずがないだろう!」


「だから、それがダメだって言ってるのよ」


「なんだよお前、人の考えが読めるってのか?」


「ブツブツと口に出してたでしょうが気持ちの悪い。そんなことばかりやってると益々女の子に嫌われるわよ」


「なんだと? 好き勝手言いやがって。だいたいお前戻ってくるのがちょっと早すぎないか? 本当に依頼持ってきたのかよ」


「当たり前でしょ。ほら、これがその証拠よ!」


 そう言うと、ラゼクは懐から一枚の依頼書を取り出して見せつける。

 そこには、こう書かれていた。


『配達依頼。


依頼人:アンメル商会。場所:ウォーランヴィレッジまで。


まだまだ人通りが整えられていない場所にある為、一般の配達業者を利用する事が出来ません。

あの村は旧政権時に開墾されていた場所ですが、今ではあまり人が住み着いてはおりません。


ご存知とは思いますが、開拓計画が数十年前の政権交代の騒動で一旦白紙となりました。その為、未だに道路の整備も行き届いてはおらず、トラック等の使用が不可となっておりますので腕に覚えのある冒険者様のお力をお借りする事で確実に荷物を届けて頂きたいと考えております。


報酬は前金として三万ペレル。成功時には更に追加して五万ペレルのお支払いを約束しましょう。詳しい依頼内容はウォーランヴィレッジへと向かう途中にあるスージュタウンにて。では、お待ちしております』


「ウォーランヴィレッジねえ、……確か山奥にある結構なド田舎だったな。あの辺りは無責任な政策の被害を受けて未だに満足に電気も通って無いって聞くぜ」


「そうみたいね。でも、だからこそ仕事があるんじゃないかしら」


「まあ、そりゃそうだがな。確かふもとまでは線路が通ってたはず、列車で向かった後は山の中腹の町までバスがあった気がするから、そっから歩きだな」


 面倒くせえな、ロクすっぽ舗装されてない山道を歩き続けるとなると体力もそうだが時間も掛かる。

 靴もトレッキング使用に変えなきゃキツいかもな。


「そうそう、それともう一つ。これはアタシ達にとってかなり重要だと思うんだけど」


「なんだよ?」


「依頼主のアンメル商会。聞いた事がある?」


「あん? そりゃあお前、最近よく聞くようになってきたからな。投資家連中が生き生きするくらいには元気な会社じゃねえの」


「それもあるけど、もっと大きな意味よ」


 どういうことだ? 思わず頭を捻っちまったぜ。


「いいから聞きなさい。まずアンメル商会というのは、ここ数年急成長している中堅の運送業社よ。元々小さな運送屋だったらしいけれど、数年前に出資を受けたあたりからは飛躍的な成長を遂げたって噂。それだけの勢いのある会社なんだから、態々ギルドに依頼なんてしなくてもお抱えの人材がいるはずよ。なのにわざわざギルドに依頼してきたってことは……」


「……リスクとリターンが釣り合わないから投げてきたってことか? 冒険者連中に端金渡して行ってもらう方が言い訳も立つってのもあるのかもな」


「そういう事。でも、アタシ達みたいな貧乏駆け出し冒険者はこんなのにでも食いついていかないとやっていけないでしょ?」


「確かにな。ま、ウダウダ考えたってね、仕方ないわな。所詮は餌にありつく犬ですもの、相手が誰だろうと依頼主様には尻尾振らにゃ明日も見えない身の上だからして……。さて、そうと決まれば善は急げだ。早速準備に取り掛からないとな。取り敢えず足周りは固めないと……」


「よしじゃあ、しゅっぱーつ!」


「おっと!?」


 言うが早いか、ラゼクは俺の腕を取ると強引に引っ張って行き、俺はつまずき掛けながらもギルドを一旦後にした。

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