そして、今度はティターニの方を向いた。また俺との関係だかを聞くつもりか?
「あ、あの~私に何か御用でしょうか?」
「うん? う~ん……もしかしてティリち」
「あああああああ!!!」
うわ!? びっくりした。
どういう訳だけ急にティターニが大声を上げ始めたのだ。こんな大声とか出せるんだな。
となりのラゼクもびっくりして尻尾がピンと立っていた。やっぱりあれ、ああいうギミックなのか。
「急にどうしたのよティターニ?」
「あ、ああいえそんな。た、大した事では無いのですが……」
「ねぇやっぱティリ」
「う゛う゛ん゛!! あのラティーレンさん、でしたか? ちょっとお話したい事があるので向こうに行きませんか? いえ、直ぐ終わりますので」
「えぇ? 話ならここですればいいじゃんティ」
「さあ行きましょう!! いえ簡単なお話をするだけなので!」
「ああちょ!?」
何かを言いかけたラティだったが、ティターニが話があるようでそのままズルズルと引きずられていった。
(ティリちん、朝から見ないって思ったらこんなトコで何やってんの?)
(ボクにも色々事情があるんだ、今はこちらに合わせて……)
(そんなにエレぴと一緒に居たかったら追い出さなきゃよかったじゃん)
(まさか本当に出て行くなんて思わなかったんだ! 反省してこれからもボクとコンビを組んでやっていくと思ってたのに……!)
(え~考え甘くない? エレぴの性格考えなよ、反省なんてする訳ないじゃん。大体二人ってコンビ組んでたっけ?)
(ボクの中ではパーティを支えるコンビだったんだ! ちょっと女性のお尻を追いかける癖だけ控えて貰えればそれでよかったのに……)
(だからって女装までして)
(ボクは女だ! 知ってるだろキミも。……と、とにかくここはボクと口裏を合わせてくれたまえ)
(仕方ないにゃあ、もう)
「何話してのあれ?」
「さあ? 急にどうしたのかしらね」
「アハハ! ごめんごめん、あーしったら知り合いと勘違いしちゃってさ~」
「ああ、何だそうだったのか?」
話し合いから戻って来た二人、その内容は知り合いと勘違いしたラティに対する訂正だったようだ。
しかし、それにしてはあの大声は何だったんだ? それにわざわざ二人でヒソヒソ話をする必要も分かんねーな。
ま、いっか! 考えても仕方無い事は考えても仕方が無いのだ。
「それでさぁ、ねね? おネーさん名前なんてーの? 歳いくつ? スリーサイズは?」
「いきなりなんなのよ? 私はラゼク・サトーエン。年は十八で、スリーサイズは……って言うわけないでしょ!!」
「うんうん言わなくても分かっちゃうぜ。だからエレぴも塩対応なんだ、あーしとおそろー。塩いモン同士仲良くしようべ、ラゼたん」
「う、嬉しくない繋がりね。あと勝手に変なあだ名つけないでくれる?」
「あはは、いいじゃ~ん」
俺の知らない所で意気投合している二人。
胸に栄養が行かないもの同士で気でもあったか? ま、好きにしてくれ。
「そういやお前一人か?」
「そそ。今はバラバラに依頼とか受けてんの。今日は久々ダンジョン探検に来たんだけど、まさかこんな所でエレぴに遭うとか、ちょ~運命的な再開っしょ! まさかパーティー抜けるなんてねぇ。そんなにティリちんにしごかれたくなかったん?」
あ? そんなん決まってんじゃん。
しかし、一瞬ティターニの体がピクっと動いたのは気のせいか? まあいいや。
「ケ、アイツがどうしても泣いて引き留めるってなら話は別だがな。ま、それでもおっぱいの大きい女を追い掛けるのを止めろだなんて許容できる問題じゃないがよ」
「ブレないよねエレぴってば。あ、でもあーしのせいでもあったりする?」
「よーくご存じじゃねーの。全員一致で俺の女性観を変えようってんだ、そりゃ出て行くさ」
「仕方ないじゃん、メンバー全員おっぱいがちっちゃいんだから。まぁあーしはともかく、他のみんなコンプレックスをチクチク刺されてイラっちゃってたしぃ」
「それでも変えられないんだよ。いいか? 男ってもんは一度決めたら妥協なんてするもんじゃねぇのさ! より高い山を制してこその達成感と充実感を味わえるってもんよ!」
「わ~エレぴったら相変わらずぅ。ヨ、サイテーな身の程知らず!」
そう言ってラティが俺の背中をバンと叩く。
不意に冷たい視線を感じて振り向くと、ラゼクのヤツが呆れた目で俺達を見ていた。
「アンタ達って昔からそんな感じなワケ? ちょっとついていけない、いきたくない」
「おい引くなよ」
(やっぱり彼女、エレトレッダと近くないか? 色々と。ラティ侮りがたし、だな)
「ねえ、ティターニもそう思うでしょ?」
「え? あ、ああそうですね。お二人共仲がよろしいようで……ええ本当に羨ましい限りですわ」
「ティリ……ティタちんちょっと目が怖~い」
◇◇◇
何事も無く依頼を達成した俺達はその後、坑道の入り口でラティと別れギルドへと意気揚々と帰るのであった。
外はもう夕暮れ。ちと肌寒さも感じる時間だな、季節的に。
「で、どうよ? 初めての冒険者の仕事ってヤツはよ? 俺程のベテランがついていてお前ラッキーだぜ。一人じゃ、もう無理~って言って泣きながらションベン漏らす羽目になったかもしれないんだからよ」
「んなワケないでしょうが。まあ、色々大変だったけど……、悪くはなかったかな」
「わ、私も! 中々刺激的な体験が出来て嬉しい限りです。今日という日は人生の記念となる事でしょう」
「ほほう、流石はティターニだな。そうだぞ、初めての冒険……それも俺程の男にリードされての体験なら一生もんだよな。しかしラゼク、お前にしたって珍しく素直じゃないか」
「アンタに褒められると正直ムカつくわ。だけどまぁ、アンタのお陰でこうして生きて帰れてるわけだし。そこは感謝してるっていうか……」
「ああん? 全然聞こえねーなぁ? もっと大きな声で、ありがたみを目いっぱいに含んで感謝の言葉を」
「調子にノるんじゃない!」
「痛っ。ぼ、暴力はよくない」
「ちょっとお二人とも!? 人の往来が無いと言ってもそういった喧嘩ははしたないかと……」
(やはり、彼女は要注意人物だな。エレトレッダともうあんなに接近する仲になるなんて……!)
はたかれた頭をさすりつつ、俺は思う。
最初はただの生意気なヤツにしか見えなかったが、ラゼクというこの女の事を少しだけ見直した気がするぞ。
ちょっとしたアクシデントはあったが、初のパーティプレイで得たモノは多い。はずだ。
今回に関して言えば妥協点をくれてやらん事もない。
写真の出来を確認するラゼクを横顔を見てそんな事を思った。
(な、何故彼女の横顔をじっと見てるんだ!? い、いやこんな事は焦る程の事じゃないはずだボク!)