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第6話 初仕事を受ける

 そんな感じに、俺達の一日が始まった。

 その上でやる事と言ったら一つしか無い!

 それは……。


「ああ、食った食った。ま、朝だし腹五分目ってね」


「例によって例の如くアタシのお金だけど。それ以上食べたらさすがにブっ飛ばしてたわよ」


 ちぇ~。


 格安のビジネスホテルに食事なんてサービスは無いので、朝早くからやってる喫茶店で軽く食事を済ませた。


 朝のクロワッサンの味は格別だな、特に焼きたては最高だぜ!! ベーコンに卵まで挟んじゃって、食後のコーヒーも美味い。やっぱ朝はカフェオレだよ。

 これでポタージュなんて……、頼んだらさすがに殴り飛ばされる。


「いやぁ、良いねぇ。やっぱり朝食はこうでなくっちゃ」


「今度からこのレベルの朝食が食べたかったら自分のお金で払いなさい」


「わかってるよ。いや~ゴチになりましたぜ姐さん」


「その手やめてよ。なに露骨にゴマ擦ってんの?」


 だってお金が無いんだもん。もん。


「さてっと。腹ごしらえも済んだし、今日こそギルドに行って仕事を見つけないと」


「それが冒険者のあるべき姿ってか。いっぱし気取っちゃってぇ、一ベテランとして鼻がむず痒いね」


「しみじみ言ってんじゃないわよ。たかだか、一年ちょっとのクセに」


 いつものようにグチグチと言い合いながら、俺たちは店を出る。


 街道へと飛び出すと、まずは何よりも朝日が俺たちを出迎えてくれた。

 あーなんて清々しいんだ、青い空が青い。白い雲が白い!

 ああ太陽が眩しい、溶けるぅ。気持ちいい……。


「眠くなってきちゃったなぁ……。ぐぅ」


「食ったら寝るって、冗談じゃないわよ! 朝はまだ始まったばかりでしょうが!!」


「お、おい。そんなに揺らすなよ。吐き気が……」


「きゃあ!!?」


 ◇◇◇


「ええ、ではパーティーを結成して初めてのお仕事という事ですので、こちらなどどうでしょうか?」


「なるほど、流石は目利きでいらっしゃる。しかし私としては、やはり貴女の人生の伴侶という仕事を引き受けたく」


「はぁ……?」


「朝っぱらから何やってんのよ!? もういいから向こう行ってなさい!!」


 ギルドの受付嬢のお姉さんと楽しくお話していただけなのに、ラゼクのヤツに邪魔だと蹴っ飛ばされた。ひどい女だ。


 仕方なしに後はラゼクに任せた。


 ラゼクは俺をあしらいつつ、受付嬢との会話を続けてた。なかなか器用な真似をするじゃないか。

 やがて話はまとまったのか、彼女は一枚の依頼書を手に取った。


「じゃあ、これにします」


「はい。では手続きを開始いたしますので少々お時間を頂戴致します」


「わかりました、お願いします」


 お、どうやら決めたようだな。

 でも実は俺も、中々のものを見つけてしまったのだ。


「居酒屋のオープニングスタッフ、時給千ペレル。未経験者歓迎、アットホームな社風を目指しています。これを機に新しい仲間と楽しく働いてみませんか? ……そこそこ悪くねぇな、これにするか」


「だからっ、バイトの求人に応募してどうすんのよ! いい加減にしなさい!!」


「そんな怒鳴ることないじゃん。……それで、結局何の依頼を引き受けてきたのよ?」


「これよ、これ」


 そう言ってラゼクが持ってきた依頼内容は、こう書かれていた。


『ヴェノムスパイダー討伐。場所:レッデレア坑道。依頼人:ギルド。

毎年の事ですが、今年も彼のモンスターの繁殖時期が近づいてきました。殲滅は生態系に影響を及ぼしますので、適度の間引きをご依頼しております。報酬額は一匹につき五千ペレル。なお、期限は一週間以内となります』


「おお、そういや今年もそういう時期か……。

いやぁ懐かしいな、俺もド新人の頃受けたぜ。もうすでに分かっているだろうが、俺はみんなが期待する新星冒険者でな? そりゃあもうあの頃はその期待に応えるようにちぎっては投げちぎっては投げ、獅子奮迅の大活躍を初回に決めちまったもんさ」


「……ていう妄想なのね。アンタの事だから、どうせパーティメンバーに任せっぱなしにしてひんしゅく買ったとかじゃないの?」


「そぅ、んなワケないじゃん。な、何てこと言うんだ。俺は期待の新星で、依頼を達成した後お姉ちゃん達にもみくちゃにされて!」


「動揺してんじゃないわよ。……はぁ、まあいいわ。じゃあアタシは残りの細かい手続きしてくるから、アンタは装備品とかの確認でもしてなさい」


 呆れ顔で溜息をつきながらそう提案して、ラゼクはカウンターへと戻って行った。


 持ち物の確認というのは冒険者として当然のことだ。とりわけ、俺はともかくコイツは初だからこういうことに気合が入る。俺にも覚えがある。

 普段寝つきの良い俺が、前日からワクワクして全く眠れなかった。


 今でも昨日のように思い出すなあ……。


『ぐへへ、ボインちゃんがいっぱいだよぉ……』


『もういい加減に起きなよ! 今日がボク達の初仕事なんだよ?! どうしてそんなに緊張感が無いんだキミは!!』


 …………あれ?


 ま、まあ一年も前の話だから。多少の記憶違いが起こっても仕方ないよな。うん。


 それはそれとして、冒険者にとって装備は命綱そのもの。

 武器は勿論のこと、防具だって重要だし、道具だって忘れてはならない。

 特に俺達は駆け出しなんだから、準備不足が祟って命を落としたなんてことになったら笑えない。


 手持ち無沙汰になったし、その辺りちゃんと確認でもして……。


「あの~、もし」


「はい?」


 リュックの中身を確認しようとした時、どこか透き通るような耳障りの良い女の声が聞こえて来た。


 そちらの方を見やると……これまた残念な感じのスカスカ具合な、ある意味でピンとハリのある胸部装甲が――。


「あ、あの? 何を見てらっしゃるんですか?」


「おっと、これまた失礼。それでお嬢さん、このダンディなお兄さんに何か御用事かな?」


 見ず知らずの女の胸をジッと見るのは失礼、そんなのは先刻承知なのでバレない内に相手と目線を合わせる。

 俺だって無い物をいつまでも見るような酔狂な男じゃないしね。


 しかし、このお嬢さん。

 身形こそお上品なお嬢様然とした、落ち着いた感じの服装だ。


 下はベージュのロングスカートで、上は白いブラウス。

 その上に羽織っているのは紺のカーディガンか?

 一見すると良家のお嬢様って感じだが……身長が俺と然程変わらないレベル、つまり一九〇手前だ。珍しいな。


 じつはかなりの健康家で、休日は食と運動に強い拘りでもあるみたいな。


 髪の色はオレンジで、お嬢様な見た目の割に意外と髪が短いな。


 どことなーく俺を追放した元パーティリーダーを彷彿とさせるが……。

 あんなキザな男と温和なお嬢さんを一緒にするのは失礼な話か。


「はい……実は冒険者の方とお見受けしましたので、少しご相談したいことがございまして」


「ほう、それはまたお目が高いな。俺ほどの実力者もそうは居ないし、それでいてこのルックス。これ程高いレベルでバランスの取れた冒険者もそうは居ない。お嬢さん、人を見る目が一流だな」


「え? ……えぇ、それ程でもありませんが、褒めて下さって感謝致します。それで、その……ご相談したいことが」


「おっとそうだったな。いやこりゃ失敬、お嬢さんが中々可愛らしい反応をするもんだからついつい本題を忘れてしまった」


「……そ、それはどうも……」


 褒められて悪い気はしないのか、少し照れたような仕草をするお嬢さん。


 この初々しさは嫌いじゃないね。

 胸こそ無いがこんな美人さんに頼られるなら悪くは無い。


 どーんと話の一つや二つ聞いたろうじゃないの!


「それで話って? あ、お金の相談なら無理だぜ? 俺も今や持たざる者だからな。でもそれも今だけさ、その内ビッグに成り上がって両脇に美女を侍らせながら金の風呂に入ってやるんだ。……まぁそれは置いておいて金以外の相談なら受け付けよう」


「えぇ実は、その……私は駆け出しの冒険者でして、他にパーティを組んで下さる方を探していたのですが」


「それで俺に声を掛けたって訳か……。成程」


「ご迷惑でしたか? 出来るだけ頼りがいのありそうな方と組みたくて」


 言い分は分かる。この不安でもじもじとしているお嬢さんの気持ちも駆け出しならば仕方ない。


 しかし、こんな大人しそうなお嬢さんが冒険者になるだなんてな。身形も綺麗だし、金に困ってる訳でも無さそうだし。見た目に反してアグレッシブなお嬢さんだな。


 どうせパーティを組むなら今度こそ巨乳の姉ちゃんが良かったが……これも何かの縁だ、引き受けようじゃないの。


「いやいや、迷惑だなんてとんでもない。寧ろ大歓迎さ。どーんと大船に乗ったつもりでサポートしてやるぜ」


「ありがとうございます! 本当に嬉しいですボ……私。それで、あの、お名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」


「おっとそうだったな。俺はエレトレッダ、どうよ名前までイカしてるだろう? ま、様付けでもさん付けでも好きに呼んでくれ」


「分かりましたエレトレッダさん! …………よし、まずは第一関門突破と言ったところか」


「何か言った?」


「い、いえ何も!」


 うん? 何か一瞬雰囲気が変わったような気がしたが、気のせいだろう。

 もしくは俺程の男と一緒に居るんだし、やっぱ緊張でもしてるのかな? きっとそうだな。


 ならばこそ、ここは俺が身構えて安心させてやらねばなるまい。

 これで胸が大きかったら何の文句も無いんだけどなぁ。

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