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第4話 パーティ結成

「さてと、腹ごしらえも済んだことだし、これでおさらばだな。……親切心でひとつだけ忠告しておくがな、この街は都会寄りつったってああいう手合も珍しくない。貧乳好きの物好きな彼氏でも作って一緒に行動することをオススメするぜ。じゃあな、あば」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」


「あん?」


 席を立ち上がりかけた俺に待ったがかかった。

 一体何の用だって?


「アンタさ、気にならない?」


「何が?」


「アタシがさっきハゲゴリラに言い寄られた理由よ」


「全ッ然。しいて言うなら、やっぱ世の中には好き者っているんだなって」


「おおきなお世話よ! そうじゃなくて……ああもう! ハッキリ言うけど、今パーティのメンバーを募集してるの。それでさ、アンタ今フリー?」


 どうしよう。めんどくさい気配が一気に漂ってきた。この話は早々に切り上げるべきだ。

 思い立ったが吉日、俺は素早く断りを入れた。


「フリーかと言われれば今ちょうど偶然にも奇跡的に隣は開いているが……。悪いな、俺の隣は飛び切りのバストを持った包容力に溢れた大人の女性専用なんだ。だが、この俺に目をつけたのはいいセンスしてると思う。そのセンスを大事にして仲間探しに励んでくれ。じゃあ」


「つまりアンタ一人ぼっちなわけね? じゃあ丁度いいでしょ。馬鹿みたいにアタシのお金でたらふく食べたんだから、少し位融通効かせても罰は当たらないんじゃない?」


「ぼっちで悪かったな。それにそんな事言ったってねぇ、大体俺はお前の名前も知らないワケだし……、いややっぱ知りたくない。僕たちの関係はここできっぱりと終わらせるべきなんだ、今この瞬間から赤の他人になるべきなんだ」


「つまりアタシのことを知ったらいいわけね? アタシの名前は」


「あああああああ!!!」


 俺は急いで耳を塞ぎ、大声を出して聞こえないようにした。

 なのにこの女ときたら、俺の腕を無理やり耳から剥がそうとしてくる。


 なんだコイツ、意外と馬鹿力じゃねぇか!


「子供みたいなことしてんじゃないわよ! いい? アタシの名前は……!」



 全くなんて日だ! 結局このアマの思い通りになってしまった。


 知りたくもなかったコイツの名前は、ラゼク・サトーエンと言うらしい。

 獣人族はジャレストフォルの血族で、特徴的な猫耳と尻尾を持つ。


 つい先日、里からこの街にやってきたばかりだという。そして、今は冒険者として生計を立てようとしている最中とのことだ。


 なんでもコイツの里じゃ十八歳を迎えると成人の儀として、外に出て自分の実力に見合った仕事をこなすことが義務付けられているらしく、そこで認められるまでは里に戻る事が出来無いらしい。


 はぁ、今どきこんな因習が残ってるとはね。これだから田舎ってやつは。


「アンタさ、今なんか失礼なこと考えてない?」


「……そ、それはお前の自意識過剰だよ。牛乳飲みな? カルシウムが足りてないからつまんない被害妄想に囚われるんだ。ついでに一抹の望みをかけて胸を大きくしてみるんだな」


「なんですって!!?」


 まったく口の減らない女だな。人が折角親切心で言って上げてるってのに。

 これが世間知らずってやつか。仕方ない、都会のように雄大な心で受け止めて上げようじゃないか。


「感謝しろよ。俺がお前の胸板並に情の厚い男な事をよ」


「いちいち憎まれ口叩かなきゃ気が済まないワケ?!」


 ファミレスを出た俺たちが今向かっているのは、装備品を整える為のショップだ。

 中に入ってみると、これが品物の質、量共に申し分が無い。


「ほえ~。中々立派な店構えだなぁ」


「当たり前でしょ。この街で一番の品揃えだって評判なんだから」


「なんで街に来たばっかのお前が偉そうなんだよ? そういう情報ってのはどうやって仕入れてんだ?」


「この手の情報は事前に仕入れておくもんでしょ」


「そうか……。そうかもな」


「なんっか頼りないわね、アンタも一端の冒険者じゃないの?」


 んな事言われてもその手の仕事は俺の担当じゃなかった。

 思えば、あの連中と縁が切れた以上俺もこういう事を覚えていかんとなぁ。


 ま、今は装備を固めるとしましょしましょ。

 今必要なのは、何においても武器だ。手に馴染んだ物は置いてきてしまったから代わりがいる。


 でも俺が使う武器はとうに決まっているのさ。


「やっぱこれだね」


 俺が手にとったのは二本の剣。護拳の無いサーベルに頑丈な両刃のナイフ。

 この長刀と短剣の二刀流が俺のスタイル。どっちも鍔を持たないデザインだが、それが妙に俺の感性に合う。


 何よりいいのは、割りとどこでも売っているってところだな。

 気兼ね無く使い潰せる。これが何より大事。


「ふぅん、アンタそういうチョイスなワケね」


「スタイルなんざ千差万別だろ。そういうお前は買うもん無ぇのかよ?」


「あるわよ。アンタと違ってちゃんと考えてるんだから」


「ふぅん」


 聞いといてなんだけど正直興味がなかった。俺自身言った通りスタイルなんて千差万別だ、他人が何使おうが勝手にすりゃいい話。


 その後は必要な道具もいくつか見繕って、店を後にした。


 会計の際それとなく奢ってもらおうとしたが、さすがに無理だった。飯代セーブして、その分をこっちに当てて貰うべきだったか?


 今考えても後の祭りだな。


「よし、一通り揃うもん揃えたしやることと言ったら一つよね!」


「ああ、今日の宿を一体どうするべきか……」


「違うでしょ! もっと大事なことがあるでしょうが!?」


「そんなこと言ったってお前、いくらなんでも野宿は嫌だぜ。それもこんな街中で。朝飯はホームレスのおっさん達と一緒に炊き出しに並べってのかよ!」


「誰もそんな話はしてないでしょうが! アンタ冒険者としての自覚あんの?!」


「馬鹿野郎お前、こちとらこの筋一年と二ヶ月だぜ? ベテラン様に対する口の利き方ってのがなってないんじゃねえのか?」


「たった一年ちょいじゃない。あんたこそそれでよく偉そうにできるわね?」


「んだよ。結局何をお望みなワケ?」


 ラゼクは呆れたように溜息を吐いた後、「まずはパーティーの登録でしょうが」と吐き捨てるように言ってのけた。


 なるほどこいつは盲点だったぜ。

 確かにこれから冒険者としてやっていくのなら、届け出を出さないと。不法冒険者でお縄行きだ。


「へっ、お前にしちゃあ随分とまともなこと言うじゃねぇか。ま、これも全てそう考えつくように仕向けた俺の誘導が優れていたってことなんだけどな。感謝しろよ」


「嘘ばっか言ってんじゃない! こんなところでいつまでもこんなバカなことやってる意味なんてなにも無いんだから、とっとと行くわよ!」


 ぐえっ。

 急に腕を強引に掴まれた俺は、そのままずるずる引きずられていく。


「ばっ、急に何すんだ!?」


「ほら大人しくついてくる!」


 なんて強引で可愛い気の無い女だ。きっと今まで彼氏の一人も出来なかったんだろうな。紳士に対する配慮ってもんがない。

 まったく、これだから礼儀知らずの田舎の小娘は。


「……アンタまたなんか失礼な事考えて無い?」


 おまけに感も鋭いときた。

 こりゃ彼氏が出来ても直ぐに逃げられるタイプだろうな。


「……ったく、分かったよ。黙ってついて行きゃあいいんでしょうが」


「最初から素直にそうしてればいいの。ホント、世話の焼ける男ね」

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