「カレシとはなんだ?役職か?」
「ううん。彼氏っていうのはね。わたしのそばにいてくれる人で、いろんなところに行ったり、たべにいったり家で過ごしたりするの。」
本来なら想い合って結ばれるものだろう。だが、それはただの綺麗ごとだ。そんなことをいっていたら、また同じように取られたり穢されるだろう。なら、形だけでも彼を彼氏になってほしい。
ただ、温もりが欲しいんだ。
結局、どちらにしろ一緒にいて承認欲求を満たしたいだけなんだ。悲しいけど、それが今の社会なんだ。
「じゃあ。わたしの家で一緒にくらそ!」
「本当か。もちろんカレシになろう。」
「ありがとう!」
私は、手を差し伸べた。
「カレシは手をつなぐとかするんだよ。手握ってくれる?」
「もちろん」
彼の手は温かった。これまでお母さんくらいしか触れられたことない。
あぁ、これが人のぬくもりなんだ。わたしはやりたいとか願望はない。ただ、こうやって傍で手を握ってくれる人が欲しかったんだ。
あの公園で好きだった人が女と手を握っていた所を見ていた時から。
という事で、私は彼と家に帰った。
「――!?」
しかし、彼は玄関で固まったままだ。そこまでピンクピンクしてないし、白色をうまーく混ぜている部屋なのだが、ダメだったのだろうか。
「なんだここは」
「私の家だけど?」
そう言ったが、男は少し考えこんでいた。
「俺達の家は藁とベッド……あとは財産入れと宝だけだった。」
「これが普通だよ。ほら入って。」
動揺しているが気にせず中に入らせる。よく見たら裸足だな、この子。
「適当にくつろいで」
私は立ちすくんだ彼を座らし、いつもの癖でユーチュットラを起動した。
「なんだこれは」
「ユーチュットラだよ。動画サイトっていう動画がみえるんだよ。サブスクもあるよ」
「ユーチュットラ?サブスク……」
男は人の声が聞こえるタブレットを興味深そうに覗いたり、触ったりしていた。
「なんか飲む?」
「なら、水がほしい」
コップを渡すと、彼は犬のように舐めていた。
うん。イケメンだが、結局中身はドラゴンという訳だ。それでもフィルターがかかってかわいらしいけど。
さて、この男とどう暮らしていけばいいものか。
「私の名前はスミレ。で、貴方の名前は?」
「ない。アイツみたいに好きな名前で呼べばいい。」
うーん、どうしよっかなぁ。
コロとかポチみたいな犬の名前はなんかなあ。なんかカッコイイキャラクターみたいな感じでもいいが。
今は10月。じゅう…シュウでいいか。
「よし、あなたの名前はシュウよ!」