僕達はポルコさんと別れた後一旦ギルドを出た。
街に到着してから真っ直ぐギルドにやってきた為、ひとまず荷物を置いてから色々と見て回りたいということで、宿を探す事にした。
そこで、宿はギルドも経つ大通りに面した立派な宿を借りることにした。
ここならば王立書庫にもギルドにも通いやすい。宿代は少し値は張るが、男女で分けて2部屋で借り受ければ、今の僕達の蓄えならば問題ない。
それに馬車も停める事が出来てサービス面でも安心だ。
さすが首都だ。なんて感心してしまう僕だった。
荷物を置き、皆で腹ごしらえを済ませた後、まだ日は高いので各々自由時間とした。
サヤとウィニは街の散策をするらしい。……まあウィニはどうせ食べ歩き目的だろうとサヤが無駄使いしないように監視する名目もあるようだけど……。ウィニは放っておくと財布のお金が許す限り食に費やす悪癖があるから、新しい街に着いた時は要注意なのだ。
……あ。そういえば前にウィニに貸したお金、まだ返してもらってないぞ。
ラシードはギルドに行くという。ここを拠点に活動する他の冒険者と交流して良好な関係を築いておくことで、僕達のパーティが活動しやすくするためだそうだ。
こういった大きな街ではその場所に根付いた冒険者が、新顔の冒険者を余所者扱いしてくる事があるそうなのだ。場合によっては依頼の邪魔をしてくる場合や、謂れのない誹謗中傷を受けることもあるのだという。
魔族との戦いが激化しているとの時に、人間同士でいがみ合うなんて無意味なことだと思うけれど、他の冒険者に気に入られておくことは、後々に思いも寄らない時に助けになってくれたりすることもあるらしく、とても大事なことなのだ。とラシードは冒険者の心得として教えてくれた。
ということで、他の冒険者との親睦はラシードに任せ、一人になった僕は大通りを足早に歩く。
僕の向かう先はただ一つ。王立書庫だ。
場所は道行く街の住人に尋ねたらすぐに分かった。
勇者の伝承、解放の神剣の力についての手掛かりが掴めるかもしれない場所がもう目と鼻の先にある。その状況に僕の気持ちは逸り、居ても立っても居られなかったのだ。
この世界のあらゆる知識が保管されているという王国で管理された書庫には、はるか昔の精霊暦の時代の知識も保管されていると聞く。
勇者は活躍した時代は精霊暦末期の、今から約500年前とされている。
ならばきっとその時代の知識や歴史についての記述がきっとあるはずだ!
逸る気持ちが足を前へ前へと急かす。
そしてその目的の建物が見えてきた。
街の人からは、聖都の中では王城の次に大きな建物だという話だったが、確かに立派な建造物だった。
その厳かな雰囲気を放ち、まるで塔のように階層が連なっている様に圧倒されてしまう。ここに世界中の知識が集まっているのだと思うと、人類はこれまで歩んできた歴史の深さに感動すら覚えた。
僕は意を決して入り口の大扉に手を掛けて、中へと足を踏み入れた。
「うわぁ……」
中に入ると、あまりにも広いエントランスに、たくさんの職員と思われる人が忙しなく動き回っていた。受付けの奥には何層もの数の本棚が建物の外周に沿ってズラリと整列しており、螺旋階段が上階へと続いている。
何処を見ても本が目に映る。思わず声が漏れるほどの光景だった。
そんな、驚きのあまり口を半開きになって見入っていた僕に、職員の人に声を掛けられた。
「王立書庫へようこそ。ここに来るのは初めてかい?」
学者然とした、眼鏡を掛けた物腰の穏やかな男性だ。
「あ、はい! 初めてです! ちょっと調べものがありまして!」
田舎者丸出しなところを見られて少し恥ずかしく思いながら、それをごまかすように返答する。
「そうか。では利用許可証は持っているかな?」
……利用許可証? それは生憎持ち合わせていない。なんだか嫌な予感がしてきた。
「……いえ。持ってませんね……」
「そうなんだね。……ここの利用には、王国が発行する許可証がなければこの施設を利用することが出来ないんだ。許可証を発行してからまた来てくれるかい?」
……僕は馬鹿だ。王立書庫と大層な名前が付いてる施設だ。誰でも自由に利用できる方がおかしいじゃないか……っ
未だ抜けきらぬ自分の世間知らずさを痛感して臍を噛む。同時に恥じた。
「すみません、その許可証はどこで発行していただけるんですか?」
もうここは恥を忍んで分からないことは全部聞いてしまおうっ!
職員の男性は何も知らない僕に丁寧に教えてくれた。
どうやら王立書庫の窓口でも発行してもらえるそうだ。
しかし、許可証の発行には金貨50枚必要だという。
入退出の際同行しているならパーティで1枚持っていれば大丈夫だというのが幸いだけど……。
そうか。グラド自治領でジークさん達から貰った餞別は、まさにこの許可証を得る為の資金だったということか。ますます感謝の念に堪えない。
しかし、肝心の資金は今は宿の荷物の中にあり、現在は持ち合わせがない為また明日来ることにした。
さすがに金貨50枚なんて大金を持ち歩こうとは思わないからね……。
ということで何の収穫も得られないまま王立書庫を後にする僕。
自分の至らなさが原因だけど、最初から出鼻を挫かれてしまったな……。
自分一人じゃ何をするにも躓くなあ……。はあ……。
とぼとぼと帰路に着きながら、頼りになる仲間の存在を改めて実感した僕なのであった。