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Ep.46 圧倒的

 僕はサヤと同時にチギリに距離を詰める。

 チギリは魔術師だ。接近してしまえば勝機もあるはずだ!


 サヤの方が強化魔術を使える分速度が早い。

 単発で飛んでくる火球を掻い潜りながら、僕とサヤはチギリの懐に飛び込んだ!


 サヤが右側から足に溜めた魔力を解放し、チギリに急接近して水平に斬った。


 チギリはそれをフワリと浮いて後退して着地した。無動作からの風の魔術を回避に使ったのか。


 僕はその着地に合わせて、ジャンプして距離を詰め、右斜めに袈裟斬りを放つ。……手応えはない。


「隙だらけの攻撃は命取りだよ、少年」

「ぐああっ!」


 またも風魔術でくるりと舞うように僕の頭上後方まで浮かんだチギリはそのまま僕に混合魔術である雷の魔術を放ってきた。


 全身を駆け巡る衝撃と痛みで意識が遠のきかける。

「クサビっ!!」


「サヤ、仲間に気を取られすぎているぞ」

「ううっ! ――きゃぁ!」


 僕の方へ行こうとしたサヤを、チギリは突風を起こして吹き飛ばした。



「……輝け、貫け。光よ出でよ。……ブレイズ・レイ!」

 ウィニが杖を掲げてチギリに振り下ろすと、地面に着地したチギリに一本の熱線を放った!


「悪くない魔力だが……。その魔術は悪手だ」

「……えっ」


 ウィニが放った熱線を氷の盾で防ぎ、左手をウィニに向け、下に向けた指を上に向ける。


「……う――」


 ウィニの足元から魔力が渦巻き、熱線を照射している最中で動けないウィニを小さな竜巻が打ち上げた。




 一瞬の出来事だった。

 いとも容易くあしらわれ、剣を地面に立てて膝をつき、なんとか体を支える。


 全身に痛みが残る中、僕は仲間の状態を確認する。突風で吹き飛ばされたサヤは体制を持ち直したところで、ウィニは足元から発生した竜巻に打ち上げられたが、尻もちをついた程度で済んだようだ。



「少年。君はその剣を全く使いこなせていないのだな」

「ぐっ……!」


 チギリは僕の非力を抉ってくる。自覚しているとはいえ人から言われると悔しい。

 今の僕ではこの人の足元にも及ばない事はわかってる。

 けど、このまま大人しくやられてたまるか!


 懸命に力を振り絞って立ち上がり正眼に構える。

 サヤがチギリの側面に位置取っていて、攻めるタイミングを見計らっているようだ。


「――降り注げ……降り注げ……。無数の礫よ降り注げ……!」

「……ストーンフォール。……ふんっ」



 天に掲げた杖に魔力が流れて輝いたあと杖を振った。ウィニの魔術が発動したのだ。

 拳くらいの大きさの石つぶてがチギリに降り注いだ!


 僕とサヤはバックステップで距離を取る。

 そして同じことを考えたのか、同時に魔術発動の準備を始めた。


「熱よ……大気よ……!」

「駆ける風は刃と化して――」



 ウィニが放ったストーンフォールを、左手で出した風の魔術で相殺している。手の平から無数の風の刃が奔流している。触れた物は瞬時に粉々だ。ウィニの石つぶてが全て砂塵に変わっていく。


「――燃え上がれ! ……火種っ!!」

「――剣風に乗せて敵を討て……! ……やあっ!」


 僕は火球の魔術を放つ。

 サヤは刀の腹に人差し指と中指を添えて刀身に沿ってなぞり風魔術を纏わせた。そして上段から斬り下ろして流れるように中段から水平に斬り、十字の風の刃が放たれたと同時に自身も駆け出した!


 僕も魔術を放った直後前進していた。雷を受けた傷が痛むが、今は気にしている場合じゃない!

 背後で少し遠方のウィニが立ち位置を変えながら次の魔術を準備しているようだ。



 僕の火球が届くが、チギリの右手で払われて霧散する。魔術を相殺されたのだ。

 そしてサヤの剣風がチギリに届くと、既に空いている左手で、岩で生成した剣で受け止めている。さらにそこにサヤの刀が袈裟斬りで追い立てた。


「やああああっ!」


 僕は剣を低く構え、気合いと共に左下から斜めに斬り上げる。


「くっ!」


 チギリは僕の斬撃も右手で生成した岩の剣で受けている。僕達の攻撃は全て受け止められた。僕の額を焦燥感を孕んだ汗が一雫流れる。


 二人がかりでチギリと鍔迫り合う。ギリギリと音を立てながら互いの力か拮抗している。


 そこにウィニが魔力を練りながらチギリの正面に飛び込んだ! すでに魔術の構築を終えているようだ。後は発動を待つのみ。


「……ここなら。……ブレイズ・レイ!」


 両側からの攻めを受け止めているチギリは身動きが出来ない! ウィニの魔術が頼りだ! 頼む!!




「――そんな……!」

「……むむむ…………っ!」

「…………くそ!」


 ウィニから照射された熱線は、チギリの顔面に達する一歩手前で防御魔術の障壁で受け止められていた……! 僕とサヤは打つ手のない戦いに絶望しかけていた。


 ウィニの驚きの表情が焦りの色を見せる。猫耳が垂れているあたり、恐怖を感じているようだ。

 そして杖を両手で持って魔力をさらに注ぎ、熱線の威力を上げた。


 僕とサヤも力いっぱい押し込む!



 その時、涼しい顔をしたチギリが淡々と言葉を紡いだ。


「魔術師は接近されると弱いとでも、思い込んでいたのかな?」


 チギリが不敵に笑った。その瞬間僕達は背中にヒヤリとしたものを感じ、咄嗟に離れようとした。


 ――が、体が動かなかった。

 足元に違和感を感じて確認すると、いつの間にか足が土の塊に覆われて固定されてしまっている!!


 それに気付いた時、チギリの周りがパチパチと音を立てて電気が発生し始めた……! そして徐々に電気の発生が激しくなってくる!


 ヤ、ヤバイ!! 早く抜け出さなければ……!

  サヤとウィニを横目で見る。二人も同じく身動きが出来ずにいる……!

 サヤの表情はもはや戦意を喪失し愕然としている。

 ウィニは大きく口を開けて目を見開きながら怯えていた。髪やしっぽが逆立ち、全身で危険を訴えている。



「その常識を捨て去らねば、君達は永久に常人止まりであると知るがいい。」


 マズイ! 間に合わな――――


 チギリの魔術が発動する直前、僕はサヤと目が合った……。今にも泣き出しそうな、儚く消えてしまいそうな表情は、眩い閃光に包まれ――



 突如、チギリの周りから閃光と共に強烈な雷を帯びた衝撃波が発生し、僕らをまとめて巻き込んで吹き飛ばした。

 宙に投げ出された僕の意識は時がゆっくり流れているかのようだった。何も感じず、何も聞こえずに薄れゆく意識の中、同じように吹き飛ばされる仲間達をただ見つめる事しか出来なかった――――


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