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Ep.43 初めての依頼

 冒険者ギルドの中でサヤと別れ、僕は早速どんな依頼があるのかと掲示板に向かった。


 僕は最低ランクであるEランクだ。なのでEランク依頼しか受けられない。当然報酬もそれだけ少ない。早くランクを上げて行きたいな。


 掲示板には、ある程度ランク毎に分けられていた。

 掲示板でも端っこに掲示されていて、なんだか僕まで肩身の狭い気持ちになる。


「えーっと……」


 依頼内容を読む。


 ――サインを貰ってきてください

 花の精霊様のサインが欲しいです。見付けてサインを貰ってきてください。それと、メッセージは『ドレンくん大好き♡』と書いてもらってください。

 報酬 銅貨3枚 依頼者 D


 ――探しています。

 財布を落としてしまいました。探してください。

 報酬は見つけた財布の中から一割お渡しします。

 報酬 財布から一割 依頼者 ウパ・ルーパ


 ――花の精霊のスペシャルステージスタッフ

 ボクたちの天使花の精霊ちゃんのスペシャルなステージをお手伝いできるチャンス! 共に最高のステージを演出しましょうぞ♪ ステージは花の精霊ちゃんが見つかり次第開催!!

 報酬 ボクらの天使花の精霊ちゃんの横アングルからお姿!!

 依頼者 花の精霊ちゃん親衛隊副隊長 機敏のアデュール





 ……冒険者始める場所間違えたかな。


 そう思いながら他の依頼を見ていく。すると


 ――薬草の仕分け作業

 ポーション作製に使う薬草の仕分けをお願いします。

 報酬 銀貨1枚 依頼者 ケレン



 薬草の仕分けかぁ。これは薬草の見分けも付くようになれるかも。

 それに報酬も他に比べたら良さそうだ。

 よし! この依頼を受けてみよう。


 僕はその依頼の張り紙を剥がし、カウンターへ持っていく。先程登録手続きをしてくれたアルラウネの受け付けの、ヴァーミさんが笑顔で対応してくれた。ほのかにリリーの香りがした。


「この依頼を受けたいです! よろしくお願いします!」

 依頼の紙をカウンターに置く。ヴァーミさんがそれを確認する。


「はい! 薬草の仕分けの依頼ね。受領を確認しました。……あら、君はさっき登録したばかりの新人君ねっ 頑張って行ってらっしゃい!」

「はいっ! 行ってきます!」 


 ヴァーミさんの魅力的な笑顔に少し顔を赤くしながら返事をして、僕はギルドの扉を出る。


 さて、場所はっと。

 この大樹の広場の大通りに連なるお店の中の一つのようで、近くにあるみたい。


 地図を頼りに歩いていると、道具屋『ケレンの葉っぱ』という名前のお店を見つけた。太い木の幹をくり抜いたような外面にドアが付いている。どうやらここで間違いなさそうだ。


 僕はケレンの葉っぱの中に入る。

 中は案外普通のお店だ。商品が所狭しと展示され、正面にはカウンターがある。その奥には上へ続く階段があった。ここには誰もいないようだ。


「ごめんくださいっ」

 冒険者として初めての依頼で、少し緊張しながら声を掛ける。すると、トントンと足音がして、アルラウネの深緑の足が階段から降りてくるのが見える。ほのかにラベンダーに近い香りがした。


「はいはいっお待たせしましたー」


「あ、えっと、依頼を受けて来た、クサビ・ヒモロギと言います!」

 僕はギルドカードを見せながら挨拶する。


 アルラウネの女性は、丸い眼鏡に片手で押さえて目を細めて、パッと表情を明るくしながら手をポンと叩く。


「ああ! 依頼を受けてくれたんだ! よろしく〜! 私がケレンだよ! ここの店主〜」


 ケレンさんは満面の笑みで挨拶を返してくれた。

 ふと思ったけど、アルラウネって明るい性格の人が多いのかな? 今まで会ったアルラウネは皆元気だし明るかった。


「じゃあ、早速お願いしちゃおうかな〜! 2階に行こう〜」

 僕はケレンさんに着いて2階に上がる。



 2階は作業場と言った感じだ。籠に入った大量の葉っぱがテーブルに乗っている。他には何かの材料なのか、色々な液体が入ったビンがあったり、見たことない道具がある。構造的に、何かを混ぜる時に使う物みたいだ。


「はいっ それじゃここに座って〜!」


 ケレンさんが椅子を引いて僕を手招きしている。

 言われた通り椅子に腰掛けると、仕事の内容を説明してくれた。


 籠に入った薬草を図鑑と照らし合わせて種類毎に分けていくようだ。図鑑の開かれたページには3種類の薬草の絵が書いてある。

 その絵に無いものは雑草だからポイしてね、との事だ。



 冒険者としての初仕事だ! 頑張るぞ!


 僕が作業している間、ケレンさんはポーションを作ったり薬品を調合したり、お客さんが来れば接客したりと忙しそうだ。それでも終始楽しそうに動き回っていた。


 そんな様子になんだか僕も楽しくなってくる。

 薬草も特徴的で、3種類とも全然違う見た目だから仕分けも簡単だった。



 1時間後、大量だった籠の中身が空になった。僕はケレンさんに報告する。


「あっ! もう終わったんだ〜、早いね! それじゃあ次持ってくるね〜!」



 どうやらほんの一部だったらしい。なんとあと4籠あるそうだ。……頑張るぞ!



 さらに1籠片付け、またケレンさんに報告すると、3階から声が返ってきた。


「クサビくーん! 疲れたでしょう?そろそろお昼にしよう〜! こっちおいで〜」


「あ、はーい! ありがとうございますー!」


 そういえばお昼ご飯を準備してなかった。普段は自分で準備するものだよね。今日は運が良かったけど、明日からは準備しておこう。

 初歩的ではあるが一つ学びを得た僕はケレンさんがいる3階へ登って行った。



 3階に上がると、そこは私室のようだった。

 女性らしい部屋だ。植物製の物が多いが、その中でも可愛らしいカップや小物などが置いてある。大きな葉っぱで出来たハンモックがおしゃれだ。


 というかここに立ち入って良かったのだろうか?

 ケレンさんのプライベートな空間だと思うんだけど……。


 そんな僕の懸念も杞憂と言わんばかりに、ケレンさんは突っ立っている僕に手招きしている。

 ケレンさんに向かい合って座ると、既にテーブルには料理が2人分準備されていた。


 僕が作業している間に、人間族に合わせたお昼ご飯を作ってくれたらしい。

 と言ってもアルラウネも人間と同じ物を食べられるのだとか。植物化している部分が多いと食べられない人も居るけど、と付け足していたけれど。


「美味しそうですね……! いただきます!」

 手を合わせてから頂く。炙った大きなベーコンと添えられたチーズ、瑞々しい鮮やかな野菜、バターが乗ったパン。


「ケレンさんは、今日みたいに依頼はよく出してるんですか?」

 食事をしながらなんとなく気になって尋ねる。


「たまにかな〜。依頼出しても誰か来てくれるか分からないしね。今日は他にやりたいことがあったから依頼出したの!」


 あまり受けて貰えないのはEランクの依頼だからだ。

 ランクが上がれば、冒険者は主に街の外での活動になる。だから街の中で困っている人がいても優先度が高い依頼を先に解決するから、Eランクの依頼が解決するのは遅いって事なんだね。


 せめて僕のランクが低いうちは困っている街の人を助けて行きたいな。

 ……なんて、こんな駆け出し冒険者が烏滸がましいかな。



 昼食を頂いた後は作業の続きだ。

 よし! 集中してやるぞ!


 図鑑も一緒に見れたのでどういう薬草なのかも知ることができた。何かの役に立つ事があるかもしれない。知識も立派な武器だと考えたらなんでも知りたくなる。




「――終わったぁ〜〜っ…………あっ、すみません終わりました!」


 全部で5個あった籠いっぱいの薬草の仕分けが終わり、僕は大きく伸びをしながらつい言葉を漏らした。

 近くにケレンさんが居るというのに、つい素が出てしまって恥ずかしい。


 ケレンさんは口元を手で隠しながら優しく笑っていた。

「ふふふ! 気にしないで〜 お疲れさま!」


 ははは、と照れ隠しをしていると、ケレンさんは緑色の液体が入った小瓶を手渡した。


「……? これは?」

「試作品の解毒薬だよ〜。普段は一人だけど、今日は二人で楽しかったから。そのお礼!」


 そういう事なら、と有難く頂いた。


 これにて依頼は完了だ。

 冒険者が依頼を完了させた証明として、ケレンさんは依頼書の一部にサインして僕に渡してくれた。

 僕はそれをギルドに提出すれば依頼が達成となり報酬が支払われる。



「今日はありがとうございました!」

 僕はケレンさんに感謝を伝える。


「いえいえ〜、こちらこそありがとうね! 今度はぜひうちに買いに来てね〜!」

「はい! ぜひ! ……では、また!」


 お辞儀をして僕はギルドへ向かった。

 今日は最初の依頼としてはなかなかいい出だしだったんじゃなかろうか。




「――はい! 依頼達成を確認しました。こちらが報酬です。ご確認くださいね。お疲れ様でした!」


 ギルドでヴァーミさんに依頼達成を報告して報酬を貰った。

 僕の初めての成果。この報酬の銀貨1枚がなんだかとても重く感じられて、これからの活動の意欲を高めるのだった。


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