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Ep.40 駆け出し冒険者

 早朝の不思議な邂逅のあと、僕は隣の部屋に泊まるサヤとウィニと一緒に朝食を済ませたら冒険者ギルドに行くことになった。


 冒険者としての資格を持っておけば、各支部のギルドでも支援を受けられたりするそうだ。旅をするなら冒険者にならない理由はない。



「冒険者のことなら、先輩にまかせなさい」


 出たよウィニのいつものドヤポーズ。腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔するやつ。僕は勝手にそれをドヤポーズと呼ぶことにした。


 今回は手にギルドカードをチラつかせている。微妙にバリエーション変えてくるが気にしちゃいけない。

 サヤは苦笑していた。きっとそのうち慣れるよ。



 そんなウィニをスルーして、僕らは冒険者ギルドボリージャ支部に到着した。大樹の広場周辺に主要施設があるようで場所はすぐに分かった。

 大きな球根みたいな形の建物だ。これもボリージャならではなのかも。



 扉を開けて中に入ると、酒場と一体になった作りをしている。カウンターには受け付けの人が立っていて、周りにはテーブルとイスが設置していて、ここでも飲食ができるようだ。

 冒険者もチラホラいて賑わっている。


 僕はその様子を好ましく思って、これからの冒険者の活動に期待の思いを馳せた。


 サヤは冒険者たちより、ギルドの受け付けや、依頼が貼られた看板など、施設面を興味深そうに見ていた。


 ウィニはと言うと、猫耳をぺたんと下げて僕の荷物にしがみついて隠れながらチラチラと覗き込んでいる。こういう騒がしいところは苦手なのかな。さっきのドヤポーズは見る影もない。



 カウンターまで進んで、リリーの香りがするアルラウネの受け付けのお姉さんに冒険者登録をお願いする。

 僕とサヤの登録手続きをして、ギルドカードを発行してもらっている。


 発行手続きを進めて貰っている間、冒険者としての基本を説明してもらった。


 説明によると、大きな街には冒険者ギルドは大抵は存在しているそうだ。

 各冒険者ギルドは直轄範囲は定められており、他のギルドと同一の依頼が起きないよう管理されている。


 冒険者にはランク分けされ、最低位からE、D、C

B、A、S、SS、SSSとなり、依頼に定められたランク条件が満たしていないと受注することができない。

 また、自身のランクより2つ以上低いランクの依頼も受けられない。ただし、自分より低いランクの依頼に限り、助っ人として手伝う場合は可能で、依頼を受注した者のランクが条件を満たしていれば同行できる。ただし本人の評価に加算されない。


 冒険者ランクの昇格には、一定の経験と、昇格依頼の達成をこなすと昇格する。

 Eランクならば、Eの依頼を10回達成でDに昇格。

 Dの依頼を20回と昇格依頼達成でCに昇格。

 Cの依頼30回と昇格依頼達成でBに昇格。


 Bからは危険な魔物の討伐など、危険度が増すため難しくなる。またここからパーティでのみAランクまでの受注が可能になる。

 Bランクからは、Cの依頼を100回もしくはBの依頼を30回もしくはAの依頼を10回と昇格依頼達成でAに昇格。


 Aの依頼を50回と昇格依頼達成でSに昇格。

 もうこの辺りからは相当に難しいらしい。また各国への知名度もかなり高くなる。


 Sランクからは、SSに上がるためには国とギルドによる審査により昇格する。SSランクにまで上り詰めた冒険者の影響力は計り知れない。一握りほどの冒険者が到達できる領域で、居場所や目的など把握しておかなければならないほどの扱いになる。

 SSSともなればもはや伝説である。いずれも英雄視される者たちだ。SSSへの昇格には主要4大国のトップが承認し、SSSランク冒険者は魔族に対する行動を義務付けられる代わりに、あらゆる要求を行うことができるようになる。


 なお、一定期間同ランクの依頼をこなさなかった場合は降格となり、一定数依頼に失敗したり、故意に依頼主に損害を与える行為をするとランク降格やギルドカード没収(冒険者資格剥奪)、度合いによっては最悪投獄される場合がある。


 冒険者が受けられる特典については、ギルドが経営している施設を割安で利用できるのが一般的には利用頻度が多くなるだろう。

 あとはあまり考えたくないけど、死亡した仲間の弔いの費用の割引……とかだ。



 受け付けのお姉さんの丁寧な説明で理解できた。

 ギルドカードを受け取り、僕とサヤは出来たてのEランクのギルドカードを大事にしまった。これで僕らは冒険者だ。期待が膨らむ気持ちを覚えつつも、目的の為にも活動していこうと思う。




 無事に登録できたので、今日のうちにやることを済ませる為にギルドの外に出る。



 外に出るや否や、ウィニが自分のDランクギルドカードをチラつかせながらドヤポーズをして言った。


「おめでとう諸君。冒険者の道は険しい。かくごしろ」

「そうだね。行き倒れないようにしないといけないもんね」

「う、うみゅ〜……」


 痛いところを疲れたウィニは、ふんぞり返っていたポーズが力無く項垂れていった。この前ウィニはDランク、すごいって言ってたけど、そんなに凄くないじゃん……。


 とはいえ、冒険者としての目標は目下、Dランクに昇格することだね。頑張ろう。



「クサビ。この後はどうするの?」

「ああ。この後はね……」


 サヤに次の行先を尋ねられ、僕はそれに応えながら荷物をゴソゴソと、トゥースボアの牙を取り出した。


「これを売りに行こうと思ってるよ」





 というわけで魔物の素材を買い取りしてくれる、ギルド経営施設である買取所にやってきた。

 と言っても、ギルドの隣にあるんだけどね。


 買取所に入ると、こちらはカウンターがあるだけだった。

 ここに素材を見せて査定してもらい、僕らの収入の足しにするわけだ。

 あとは解体もここで受けられるみたい。捕獲か、倒した魔物を持ち込んで、カウンターの奥の部屋で解体してもらえるようだ。ただし費用は掛かるので、自分で解体する冒険者はほとんどで、解体を頼む冒険者はあまりいない。


「すみません、素材の買取をお願いできますか?」


 受付対応してくれるのは獣人族のおじさんだ。狼っぽい耳としっぽ。それと鋭い牙が特徴の種族だ。サヤによると狼牙族というらしい。


「あいよ、いらっしゃい。んじゃ見せてくれるかな」

 目付きは鋭くて怖そうな人かと思ったけど、意外と穏やかなおじさんだった。人を見掛けで判断するのは良くないね。反省。


 僕はトゥースボアの牙をカウンターに乗せた。

 狼牙族のおじさんは驚いた顔をしている。


「こいつは……っ。トゥースボアにしちゃデカいな。お前さん達、こいつとやりあったのか?」


「はい。と言ってもCランクの冒険者さん達を共闘して、でしたけど」

「わたしがたおした。ぶい」


 ウィニのドヤポーズ、ダブルピース付きである。

 ……まあ確かにとどめを刺したのはウィニの魔術だったし、今回はドヤれる戦果だね。


「……ウィニってちゃんと魔術師だったのね」

「さぁやにも今度見せる」


「へぇ、大したもんだな嬢ちゃん! ……よし、査定に5分くらい時間もらうぞ。ちょっと待っててくれ」

「はい、お願いします!」




 そして5分後。

「待たせたな。この牙の状態も良いしなによりこのサイズだ。普通の牙なら相場はこのくらいだが……この額でどうだ?」


 商人の娘のサヤが注意深く金額を確認する。

 普通のトゥースボアなら相場は銅貨5枚だ。

 それに対して今回の買取額は銀貨1枚と銅貨5枚だ。


 だいたい銀貨1枚で銅貨10枚と同価値だから……相場の3倍だ! すごいぞ!

 ちなみに金貨1枚と銀貨10枚は同価値で、僕は見たことないけど白金貨というものもあって、この1枚あたりの価値は金貨10枚相当だそうだ。



 買取額にサヤもにっこりとこっちを見て頷いた。


「ではこれでお願いします」


「よし、取引成立だな! ほら、確認してくれ」


 うん。問題なし。これで少しひもじい思いから脱出できたかな。でも相変わらず余裕はないけどさ。




 買取所を出たところで、ウィニがウキウキしながら言った。

「くさびん! さぁや! このお金でおいしいものたべよう!」


 きっとこれを期待してたんだろうなぁ。

 でも時間もちょうど良い頃合いだし、ウィニの提案に乗ることになった。


「やった。我が世の春がきたー」

 多分すごく嬉しいってことかな。



 僕とサヤは、ウィニが美味しそうな匂いに誘われるがまま、人で賑わう街の中を歩いていったのだった――


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