エンデレーンでの一泊を経て、ボリージャへと先を急ぐ。ウィニは観光したがっていたけど、ボリージャの方がきっと見応えのあるものがいっぱいあるよと、なんとか説得。気持ちはわかるけど、僕らの目的は観光ではないのだ。
僕は、旅立つ前に昨日通った入口の門番さんや検問官さんに、サヤへの伝言をお願いした。覚えていたらでいいのでと言葉を添えて。
そして反対側の、ボリージャ方面の門へとやってきた。
ボリージャ行きの送迎馬車がありウィニが、おー。とはしゃいでいたが、お金が足りないのを伝えるとシュンとしていた。
先日倒したトゥースボアの牙を売れればよかったけれど、エンデレーンには魔物の素材を買い取ってくれるところは無いそうなので断念である。
いよいよここを抜ければボリージャだ。
ボリージャではこの剣についての伝承を調べなければ。衰えた力を復活させる方法を探すんだ。
それから、ボリージャが旅の終着点じゃない。それから先の旅の為にお金を稼がないといけない。
だから僕はそこで冒険者になろうと思っている。
それをウィニに伝えた時、いつものポーズで威張りながら
「先輩にまかせなさい。ふふん」
などと言っていた。この人最初行き倒れてたような気がするんだけどなー。
とりあえずスルーした。
僕らはエンデレーンのボリージャ方面の門を出て再び歩き始めた。
深い木々に道が続いているのは今までと同じなんだけど、ウーズ領に入ってからは違う木になっているようで、色合いがガラッと変わっていて心なしか明るさを感じる。
まるで森が歓迎してくれているようで、ボリージャではどのようなことが起きるのか胸を踊らせているのを内心で感じていた。
いやいや、目的を忘れているわけじゃないんだ。でも見た事のないものに触れるのはやはり心躍るものなんだ。うんうん。
などと一人で言い訳をしてみる。
「おー」
ウィニも景色の変化に関心しているようだ。一見反応が薄そうに見えるがしっぽが左右にふりふりとしてるので、それなりに楽しんでいるみたいだ。
ボリージャまでの道のりは、さすが都市の最寄りの街道なだけありしっかり整備されていて、魔物もある程度駆除しているそうで、安全面は信頼できるとエンデレーンを出る時に教えてもらったんだ。
安全な旅を楽しんでもらいたいという、アルラウネの親和性溢れる気配りが感じられた。
ここでも見えないところで人の優しさで支えられているのだと胸が温かくなった。
とはいえ、完全に油断してはこれから冒険者になる身としては失格だろうと、警戒だけは忘れないようにしながら歩いた。
「くさびん。精霊がそこらへんにいるよ」
「え?」
少し上の方を見上げながらウィニが言った。僕はキョロキョロと辺りを見渡したが、変わらない景色が広がっているだけで精霊らしき姿はない。気配を感知しているだけだから見えないよ。とのことだ。
その時――
「ぅわぁっ」
突然首筋を風が通り抜けた。思わず僕はビクっとして振り向いた。
その様子を見ていたウィニがくすくすと笑っている。
……なんだよう。と不貞腐れる僕。少し恥ずかしかったんだ。
「ふふ。さっきからついてきてる子いる。たぶん風の精霊。風の精霊はいたずら好きが多い」
どうやら風の下位精霊が僕についてきている気配がしていて、いたずらをしてどこかに行ってしまったようだ。
たまにこうやって人にちょっかいを掛けてくる精霊がいるようで、いたずら程度なら悪意はないらしい。精霊は興味のない存在には基本的には無関心なので、僕は気に入られて故のことらしい。
と、貴重な体験をしながら歩みを進め、途中でお昼休憩を取ったあと、ウィニと他愛もない話をしながら歩く。
ふと、ウィニが僕に質問を投げかけた。
「くさびん。冒険者になる?」
「うん。これからの旅にはどうしてもお金が必要だからね。それにもっと強くならないといけないから」
「ん。いいと思う」
続けてウィニが話し続けた。
「くさびんは、魔術も使うけど、魔術師になる?」
「魔術も覚えたいけど、剣士かな」
「ほお。魔剣士とはよくばりさんだな」
魔剣士? 聞き慣れない言葉だ。
「魔剣士ってなに?」
「その名の通り。攻撃魔術と剣術をどっちも使う人のこと。今流行り」
「ふぅん」
なんでも、近接職の総称を剣士といい、遠距離攻撃職や攻撃魔術を使う者の総称を魔術師というらしい。剣士と言っても、武器は剣とは限らず、槍や斧、拳でも、近接職はみんな剣士だ。
魔術師も、弓使いも杖使いでも、遠距離から攻撃するなら魔術師となる。
これは大昔の起源と関係しているらしいけど、今となってはあまり文献が残っておらず、名残として残るのみで実はよく分からないらしい。
昨今ではややこしいという理由で剣術士や、槍術士など、武器名で言い分けるのが一般的に浸透してるそうだ。
冒険者知識としての基本なんだってさ。
それで、魔剣士っていうのは最近流行りだしたらしく、剣士の特性を持ちながら、攻撃魔術を織り交ぜて戦うタイプの戦闘スタイルで、それを目指す人も増えてきてるとか。
だけど、熟達しないとどっちつかずになって、返って中途半端になる為その道は険しい。
「なるほどねぇ……。僕はその時その時に臨機応変に戦えるなら、剣術と魔術を使えれば幅が拡がるかなって思っただけなんだけどね。」
「弟子よ、さいきょうの道は険しいぞ」
「こんな師匠やだよっ!」
そんな冗談を言いながらも、ウィニの魔術は頼りになるので本当は教わりたいけど、それを言ったらきっとまたドヤ顔であのポーズするんだろうなあ。
「……うん。もっとちゃんとした先生に教わろうっと」
「んにゃ!?」
おっとつい心の声が。いけないいけない。
その後、魔物に遭遇すること無く歩みを進めること2日後。眼前に背の高い木が並んで壁を築いた大きな都市が見えてきた。
あれが花の都ボリージャ……。約一週間の旅路の末ようやく辿り着いた。遠くからでも想像していたよりもずっと大きな街だ。故郷の何個分になるのだろう。
一旦の旅の終わりを目前に、歩き疲れていた僕らはもう一息とばかりに喜び勇んで花の都の門への道を進むのだった――
時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜
第3章 『花の都へ』 了
次回 第4章 『花の都ボリージャ』