「いや、君達の加勢が無ければ正直危なかった。礼を言うよ」
そう言って握手を交わしたのは、Cランク冒険者のパーティ『風の旅人』のリーダーで剣術士のアラン・グランセスさん。僕も名乗っておく。
「そっちの子の魔術凄かったわね!」
「ほんとに。助かりました」
ウィニの魔術を褒めているのは槍術士のシャリア・アグロアさん。次いで語りかけて来たのは弓術士のランデル・シグローンさんだ。
彼ら風の旅人の3人は、さっき木の陰で隠れていた3人の旅人をエンデレーンまで護衛する依頼の最中なんだそうだ。
ウィニがこっちに歩いてくる。でもなんだかよろよろしている。
「ウィニ? ふらついてるけど大丈夫?」
「……杖なしだと、やっぱりしんどい……。」
僕はウィニに肩を貸してあげた。
魔術師は杖の触媒を用いる事で魔力の負担を抑えているそうだ。杖を持っていない今のウィニでは、先程の魔術の行使は負担が大きかったのだ。
「その魔術師さんの活躍で勝てたようなもんだ。疲れているなら休んでいてくれ。俺たちはこのトゥースボアを解体してしまうからな。」
「わたしは……」
「ん? ウィニ?」
よろよろとしながらウィニはいつものポーズをしてドヤ顔をして見せた。
「おとーさんの名はソバルトボロス。おかーさんはエッダニア。カルコッタ部族に属す者。父母と故郷の名を冠すわたしの名はウィニエッダ・ソバルト・カルコッタ。……ウィニでいい」
名乗り終わると僕の肩に戻ってくる。無理をしてまで名乗ったのは、どうやらウィニにとって名前を名乗ることはそれ程に重要なことなんだろう。
「そうか。ウィニ。丁寧にありがとう。君は休んでいるといい。クサビ君も彼女を頼むよ」
「わかりました。そうさせてもらいますね」
トゥースボアの解体には、アランさんとシャリアさんが行い、ランデルさんは護衛対象の3人についている。
僕らはその近くでウィニを休ませる事にした。
余程体が怠いのか、横に座る僕にもたれ掛かってくるウィニ。軽いから気にならない。
「ウィニの魔術凄かったね。強くて派手な魔術ばかりだった」
僕にもたれ掛かるウィニはちらりと目線だけ向けて、怠そうにしながらも、ふふんと得意気にしていた。余裕が出来たら杖を買ってあげないとね。
旅人のおじさん達やランデルさんと雑談をしながらアランさん達が解体を終えるのを見守る。冒険者は日頃からこんな感じなんだろうな。魔物の素材も大事な収入源なんだね。
それにしてもウィニがなかなか離れないなあ。重たくないからいいんだけどさ。さっきからベッタリなのがちょっと気になる。本人は疲れているだけだろうけど。
ウィニだって女の子だしさ……。少しは意識してしまうんだよね。でも離れてとも言えないし。
結局何も言い出せず、僕はなんとも言えない時間を過ごした。
やがて、アランさん達がトゥースボアの解体を終えて素材を並べた。ウィニもどうやら復活したようで、ようやく離れてくれた。
アランさんがトゥースボアの大きな牙の一つを僕に手渡す。それに驚く僕にアランさんは笑いながら言った。
「もちろん加勢してくれたお礼もあるし、当然の報酬だよ。他にもほしい素材があればそれも分けような」
「そうよ。命を拾えたのは貴方たちのお陰でもあるんだから、貰ってよ!」
「これだけ大きな牙なら、いい値段で売れるでしょう」
風の旅人の皆が清々しい笑顔でそう言ってくれた。
さっきの戦いでは、僕はあんまり役に立ってないんだけどね……。
トゥースボアの素材については、牙と、ウィニの希望でお肉を半分貰うことにした。
それから僕らと風の旅人の面々と護衛対象のおじさん達は目的地が同じという事もあって、そこからは一緒に旅路を進み、その日の日没頃、ようやくエンデレーン検問所に到着したのであった。