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Ep.30 自称最強の実力

 エンデレーン検問所に向けて半日ほど経った。

 歩いていると、前方に旅人だろうか、3人組の男性が道の先を木の陰に隠れて覗いている。


「なんだろう」

「む……。なんか音する」


 ウィニの耳が僕には聞こえない音を捉えたようだ。

 何か起きてるのは明白みたいだ。


 そうしていると、木の陰に隠れている旅人がこっちに来いというジェスチャーをしていた。

 僕達は道から逸れて木の陰になるように旅人に近づいた。


「こんにちは。何かあったんですか?」


「しーー! ……この先に魔物が居るんだよぉ」

「あんなデカイの初めて見た……」

「護衛の冒険者のパーティが戦ってるんだ。俺らは見つからないように隠れてるのさ」



 この旅人達によると、前方にデカイ魔物が現れて、前を行く護衛で雇った冒険者パーティに襲いかかったという。それで戦いは苦手な彼らは慌てて身を隠して様子を見守っていた、と。


 ただ、どうも苦戦しているようだ。



 僕は様子を伺う。

 大きな猪型の魔物だ。上に沿って湾曲した大きな牙が2つ。あの巨体から突進されたらひとたまりもない。


 そして戦っている冒険者は3人。

 盾を持った剣士の男性と、槍使いの女性、弓を持った男性だ。暴れ回る魔物に少々圧倒されている。


「あれはトゥースボアな筈だ。普通はあんなにデカくないんだが」

「どうしよう、護衛が押されてるよぉ…!」



 確かに、このままじゃ危険だ。

 加勢するか? でも僕の手に負える相手じゃないのは一目瞭然だ。……でも。


 僕はウィニに視線を移す。

 その視線に気づいたウィニは無表情だ。いや、わずかに眉間に皺が寄っている。


 こうしてる間にも犠牲者が出るかもしれない。

 それにここでトゥースボアをなんとかしないと次に襲われるのはこの人達かもしれない。


 僕では敵わない。でも、目の前で人が死ぬのはもう見たくないんだ! 何もしないで後悔したくない!


「ウィニ」

「ん」


 僕の意思が伝わったのか、ウィニの眼差しに戦意が灯る。

 僕とウィニは魔物の方へ駆け出した。



 ああ、近くで見るとさらに巨大だ……!

 僕は走りながら抜剣して覚悟を決める。魔王を前にするのに比べたらこんな恐怖なんて……!


「ウィニ! 魔術はいける!?」

「まかせろ」


 ここまでウィニの魔術を披露する場面が巡ってこなかったのもあり、どこまでできるのかわからないけど、ここまで来たらやるしかない! ……行くぞ!



「加勢しますッ!」


「っ! ……助かる!」



 冒険者パーティと合流する。

 剣士に向き合うトゥースボアの側面に位置取った。


 巨体を活かして体当たりをしてくるトゥースボアを盾を構えて剣士は全身に強化魔術を施して受け止めた。


 動きが止まったトゥースボアに、槍術士の女性がその側面から槍で突く。その間弓術士の矢が胴体に命中するが弾かれた。


 僕も同時に胴体に斬りつける。……外皮が分厚い! まったく効いてないっ!


「グッ……! コイツはやたら堅い! 足を狙うんだ!」

「は、はい!」


 バックステップで距離を取る。仕切り直しだ。


「俺がコイツを引きつける! 動きが止まったら左右からすかさず攻撃してくれ!」

「わかったわ!」

「はいっ!」


「ランデルは目を狙えるか!?」

「やってみるよ!」


 剣士が的確に指示を飛ばしていく。


 トゥースボアが再度襲いかかった! 前足を上げ踏み潰そうとしてくる。剣士はそれをバックステップで躱し、直後首を振ってきて暴れる大きな牙を盾で受け止めた。


「ぐおお! ……今だっ!!」


 僕は弾かれたように駆け出した。

 狙うのは前足。素早く接近し右上に剣を構えて斜めに斬り下ろした!


 ガッという音と共に剣がトゥースボアの足に食い込み、途中で止まった。……くそっ! 僕の技量じゃ切断出来なかった!


 槍術士も足を狙って槍を突き刺している。

 左右の同時攻撃のダメージでトゥースボアは目を血走らせてその場で暴れている!



「――くさびん。離れて。」


 不意に後方から声が届く。トゥースボアの動きを観察していたウィニが魔術を行使するようだ。


 僕は即座にトゥースボアから距離を取る。

 僕の後方ではウィニが両手を前方に翳して魔力を練っていた。



「……大地よ、起きよ……起きよ……」

 ウィニが魔術を具現するためのイメージを開始した。


「……起きないとごはんはわたしが食べる」

 ……独特なイメージ方法だね。さすがウィニさんです。



「……ふんっ」

 敵にかざしていた両手を、何かをひっくり返すような動きで両手が天を仰ぎ、気合いと共に魔術を行使するウィニ。


 トゥースボアの真下の土が隆起して胴体に突き刺さった! 凄い……。ウィニの魔術が効いている!


 ――――ギィエエエエ!!

 トゥースボアは絶叫しながら転倒する。



「チャンスだ!!」


 近接班は全員攻撃態勢に入り仕留めにかかる。

 剣士はトゥースボアの目を、槍術士は腹をそれぞれ攻撃している。

 弓術士も動いた。槍術士の後方に移動して横たわって暴れるトゥースボアの腹を、魔力を帯びて威力を増した一矢が射抜いた。


 僕は全体重を乗せて、倒れたトゥースボアの背中に剣を突き立てた! そして急いで引き抜く。……返り血が思いっきりかかってしまった。


「ウィニー!」

 構わず僕は叫ぶ。とどめを刺してくれと意思を乗せて。

 ウィニは既に魔力を練り始めていた。自信に満ちた表情で小さな口が微かに笑ったように見えた。


「……踊れ、踊れ。炎よ踊れ」

 ウィニは手をくるくると回しながらイメージを開始する。


「みんな離れて」

「「「――ッ!!」」」


 ウィニの警告に、大きな威力の魔術が来ると察した僕達は一斉に距離を取った。トゥースボアは至る所から血を流して瀕死だが、まだ動ける力が残っているようだ。手負いの獣が最も危険だ。ここで仕留めて置かなければ!


「……よいしょー」

 ウィニは上げていた両手をトゥースボアに向かって振り下ろすような動作をした。



 気の抜ける掛け声とは裏腹に、トゥースボアがいる位置に炎が渦を巻いて竜巻となり、その中を焼き尽くした!


「……すごい」

「ぶい」


 僕が初めて見た派手な魔術に見とれていたら、ウィニはいつものポーズにダブルピースつきでドヤ顔していた。


 ウィニってホントにすごい魔術師なのかもしれない。今まで疑ってごめんね。



 少し頼もしい気持ちをウィニに抱きながら、僕らは冒険者の3人と勝利を喜び合うのだった。

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