夜が明けた。
昨夜のあの一件のあと、ウィニが周囲が明るくなるまで見張りをしてくれたので今は眠っている。気を遣って真っ暗な時間はわたしが見張りやる。と言ってくれたのだ。なので今頃に見張りを交代したというわけだ。出発が少し遅くなるけど、それは僕が原因だから申し訳なく思う。
僕は日課の素振りをしながら周囲に気を配る。素振りに集中できるわけではないため質は落ちるがやらないよりはマシなはずだ。
夜暗闇に恐怖を覚えるのも全て僕が弱いせいだ。心の方もこのままじゃいけないんだ。ウィニにも迷惑は掛けられないし、僕自身がもう恐怖に負けたくないんだ。
今日の素振りを終えて、手持ち無沙汰になってしまった。もちろん見張りはしながらだけど。
やる事がないとつい物思いにふけってしまう。
……サヤは無事だろうか。
最後に会ったのは村が襲撃を受ける前日だった。あの時の別れ際の笑顔が今はとても眩しい。
今はどこで何をしてるかな。危ない目に合っていないと願う事しかできない。
サヤも突然故郷が無くなって深い悲しみを抱えているはずだ。
それに、僕は村を守るために何も出来なかった。ただ守られるだけで……。僕を守る為に踏みとどまった人達が屠られるのを見ている事しか出来なかった……!
そんな僕は、どんな顔でサヤに顔向けできるというのだろうか。どうして守ってくれなかったと僕を責めるだろうか。
「――ウジウジしてんじゃないわよ! バカクサビ!」
「え……」
「アンタがそんな調子じゃ、おじさんもおばさんも安心できないでしょ? ほらしっかりしなさいよ!」
はっとして顔を上げる。
幻聴か……。見渡してもその声の主は見当たらない。見張り中だというのに、サヤの声が聞こえるほど思考の海に潜り込んでいたのか。僕の悪い癖だな。
……そうだった。あのサヤだ。人を責めるより前を向く。そんな子だった。
ウジウジしてたらまたドヤされるな。……よし! 頑張ろう。僕にはそれしか出来ないからね。
気がつけば明るくなってからそれなりの時間が経っていた。そろそろウィニを起こそう。普通に起こそうとしても起きないから、朝食を作れば確実に起きるだろう。
……昨日は迷惑かけたし、ちょっと量を多めにしてあげよう。
「うみゅ。……ごはん」
朝食ができる頃、匂いに反応したウィニがむくりと起きてきた。思った通りだね。
「おはよう、ウィニ」
「おはよ。……くさびん、ごはんそれっぽっちなの?」
朝食を口に運びながらウィニが僕の朝食の量を気にする。
「うん。ウィニのを多めにしたんだ……昨日のお礼だよ。ありがとうね」
お礼を言うのが気恥ずかしくて顔を逸らしながら言うと、ウィニは、『おぉ、善行が返ってきた。やった』と言って喜んでいる。
もぐもぐとさせながらウィニは目線だけ僕に向けた。
「……もう。平気?」
「うん……。お蔭さまでね」
ウィニなりに心配していたようだ。なんだかんだ言ってちょっと仲間っぽくなってきたのかな。この縁は大事にしたいな。
「そう。良かった」
「……うん」
「じゃ、おかわり」
「いけません」
「む……!」
……やっぱり食い意地じゃない? これ。
その後、荷物を片付けてまた旅を続ける。
エンデレーン検問所には今日のうちに着けると思う。
鬱蒼と生い茂る木々の濃さが、アルラウネ達のウーズ領に近づいている事を感じさせるのだった。