ヘッケルの村でクサビの行方を知った私は、彼の目的地であるボリージャへと、すでに2日の道のりを進んできた。
彼とは違うルートで進んでいるから、このままいけば彼よりも早く到着できるはず
なんだけど――――
「……っ」
鬱蒼とした森を駆け抜けていた私の前に狼の魔物が5体現れた。下級の魔物のフォレストウルフね。
複数なのは厄介だ。馬を狙われたらマズイと、私は馬を降りて応戦することに決めた。
フォレストウルフ。
森の深くに縄張りを持つ狼が魔物化した存在で、基本複数で行動する。森を複数で移動して狩りをしていた習性を魔物に成り果てても尚変わらず続けている。
注意すべきは鋭い牙と爪。それから絶対に手負いで逃がさない事ね。手負いで生き残ると強くなってしまうから。
――グルルルル!
フォレストウルフは私を取り囲んで、唸りながら飛びかかるタイミングを伺っている。
私は抜刀して構えて集中し、周囲の変化を逃すまいと神経を研ぎ澄ませる。
――来た!
右後方から一体来る。
私は素早く動いたフォレストウルフに向き地を蹴る。
右にいる一体が動いた。
私は足に魔力を練り込みながら姿勢を這う寸前くらいに低くし、練りこんだ魔力を解放し、目の前に飛び込んで迫る一体の下に潜り込んで、すれ違いざまに体を回転させながら斬りつけた!
フォレストウルフの胴体が半分になり動かなくなる。
飛び込んだ勢いを前方に転がって勢いを抑え、足を軸にもう片方の足で地を抉って勢いを止めながら向きを変え、そこに襲いかかってきたフォレストウルフの牙を刀で受け止めた。
中級剣術の使い手ともなると、剣技の途中にあらゆる体の部位に強化魔術を使用して、本来ならありえない挙動や力を発揮することができる。というより近接戦闘を主とする剣士は強化魔術を行使出来て初めてその道を歩めると言っても過言ではない。
刀で受けている間に残りの3体が迫ってきている!
私は刀で目の前のフォレストウルフを右に逸らし、素早く頭を狙って刀を振り下ろす。
そのフォレストウルフは頭と胴体が離れて絶命した。
残り3体――
「――ホオズキ流剣術……」
私は姿勢はやや低く、両手で握った刀の切っ先を前に向け、柄は顔の横に固定して構える。
同時に魔力を練り込む……
ヒビキさん直伝のホオズキ流剣術。通用するのか試してやるわ!
「――桜散華!」
最も近いフォレストウルフに狙いを定め、魔力を解放し瞬発的に加速する。同時に同じ左足に魔力の練り込みを開始する。
加速するがままの勢いで一体突き刺す。素早く引き抜き右足に貯めていた魔力を解放して急な方向転換。
ここで左足の魔力を解放し次のフォレストウルフの上を通過するように、ほぼ直進の跳躍。腕に練っていた魔力を解放し体を捻って回転しながらフォレストウルフを斬り裂いた。
そしてその跳躍は最後のフォレストウルフの目の前で止まり、納刀し居合の構えで着地する。着地の反動に耐える為に両足に貯めた魔力で強化させつつ刃を抜き放った!
「ふぅっ……うん。もういないわね」
足に残る倦怠感。やっぱり連続で強化魔術を使うのは疲労が激しい。今回は実戦でどれだけ通用するか知るためにこんな大技使ったけど、多用は禁物ね。身体が保たないもの。
私は一息つき馬の様子を確認する。うん。問題はなさそうね。小さな頃から一緒のこの子に何かあってはいけない。
目的地まではあと2日程の道。魔物との遭遇はまだあるかもしれない。気を抜かずに進んでいこう。