「うわぁ、ここがシニスタ宿場町!」
村しか見た事がない僕は、立ち並ぶ宿や店などの建物の多さに圧倒された。多くの人で賑わっていて、まるで別世界にやってきたようだった。
僕とウィニは無事にシニスタ宿場町に到着した。これでボリージャまでの道のりは残すところあと4日の距離。やっと半分というところではあるが、真新しい世界に僕の心は自然とワクワクしてしまった。
おっと、いけない。僕は観光に来たわけじゃないんだ。
目的を忘れちゃいけない。
「くさびん。宿探そ」
「そうだね、と言ってもいっぱいあって、何処がいいとかわからないなぁ。お金も少ないし、安いところになるかな」
「3食昼寝付きならさいこー」
「いけません」
ウィニの戯言を軽くあしらいつつ手頃な値段の宿を探す。さすが宿場町というだけあって、いろんな宿が立ち並ぶ。すごく大きくて豪華な建物もある。いったいどんな人が泊まりに来るんだろう?
とりあえず一通り宿の入口に掲示してある値段の表示看板を見て吟味する。シニスタ宿場町に滞在するのは今日だけで、一泊したら明日には次の目的地へ出発だ。
もうすぐ夕方だから……えーと。
頭の中であれこれ考えていると、ウィニが僕の服を引っ張る。
「くさびん。ぼったくりに引っかかるのだめ」
「分かってるよ。今考えてるところだよ」
「ぼったくられたらお金なくなる。借金のカタにわたしの貞操の危機」
ウィニは、自分で自分を抱きながら体をくねらせて、無表情で『いやん』とか言ってる。本気なのか冗談なのかわからないけど、とりあえず放っておこう。グズグズしてると夜になってしまうからね。
しかし、二部屋分は出費的に痛いなぁ…。相部屋ならまだ少し節約できそうだけど……。
「ウィニ、節約していきたいから、相部屋でもいい?」
「! ……くさびんも男の子だな。わたしの貞操の危機がこんなところにも」
「そういうやつじゃないよっ!」
思わず顔が赤くなってしまった。
ウィニはなんだかニヤニヤとずいぶん楽しそう。
その後、吟味の末に暗くなる前に宿を見つけることができた。手頃な値段で食事付き。ちなみに相部屋だ。
さて、早いとこ食糧の買い足しをしないといけない。ここには旅人も多くくるので、補給用にお得に買えるお店があると、ヘッケルの村のカインズさんが言ってたんだ。
ウィニは部屋に着くなり自分の寝床を確保してベッドでゴロゴロしている。
僕はそんなウィニに一声掛けて買い出しへ出かけた。
泣け無しのお金もさらに寂しくなってきたが、補給はできた。あとは宿場町の入口に近いお店に、サヤへの伝言を頼んだりしていたら、すっかり辺りは夜になっていた。
「うわぁ〜……!」
頭上の明るさが気になって見上げると、初めての光景が目に飛び込んできた。
夜だと言うのになんて明るいんだろう。道なりに左右に分かれて立ち並ぶお店の灯りが均等にずらっと並んでいて夜の町を照らしている。
観光目的じゃないけれど、感動できることを拒む必要も無いよね。目的さえ忘れなければ。
その後宿に戻ると、ウィニは宿が提供してくれた夕食を頬張っていた。あれ、僕の分は?
そう言うと、ウィニは一瞬ヤバイって顔をしたあと、無言で自分が手をつけている食べかけの料理の器から、小さい器に料理を取り分けるのだった。食いしん坊な猫耳娘は目を逸らしながらおずおずと僕の方へ器をズラした。
ジト目でウィニを見ていると
「……くさびんの分、味見しただけ……だよ」
「……ああこれ僕の分なんだね、ありがとう。ほんとに」
ねぇ、ウィニ? こっち見て。