次の行先は決まった。ここからさらに南西の方にある、ボリージャの街を目指す。
一週間ほどの道のりとなる為、いくつかの集落を経由しながらの旅となる。
翌日、僕とカタロさんは村長であるカインズの家に行き、ボリージャまでの旅の予定を伝えた。
「遠い道のりになるからな……。ボリージャと経由する集落はこの地図に記しておくか。食糧と資金も少ないが持っていくといい」
と、カインズさんは当然のように言う。
僕はカインズさんの破格の計らいに驚いた。突然やってきた無一文の人間にここまで良くしてくれるとは思ってもみなかったからだ。
「そこまでしてもらうなんて…もう既に十分すぎるくらい助けて貰ってるのに……!」
恐縮する僕にカインズさんとカタロさんは豪快に笑い出した。
「ははは! 言ったろう? 村長なら用立ててくれるってよ!」
「ああ。気にする事はない。事情を聞かせてもらった結果だからな。ここで何もしなかったら村長の名折れというものさ。」
「……あ、ありがとうございます! このご恩は忘れません!」
この村の人達は本当に温かい人達なんだなあ。
故郷を滅ぼされ孤独と不安で潰れてしまいそうだった時にカタロさん達に出会えて良かったと本当に思う。
大切な人達を失った。悲しみは深いし、魔王への憎悪の炎も心の奥深くで燃え続けている。
その気持ちはこれからも消える事はないだろう。けれど人の温かさに触れる事で、僕は前を向けるし、強くなれる気がするんだ。人としての心を忘れずにいられるんだ。
どんなに悲しみ絶望しても、どんなに何かを恨んでも、僕も困っている人がいたら助けられる。そんな人間になりたいと思う。
「あの……厚かましいのを承知で、もう一つお願いしてもいいですか?」
僕は恐縮したまま、旅の目的と同じくらい大事な事をお願いしてみようと思った。
カインズさんは、出来ることなら力になるぞ、と言ってくれた。
「実は、僕の故郷が滅ぼされる前に、ヤマトの街に仕事で出ていて難を逃れた幼馴染がいるんです」
「つまりアズマの村の生き残りってことか!」
「はい。きっと無事だと思うんです! その幼馴染はサヤ・イナリといいます。サヤの事なのできっと村の生き残りを探して回るんじゃないかと思っていて……。もしサヤがここに訪ねて来た時に、僕のことを伝えて貰えたらと……。お願いできませんか?」
話を聞いていたカインズは、僕の肩をぽんと置いて快く頷いた。
「そのくらいのこと、お安い御用というものだな。任せておくといい!」
「ありがとうございます! 本当に助かりますっ」
その後僕はカインズさんとカタロさんにサヤの特徴を伝えた。もしサヤがこの村に訪れる事があれば、僕が生きている事くらいは確信してくれるはず。
「君の旅の物資は明日には用意しておくよ。明日からまた旅が始まるんだ、今日はゆっくりしておきなさい」
「本当にありがとうございますカインズさん、カタロさん。そうさせてもらいますね」
カインズさんの家を後にすると、カタロさんは村の色んなところを見せてくれた。その際に村の人ともいろんな話をして英気を養うことができて、明日の旅への決意を新たにする。
夜はまたカタロさんの家でマルタさんの美味しい夕食をご馳走になる。マルタさんは明日の旅立ちに、お弁当作ってあげるからね。と張り切っていた。ありがたいなあ……。
明日はお昼になる前に旅立つ。ここで受けた恩への感謝を抱きながら眠りにつくのだった――
時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜
第2章 『手掛かりを求めて』 了
次回 第3章『花の都へ』