村長のカインズさんと話した日の夜、僕はカタロさんとマルタさんと向かい合って話をしていた。これからの事を考えないといけない。
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「この剣の伝承の手掛かりを探したいと思ってます。もっとこの剣の事を知らないと……」
「と、なると人の多い場所に行くのが普通だろうな。大きな街を目指したらどうだ?」
情報を集めるには人口の多い街に行くのが最も効率的だろう。僕はヘッケルの村から行ける、花の都ボリージャという街への道のりを教えてもらった。
花の都ボリージャ。
ここヘッケルの村から南西に位置し、背の高い木々が聳え立つ森の中に作られ緑に囲まれた街。東方部族連合に所属しており、美しい花々がそこかしこに彩られ、そこに住む人々は立派な樹木をくり抜いて中に居住空間を作り、自然をうまく活かして暮らしているそうだ。
世界的にも『花の都』と呼ばれているらしい。
その街を取り纏めるのは、植物の体を持ち、女性の見た目をした種族『アルラウネ』のウーズ部族だ。
街の人間は、アルラウネが割合として多いが普通に人間や獣人など、他種族の人間も共存していて、街並みもかなり独特なため観光名所としても有名なんだとか。
アルラウネは、この世界においてもあまり数は多くない種族で、ほとんどが森林地帯の多い場所を好む。植物の体を持つが、その度合いは個人差があり、中には人とさほど変わらない者もいれば、植物に擬態できるほど植物化している者もいる。
カタロさん曰く、アルラウネは一人一人違う花の香りがほのかにするらしい。女性型しかおらず例外なく美形。
ボリージャには夜にしか営業していないお店が……というところでマルタさんにスネを蹴られて悶絶してしまった。
酒場だろうか。言葉の続きが気になっていると、クサビくんは知らなくていいのよと笑顔で言われたが、なぜか背筋に悪寒がしたので素直に従っておこう……。
ボリージャの街へは一週間の道のりで、今までに比べれば長旅になる。
ヘッケルから3つの集落を経由して向かうのが、魔物も少なく、比較的安全だそうだ。
とはいえ一人きりの旅だ。僕もこのままじゃいつか切り抜けなくなる時がくるかもしれない。そうなってからじゃ遅い。
戦う力を身に付けなければならないと強く思う。
この気持ちを故郷に居る時にヒビキさんのもとで抱いていたら……。僕の怠惰な過去を恨みたくなった。
そんな僕にカタロさんは、村長なら旅支度を用立ててくれるだろうと不安を軽くしてくれた。これまで散々甘えた身で情けなく思ったが、先に進む為ここは深く感謝しつつ甘えさせてもらうことにした。この恩はいつか必ず返しにこよう。