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Ep.10 Side.S 凶報

 荷台を引いた愛馬に乗って、約二日の道程を経てようやくたどり着いた。

 東方部族連合の都市の中でもトップクラスに発展したヤマトの街だ。

 アズマの村から、商人である父に仕事を任されてここまでやってきたのだ。


 ヤマトの街の入口が近くなってくると、街の入口を守る門番が手を上げて馬を止めるように指示をした。私は一人での初仕事に意気軒昂と挨拶をする。


「アズマから来ました。サヤ・イナリです!」


「やあ、サヤちゃん。今日はエマキさんはいないのかい?」


 気さくに話しかけてくれるこの門番さんは顔馴染み。

 よくお父さんと一緒にヤマトに来るからね!


「うふふ! そうなの! 今日は私が任されたから、お父さんはアズマでお留守番!」


「へぇ。サヤちゃんも立派な商人だな。エマキさんも安泰だな! ……よし、荷台の確認が終わったよ。ようこそ!」


「おじさん、ありがと!」



 私は門をくぐり街の中に入る。

 ホオズキ部族の本拠であるヤマトの街並みは、外国からしたら独特の建築様式だと思う。東方部族連合の中でもこの辺りにしかない文化ね。


 さあ、明るいうちに商売商売!

 いつも商売をしている場所に商品を広げ、明朗快活に売り込んでいく。商品は主にアズマの村で取れた新鮮な野菜や果物を中心に、安く仕入れた鉱石などを少し取り扱っている。


「アズマの村で採れたあま〜い果実はいかが〜? 食べ頃を選んで仕入れた農家お墨付きだよー! いかがー?」



 私の初めての仕事は上場だった。満面の笑みで売り込むと、街ゆく人達が足を止めてくれる。顔馴染みのお客さんも多いから、不安なんて一切感じなかったわ。




 予想以上に売れて荷台は随分軽くなった。この調子ならお父さんにいい報告が出来そうね!

 初めての一人仕事の成果に満足の私を、綺麗な夕焼けが街並みをオレンジに照らす。

 今日はここまでで店じまいにして宿へ向かうことにした。




 しかし、宿に向かう途中で、血相変えて走る男の人がこっちに近づいてくる。なんだろう、何かあったのかしら。

 私と目が合ったその男の人が息を切らせながら言う。


「――荷台を引いた馬と赤毛の女の子……! あ、あんたアズマの子か!?」


「……? ……はい。そうですが…………」


 突然の事であっけに取られていると、男の人はさらに言葉を続けた。それはあまりに恐ろしい内容だった……。



「アズマが! 魔物の大軍に襲われてるって!!」


「…………え――」

 男の人の言葉が周囲にも聞こえたのだろう。街がザワついている。


「今アズマに戻るのは危ねぇ! あんたはしばらくここにいた方がいいぞ!」



 一瞬、この人が何を言っているのか理解できなかった。

 アズマの村が……? 魔物に……!


「――帰らないと」


「何を言ってるんだ! 話を聞いてなかったのかい!?」


「帰らないと……!!」


「今ここから兵を派遣するって話になってるそうだぞ! その後からでも――」

「――それじゃ遅すぎるんですッ!!」


 私は馬から荷台を外し、馬に飛び乗ると加速させて街を出ていく。


「おーい! ……行くな!! ……くそっ!」


 後ろから制止の声が聞こえたけど、構っていられない。

 魔物の襲撃が本当なら、アズマの村からヤマトの街までおよそ二日。つまりこの情報は既に二日前の情報ということ……。


 私は血の気が引いていくのを感じていた。時間が経ち過ぎている。


 村の皆は無事なのか……。お父さんは…………?



 ――クサビ…………!!


 嫌な想像ばかりが浮かんできてしまう。大切な人達の顔が浮かんでは消えていく。


 男手一つで私を育ててくれたお父さん。そしていつまで経っても私の気持ちに気づかない幼馴染のクサビ。


 同じくらい大切な二人が今どうなっているのか。いても立っても居られなくなり気持ちだけが逸る。



 急いでアズマの村へ戻るため、街の門をくぐる。その時顔馴染みの門番のおじさんが慌てて引き留めようとして、阻まれた私は馬を止めざるを得なかった。


「サヤちゃんだめだ! 今の村は危ないんだぞ!」

「止めないでおじさん……っ! それでも行かないといけないの!」

「わかっているだろう!? 今この知らせが来たってことは、村ではもう二日は経過してるってことを!」

「――――……っ!」


 わかっている。頭ではわかっている。きっと村ではなにもかも終わっているのだろうということは。……それでも!


「……サヤちゃんの気持ちもわかる。その……気の毒だと思うよ。今現状を調査するための隊を編成しているところなんだ。彼らの護衛と一緒に戻るのが最善なんだよ……」


 おじさんの言うことがきっと正しいんだと思う。

 それでも……。


「――――ごめんなさい。おじさん」

「わかってくれたなら良いんだ。さあ、今は宿に――――」

「それでも、私はいきます」


 不意を突いて私は馬を全力で走らせる。後ろでおじさんの声がしたけど、振り返りはしない。

 この気持ちは理屈じゃない。この目で確かめないうちに諦めるのは嫌。きっと大丈夫よ。こんなことで終わったりなんかしない。絶対に大丈夫よ……っ!




 お願い、できるだけ急いで――

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