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Ep.9 闇は傍らに

 川沿いを西へ進むこと一日。その間なんとか飢えをしのぎながら旅を続けていた。


 食糧に関してはというと、魚を取って焼いて食べる事で事なきを得ている。

 道具がなかったと思っていたんだけど、環境を利用しての魔術なら、僕にも火以外の魔術が使えるかもしれないと気付いて、試して見たのだ。


 実力を上げるためにも、魔術に関しておさらいしておこう。


 魔術の発動には、自分の魔力で発動するやり方。これは無から属性を生み出すので負担も難易度も高い。


 他には、環境を利用して発動するやり方。例えばそこの川の水を利用して水魔術を行使する場合、水自体はもともとあるものを使用する為、無から生み出すよりも負担は軽く、難易度も下がる。嵐の中で風魔術や水魔術が使いやすいし、風と水の混合属性の雷を呼び出す事もできるかもしれない。


 最後に、精霊の力を借りて発動する方法がある。精霊は下位の精霊は目に見えないらしいけど、中位精霊以上は目視できるそうだ。その精霊が魔術の使い手を気に入ると力を貸してくれるんだそうな。


 そうそう、混合属性というのが僕にはまだ難しくて実践はできないけれど、知識は蓄えておくに越したことはない。


 たしか、魔術の属性は、基本属性に火、水、風、地、光、闇の6種類あって、そこに混合属性……有名なものだと水と風の混合で雷とか、火と光で爆発なんていうのもあるらしい。それからさらに、派生属性というものもある。これは基本属性から特徴を受け継ぎながら、別の特性を持った属性……だったか。水の派生だと氷とか、霧とか。属性の種類は数え切れないほどあって、今こうしてる間にもまた新しい属性が生まれているかもしれないのだ――――



 ……と、おさらいはこのくらいでいいかな。もっと色々使えるようにならなければ。

 ひとまず、水を利用して発動させた魔術が上手くいって、魚を得ることができたのは成果といっていいだろう。



 休憩を取りながら歩き続けていると、空が赤く染め上げていく。そろそろ夜を凌げる場所を探そう……。



 そして夜。当たりはすっかり真っ暗で、僕は出頃な場所を見つけて火を起こし、揺れる炎をぼうっと眺めていた。


 寝かせた剣を傍らに、自分の膝を抱き蹲る。



 夜になるとあの惨状が蘇る。一夜にして起きた恐ろしい光景が脳裏を駆け巡っては僕の心をズタズタに切り裂いていく。


 どうしようもない不安や恐怖。夜になると決まって、悶える程の寂しさが襲いかかる。少しでも寂しさが紛れるようにと、体をよじりながらひたすらに耐える。


 外が明るいうちは、僕も無理矢理明るく振舞って自分を騙してきた。さっきの魔術のおさらいもそうさ。一人きりで黙っていたら不安と孤独で押しつぶされそうだったから……。


 きっと毎夜この苦しみを背負っていくんだろう。僕の心の奥深くに刻み込まれた、いつ癒えるとも知れない傷だ。



 そうして僕は、今夜も孤独に悶えながら、泣き疲れて眠りに落ちていくのだった――――

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