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第四十二話 途上

 アリオンとアーサーはテーブルに地図を広げ、今いる場所を再確認していた。今自分達がいる所は、どうやらパンロンという土地らしい。


 (ここは、あの時果たして通っただろうか? ) 


 アリオンは記憶を探った。 

 ランデヴェネスト牢獄を脱出して、カンペルロ王国を出たあの時は、ただ逃げ出すことしか頭になかった。右も左も分からず何日もの間森を彷徨い続け、動けなくなるまで歩き続けてたどり着いたのが、ラルタ森──コルアイヌとサビナの間にある──の入り口付近だった。その森は、丁度カンペルロの国境近くにも繋がっていた。ひょっとすると、気付いていないだけで、パンロンはその近くにあったのかもしれない。


 (何にせよ、あの頃の僕は外の情報とは無縁の状態だった。外の人間から話しを聞くのが一番に変わりないな)


 アリオンは丁度通りかかった女性店員の一人に声をかけた。


「お忙しいところすみません。少しお時間宜しいですか?」

「はい。何でしょうか?」

「仕事の都合で僕達今からカンペルロに立ち寄るのですが、色々教えてくれませんか? あなたが知っている限りで構わないのですが」


 その店員は目を丸くして口元を手で押さえている。何かありそうだ。 


「お客さん。これからカンペルロに向かわれるのですか?」

「ええ。そうです」

「今のあの国は正直あまりおすすめ出来ませんが、お仕事では仕方ないですね。どうぞお気を付け下さいまし」


 店員の微妙な反応に、アーサーは片眉だけ引き上げ、訝しげな表情をした。やはり、モナン町で聞いたことと大きな違いはなさそうだ。確か何人か亡命してモナン町へ逃げ込んでいるカンペルロ人もいるとか、そんな話しだった気がする。 


「今情勢が不安定だと他の地でも聞いていますが、そんなに悪いのですか?」

「ええ、あまり大声では言えませんから……」


 店員は少し身をかがめてアリオンとアーサーに耳打ちするかのように小声で話した。

 それを耳にした二人は、表情一つ変えずに全て聞いていた。小声だったので、残念ながらレイアとセレナまでは聞こえていない。


「アーサー。アリオン。私達、後で聞くから教えてね」

「ああ。分かった」 


 店員からの話しを聞きつつ、アリオンは再び色々と思い出していた。


 アルモリカで突然拘束され、無理矢理カンペルロ連れて行かれた時は目隠しをされていた為、国の入り口たるランデヴェネスト城門付近の状況は彼の記憶にほぼない。カンペルロを脱出した際は真夜中だった為、暗くて良く分からなかったのだ。


 (一度はカンペルロ王国内にいたわりには、使える情報がほぼないか……仕方ない)


 ランデヴェネスト牢獄内に幽閉されていた時は身も心も限界まで追い詰められ、外の様子をうかがい知ることさえ出来る状態ではなかった。


 だが、今は状況が違う。

 今いるところに己を脅かすものはないし、一人ではない。話し合える仲間だっている。


 (何とかしてこの腕輪を外し、国を取り戻してみせる。 目に映る守らねばならぬ者達を見殺しにせねばならぬ状況は、もうたくさんだ)


 僕は絶対に諦めない。

 一度は屈したが、二度と屈しはしない。

 これから先どんなことがあろうとも、

 例え途中で倒れても、 

 何度でも立ち上がってみせる。

 守りたい者を、この手で守るため。

 守らねばならぬ者達を、この手で救い、守るために──


 大粒の涙をこぼしていたヘーゼル色の瞳の少女の姿が脳裏にゆらりと浮かんだ。


 (彼女にこれ以上涙を流させたくない……)


 アリオンは心に強く誓った。

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