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第二十七話 燃やされた国旗

 アルモリカ王国の首都、ガリアにそびえ立つリアヌ城。


 白い石造の壁、青い屋根を持ち、

 ゴシックやルネサンスの要素を含んだ、ロマネスク様式の建物である。周りはほぼ海に囲まれているという、まさに海の王国らしい造りだ。

 天気が良く、風が少なければ水面に綺麗に逆さの城が見えるらしい。今日は風が吹いているため、さざ波が邪魔して不明瞭だ。 


 レイア達は岩陰に隠れながらその城を見上げていた。  


「このお城がリアヌ城?」

「ああ、ここがそうだ。私が生まれ育った場所だ」

「どうやって入り込もうか? 見張りの兵達がいなさそうな場所は……」

「私について来てくれ。あの場所は多分そう簡単に見つからないはずだから」 

「? ……ああ、分かった」


 レイア達は隠れながらアリオンの後ろについていった。四人とも、アルモリカ王国に入るまでにあらかじめ手に入れておいた、黒い外套に着替えている。

 カンペルロ王国の者達は黒い衣服を着ているので、せめて外套だけでもと黒にしたのだ。勿論、フードを目深に被っている。


 突然、先頭を歩いていたアリオンが歩みを止めた。

 後を歩いていた三人は互いにぶつかりそうになる。


「アリオン?」


 彼らが王子の視線の先を追ってみると、城に掲げられている一棹の旗が見えた。

 それは風にあおられて、バサリバサリと音を立てている。

 黒を基調とし、紫が差し色として縁取られた国旗だ。

 それには、炎のような紋が描かれていた。

 それは、紛れもなくカンペルロ王国の国旗だった。

 その旗が、己の生まれ育った城に堂々と掲げられている。


 よく見ると、その下にあたる地面に、何か黒ずんだものが捨て置かれていた。

 竿は無惨にもへし折られ、全体のほとんどが焼き焦げて真っ黒になっているが、一部焼き残っている部分もあった。

 それは、青緑色の布だった。

 波の模様の一部がかろうじて見える。

 何かで切られた跡があちこちあり、ぼろぼろの状態である。

 これは紛れもなくアルモリカ王国の国旗だ。 

 降ろされた後で、どうやら火にくべられたようである。

 まるで火葬された後。 

 あまりの酷さに、一同言葉がすぐには出てこなかった。


「……見せしめだな。これは……」


 レイアはごくりとつばを飲み込んだ。

 外した旗をずたずたにして、わざと見えるところに置いているのは、己の力を誇示するためなのだろう。


 勝者と敗者。

 勝者には光り輝く未来。

 敗者には闇に沈む未来。

 とでも言いたいのだろうか。 


「酷いだろうが、これがこの国の現実だ。このままでは覆すことさえ、危ういな」 


 アーサーの感想に対し、アリオンは表情一つ変えず、無言のままである。

 微動だにせず、たたずんでいた。

 アリオンの右袖をひく者がいる。

 その方向に視線をやってみると、空色の瞳が見上げてきた。心配そうな表情をしている。


「アリオン……大丈夫?」

「……私は大丈夫だ。すまない。そろそろ行こうか。あの茂みの中に隠し通路の入口がある」 


 アリオンが指差すところに大きな茂みがあり、葉をよけてみると蓋のような扉が現れた。

 人一人は通れる大きさだ。

 アーサーが手をかけてみたが、びくともしない。

 アリオンがそれに手をかざし、何か呪文をぶつぶつと唱えると、それは簡単に開いた。

 彼が言うには、その扉は王族にしか開けられないしかけになっているらしい。


 下に降りるためのはしごはあるが、途中からぱっくりと口を開いた闇の中へ溶け込んでいる。

 暗くて見えない。

 セレナがごくりとつばを飲み込んだ。


「さあ、兵に見つかる前に、みんな急いで中に入ってくれ。はしごの下まで降りても大丈夫だから」 


 王子の声を聞いたレイア達は、一人ずつその中へと入り込んだ。

 最後にアリオンが入り、呪文を唱えると扉は静かに閉まって元通りとなった。


 ⚔ ⚔ ⚔


 扉を閉める前に、アリオンは呪文を唱えた。

 すると、手のひらサイズの青緑色をした、見た目しゃぼん玉のようなものが四つ出現した。

 それは王子の身体の周りをよふよと浮きつつ、柔らかい光を放っている。

 そして、それは次第に下へと降りてゆき、はしごを降り終えたアーサー達の周りをそれぞれ漂い始めた。

 真っ暗闇の中をふわふわと漂う青緑色の灯りが、何とも幻想的だ。


「何これ? アリオンひょっとして灯りを出してくれたの?」

「ああ。術で出した。ランタンのようなものだ。これなら水があってもろうそくと違って消える心配はないし、そう簡単には壊れない」

「ありがとう。へぇ~凄い! これは便利だな。 ねぇ、これひょっとして触れる?」

「触っても特に問題はないが、何の感触もないと思う。あまり期待しない方が良いかもしれない」


 レイアはそれを試しに人差し指でつんつんとつついてみたが、何の手応えもなく指はすかすかと通り抜けた。

 それでも、彼女は面白そうに目を輝かせている。

 きっと、その灯りの反応よりも、珍しさの方が上回っていたからだろう。


「でもこれがあるということは、あんたが〝力〟を使いっぱなしということだよね……大丈夫か?」

「大丈夫だよ。使う力はごく微量だし、ここは私達人魚族の土地だから、〝力〟を補填出来る場所があちこちにある。レイア。気にかけてくれて、ありがとう」


 アリオンは心配無用とばかりに微笑んだ。


「そのまま進もう。みんな、私の後についてきてくれ」


 レイア達はアリオンと灯りに導かれながら地下道を歩いて行った。 

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