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第二十四話 ある王女の記憶

 あるはれたひ。

 ぽかぽかとあたたかいひのことだった。


 おとうさまがおしごとで、うみのきれいなくにへでかけられるときいたから、わたしはついおねだりしちゃったの。


「わたしもつれていってください。おとうさま。うみというものを、みてみたいの」


 だって、うみってみたことがないんだもの。

 よんでもらっているえほんのなかでしかしらないわ。

 おおきくて、ひろいって、どんなかんじなの?

 なみってなぁに?

 かもめってなぁに?

 うみってどんなもの?


 すると、おとうさまはゆるしてくださったの。


「とものものといっしょならいいよ」


 ですって。

 とってもうれしかったわ。


 おとうさまは、そのうみのきれいなくにの、いちばんえらいかたとおはなしするためにいかれるんだって。


 ここでまっていなさいって、あんないされたおへや。

 そこはこじんまりとしているけど、とってもきれいなの。

 まどからそとをみてみると、あおいものがひろがってみえたわ。


 ざざーっ ざざーっ。

 なんか、すながながれていくようなおとがきこえる。

 うるさくないけど、きいているとなんだかねむたくなってくる。

 ふしぎね。

 ひょっとして、これが〝うみ〟というものなの?

 おしろよりとってもひろいわ。

 きらきらひかっていて、すっごくきれい。


 せっかくだから、ひとりでみてみたい。

 〝うみ〟というものを、もっとまぢかでみてみたい。

 そんなきもちが、むねのなかでおおきくふくらんじゃった。


 だから、わたしはだめといわれていたけど、

 おへやをこっそりとぬけだして、いっかいにあるばるこにーから、そとをもういちどのぞいてみたの。


 すると、とつぜんつよいかぜがふいてきて、ぼうしがとばされてしまったの。


 たいへん。だいすきなおとうさまがくださったおぼうしなのに!


「ねぇまって!!」


 わたしはとばされたぼうしをとろうと、てをのばし、さくからみをのりだしたら、あっというまにしたへとまっさかさま!


 どっぽーん!!


 わたしはばるこにーのさくからおちてしまったの。おもったよりたかくなかったから、いたくなかった。

 うみのまぢかにおしろがたててあったことをおもいだしたけど、あらためておどろいちゃった。


 ほんとうにおしろのそばがうみだなんて!


 〝うみ〟におちてしまったわたしは、さいしょどうしたらいいのかよくわからなかったの。

 うみのみずはおもったよりあたたかかった。

 でも、おようふくきているからか、からだがとてもおもたいの。

 じっとしているとしずんでしまうから、てあしをばたばたと、うごかすしかなかった。


「だれかたすけてーっ!」


 こえをだしても、まわりにだれもいない。

 いきばもなく、ただじたばたとふゆうするあしがさびしくて、みょうにたよりなかったわ。


 だんだんつかれてきて、からだがしずみそうになったそのとき、とつぜんみずおとがして、だれかにうでをつかまれたの。


「だいじょうぶ?」


 きれいなおとこのこがひとり、わたしをみつけてくれたの。

 いろじろで、おひさまのひかりのようなきんいろのかみで、うみのような、あおみどりいろのめが、とてもきれいだった。

 でもなぜか、おなかからうえははだかで、おへそからしたはおさかなさんだったの。


「ぼくにつかまって。りくまでつれていってあげる」


 わたしはかれのせなかにてをまわしてしがみついた。

 かれはわたしがおちないように、りょううででしっかりだきよせてくれたの。


 とてもあたたかかったわ。


 かれはおなかのしたにあるあしのひれをうごかして、まっしろなしらはままでつれていってくれた。

 ほっぺたにあたるしぶきがちょっといたいのと、くちにはいったおみずがしょっぱかった。

 うみって、あまりのみたくないあじなのね。


「たすけてくれてどうもありがとう」

「きみはどこからきたの?」

「となりのくに。おとうさまがおしごとでときどききているから、あなたのおとうさまはしっているかも」

「そうなんだ。きみがさがしていたのこれでしょ?」


 かれは、そういってぼうしをてわたしてくれたの。

 おはなでかざられたきれいなぼうし。

 わたしのたいせつな、たからもの。


「うれしい! どうもありがとう」

「きみは……その……にんげんだろ? ぼくはにんぎょだからおよぐのはへいきだけど、きみはあぶないからきをつけて」

「にんぎょ?」

「きみはにんぎょをみるのは、はじめて?」


 しらないことだらけだったけど、かれはいろいろおしえてくれた。

 かれは、このくにのおうじさまだった。

 これがかれとのであいだったの。


 わたしはまたこのくににあそびにいきたかったけど、おとうさまはなかなかくびをたてにふってくれなかった。

 そうよね。いいつけをやぶってかってにおへやをでたし、うみでおぼれかけるようなむすめを、ゆるしてくれるおやはまずいないはず。

 しんぱいかけてごめんなさい。

 おとうさま。

 きれいにとかしてもらっていたくろいかみも、おようふくごとずぶぬれにしちゃって、ごめんなさい。

 わたしがわるいの。

 でも、このくにのおうさまからていあんされて、ようやくおとうさまはゆるしてくれるようになったの。よかった!


 このくににくると、わたしはかならずおうじさまといっしょにあそんだの。

 どこまでもつづくひろくて、おおきなすなはまをはしりまわったり、おおきないわかげでかくれんぼしたり。

 すこしはなれたところで、とものものたちがみはってくれていたけど、ふたりであそべるじかんは、とてもたのしかった。


 こんなひがずっとつづけばいいのに。

 おうじさまといっしょにいたい。

 わたしはそうおもうようになったわ。


 そんなあるひ、かれはわたしにやくそくしてくれたの。


「おとなになったら、きみをむかえにいくよ」


 わたしもかれのことが、だいすきだったから、とてもうれしかったわ。

 わたしがいくつになったらむかえにきてくれるのかしら。

 きっと、かれはかっこいいおうじさまになっているんじゃないかしら。

 むねがどきどきして、とてもいたかったわ。


 そのひから、ゆびおりかぞえてたのしみにしているの。おうじさまがわたしをむかえにきてくれるひを。


 はやく、おとなになりたい。 

 あのあおみどりいろをした、きれいなにんぎょのおうじさまにはやくあいたい──。

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