見世物小屋での出し物が終わったのか、少女二人がアーサーとアリオンの元に帰って来た。二人共大きな大根を一思いで引っこ抜いてきたような顔をしている。
「ねぇアーサー。今私達はどの辺りを歩いているんだ?」
「俺達は今丁度モナン街にいる。ラヴァン山脈の前あたりだな」
アーサーが手にしている広げた地図を、二人の少女達は覗き込み、彼が指差している部分を目で追っている。
二人共目がきらきら輝いていた。
「あれから一週間……随分南に来たわね。アルモリカ王国の領土も近いのかしら?」
「ああ。この道は久し振りだ」
レイアは地図から顔を上げ、アーサーに尋ねた。
前からずっと気になっていたことだ。
「そう言えばアーサーは、アルモリカ王国に行ったことあったっけ?」
「アルモリカ王国自体は初めてだが、ラヴァン山脈辺りならば行ったことがある。仕事の都合でな。確かここから先をゆくと、途中で夜中になって身動きがとれなくなる。丁度宿場町だから、今日はここで宿をとろう」
「賛成!!」
時間はまだ早いが、日が沈むのはあっという間だ。
暗くなると身動きがとれなくなる。
それに、早目に宿をおさえ、店に立ち寄り様々な情報を入手する時間を確保する方が良い。
アーサーはそう考えていた。
「あの建物はどうかしら?」
セレナが指差す先に、一軒の宿泊施設があった。
見た感じ、他の建物と違いはないが、両隣と真向かいに飲食店や土産を売る店がある。
「良さそうだ。行ってみよう」
四人はセレナが選んだ宿に入ってみることにした。
その宿は木でできた、落ち着く雰囲気の建物だった。
にぎやかな声があちらこちらで聞こえてくる。
中には土産ものを売っている小売店もあり、きっと人気な宿なのだろう。
泊まれると良いが。
受け付けと思われる場所に、大柄で人の良さそうな中年女性が一人立っていた。
そこへアーサーは近付き、声をかけた。
「急にすまない。今日一泊したいのだが、空いている部屋はあるだろうか?」
「何人だい?」
「四人だ。出来れば男二人女二人で二部屋お願いしたい」
「空いてるよ。つい先程空きが出てね。お客さんついてるねぇ!」
「じゃあ、宜しく頼む」
台帳の記入やら支払いやら手続きをとるアーサーに、傍で見ていたアリオンは少し動揺していた。
「どうした?」
「いや……君に全部任せっきりで申し訳無い」
「俺が好きでやっていることだから、気にしないでくれ」
「とは言っても……」
「気にしないで。アーサーは根っからの世話好きなのよ。あと、あなたに何かしてあげたいんじゃないかな。好きにさせてあげて」
手続きを終えたアーサーは部屋の鍵の片方をセレナに手渡した。
「よし。今晩の寝る場所確保成功! 部屋はもう入れるそうだから、各自一旦荷物を置きに行こうか」
「賛成!!」
四人は今日の宿泊先の奥へと、吸い込まれて行った。